エボラウイルス病-コンゴ民主共和国(更新32)

Disease outbreak news:更新  2019年7月25日

コンゴ民主共和国の北キブ州(Kivu)とイトゥリ州(Ituri)におけるエボラウイルス病のアウトブレイクは、現在も複雑な危機が続いていて、我々は長引く局地的な感染伝播と多数の症例を観測し続けています。中でも注目すべきは、過去3週間で報告された全新規症例の半数以上がベニ(Beni)保健区域で占められていて、同地区から多数の症例および接触者が他の保健区域に移動していることです。これはベニ保健区域におけるアウトブレイクの第二波であり、症例数、期間ともに初回より甚大です。アウトブレイクの第一波の間に複数の機関が十分な感染予防と制御を実施したにも関わらず、ベニやその他の影響を受けた保健区域から新規の医療従事者間の感染や院内感染の報告が続いています。現在までに合計141人(全症例の5%)が報告されています。

7月14日にゴマ(Goma)に移動してきた確定例( 18 July Disease Outbreak News参照)と接触者の集中的なフォローアップは21日間継続されます。本症例に対応して、19人の医療従事者がサポートのためにその他の部署からゴマへと配置されました。南キブのブカブ(Bukavu)に移動した、その患者の接触者についての風説は対応チームによって調査され、感染の可能性は除外されました。これまでにゴマからの新規症例の報告はありません。現在のところ、コンゴ民主共和国内以外でエボラウイルス病確定例は存在しません。

今週前半、コンゴ民主共和国におけるエボラウイルス病アウトブレイク制御のための「戦略的対応計画4」の最初の柱が、対応活動に携わるパートナー機関の国際コンソーシアムの協力のもと、コンゴ民主共和国の保健省より共有されました。最初の柱は、アウトブレイクに対する中核的な公衆衛生上の取り組みを網羅しています。その他の計画の柱は最終化の途中で、順次発表される予定です。

2019年7月3日から23日までの21日間で、18の保健区域のうち64の保健地域が新規症例を報告し、北キブ州とイトゥリ州内の664の保健地域のうち10%を占めています(図2)。この期間中、合計242人の確定例が報告され、その内大部分はベニ(53%, n=129)、マンディマ(Mandima)(11%, n=26)、マバラコ(Mabalako)(10%, n=23)、カトワ(Katwa)(7%, n=17)の保健区域のものです(表1)。2019年7月23日の時点で、2518人の確定例と94人の高度疑い例を含む、合計2612人のエボラウイルス病症例、その内1756人の死亡(全体の症例死亡率67%)が報告されました。確定例と高度疑い例全てのうち、56%(1470人)は女性で、29%(744人)は18歳未満の小児でした。ブニア(Bunia)、キョンド(Kyondo)、ミュジャンエーネ(Musienene)の保健区域では現在全て、最後に報告された症例が21日間のフォローアップを終えました。しかしながらこれらの地域へのウイルス再導入の高いリスクが残っており、対応チームは引き続き十分な物資と注意が必要です。

図1:2019年7月23日時点の保健区域別エボラウイルス病の発症週ごとの確定例及び高度疑い例のデータ*


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*ここ数週間のデータは、症例の確認と報告、継続的なデータクリーニングが遅れることがあります。その他の保健区域にはアリムボンゴ(Alimbongo)、アリワラ(Ariwara)、ビエナ(Biena)、ブニア、ゴマ、カルングタ(Kalunguta)、カイナ(Kayna)、コマンダ(Komanda)、キョンド、ルベロ(Lubero)、マングルジパ(Mangurujipa)、マセレカ(Masereka)、ムトワンガ(Mutwanga)、ニャンクンデ(Nyankunde)、オイチャ(Oicha)、ルワンパラ(Rwampara)、チョミア(Tchomia)が含まれます。

図2:2019年7月23日時点の保健区域別エボラウイルス病の発症週ごとの確定例及び高度疑い例のデータ*


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表1;2019年7月23日時点のコンゴ民主共和国北キブ州とイトゥリ州における保健区域別のエボラウイルス病の確定例と高度疑い例、被害を受けた保健地域の数**


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**過去21日発生した症例と被災した地域は最初の症例警報の日付に基づいており、確定日及び保健省による毎日の報告とは異なる場合があります。

公衆衛生上の取り組み

保健省、WHO、パートナーによる公衆衛生上の取り組みに関する詳細については、WHOアフリカ地域事務局が発表した最新の状況報告をご参照ください。
エボラ状況報告書:コンゴ民主共和国

WHOによるリスク評価

WHOは疫学的状況の変化とアウトブレイクの状況を継続的に監視して、対応への支援が進展する状況に適応していることを確実なものにします。直近の評価では国内および地域でのリスクレベルは非常に高いままで、国際的なリスクレベルは低いままであると結論づけられました。

北キブ州とイトゥリ州のアウトブレイクを受けた地域内では、ここ数カ月の間に認められた新たな(リスクの高い)地域への、あるいは国境を越えた感染拡大(拡大先での長引く局地的な感染伝播はありませんでしたが)を含め、かなりの感染伝播が継続しています。地域社会の中で死亡症例の割合が高いこと、サーベイランス下で接触者が明らかにされている新規症例の割合が低いこと、院内感染に関連した感染伝播の連鎖の存在、検出と隔離の持続的な遅延、政情不安定やコミュニティの非協力のためにコミュニティへのアクセスに問題があることは、影響を受けた全てのコミュニティにおける感染伝播のさらなる連鎖の可能性を増加させる要素となります。アウトブレイク対応を行っている主な地域内での非国家武装集団の活動の再開により、治安情勢は影響を受けています。活動が活発化している民主同盟軍(ADF)も、オイチャとエレンゲティ(Erengeti)の両地域においてベニ北東部のコンゴ民主共和国政府軍(FARDC)との持続的な衝突を引き起こしています。スタッフの安全、治安、活動の継続を確保するために、作業を行う地域は継続的に厳重な監視、評価、治安の緩和策が実施されています。現在のアウトブレイクの長期化、対応スタッフの疲労、限られた物資や資金面での負担の持続により、新たなリスクも発生しています。
上述のリスクは、アウトブレイクが起きた地域からコンゴ民主共和国のその他の地域、および(セキュリティの)穴だらけの国境を越えた近隣諸国への頻繁な人口移動と併せて、コンゴ民主共和国と近隣諸国の両方における地理的拡大のリスクを高めます。反対に、近隣諸国におけるアウトブレイク対応体制の整備と準備活動は、症例を迅速に検出して地域への感染拡大を軽減する能力を高めてきました。これらの活動は継続して拡大しなければなりません。

WHOによるアドバイス

2019年7月17日に、WHO事務局長はコンゴ民主共和国内でのエボラのアウトブレイクの状況を再評価するために、国際保健規則(IHR)の下で緊急委員会を招集しました。緊急委員会は本アウトブレイクを国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(Public Health Emergency of International Concern;PHEIC)とみなすと勧告し、事務局長はこれを認めました。緊急委員会により暫定的に推奨される助言を含むさらなる情報が、声明WHO事務局長のスピーチニュースリリースから利用可能です。

WHOは現在入手可能な情報に基づき、コンゴ民主共和国への渡航や貿易に対していかなる制限も行わないよう勧告します。現在のところ、エボラウイルスから人々を守るワクチンは認可されていません。したがって、国境を越えた移動や、影響を受けた国への/国からの渡航者にビザ発給の制限の基準として、エボラワクチンの接種証明書を要求することは合理的でありません。WHOは厳重な監視を継続し、必要であれば今回の事象に関連した渡航と貿易の措置を検証します。現在、コンゴ民主共和国との国際交通を著しく妨害するような渡航対策を実施している国はありません。渡航者は渡航前に医師の診察を受けるべきであり、良い衛生習慣を実践すべきです。さらなる情報はコンゴ民主共和国におけるエボラウイルス病アウトブレイクに関連した国際交通に対するWHOの推奨で利用可能です。

さらなる情報はこちらをご覧ください。

出典

Ebola virus disease – Democratic Republic of the Congo
Disease Outbreak News: 25 July 2019
https://www.who.int/csr/don/25-july-2019-ebola-drc/en/

 

翻訳

WHO健康開発総合研究センター
https://extranet.who.int/kobe_centre/ja