回帰熱

流行地

回帰熱には、ダニが媒介するものとシラミが媒介するものがあり、ダニ媒介回帰熱はアフリカ大陸、イベリア半島(とくに地中海地域)、中央アジア、中東の一部、インド、中国、アメリカ大陸など非常に広い範囲で分布し、シラミ媒介回帰熱はエチオピア、スーダン、ソマリアなどアフリカ大陸の高地、インド、アンデス山地などで見られます。

感染経路

ダニ媒介回帰熱の場合、媒介するヒメダニ(5-15mm)が刺咬時に唾液を介して、あるいは刺咬部位を分泌物で汚染することで感染します。シラミ媒介回帰熱の場合、媒介するコロモジラミを皮膚上で押しつぶした際に、傷口や粘膜からコロモジラミの体液が侵入することで感染します

潜伏期

いずれの回帰熱も2-17日(平均7日)

症状

ダニ媒介回帰熱とシラミ媒介回帰熱の臨床症状は似ていますが、一般にシラミ媒介回帰熱のほうがより重篤な臨床症状を示します。典型的な症状は、突然の悪寒、発熱(40℃台)、頭痛、関節痛、結膜充血で発症し、消化器症状、中枢神経症状などがそれに続きます。肝臓腫大、脾臓腫大、出血、黄疸などが見られることもあります。この有熱期が5-7日持続したのち解熱しますが、患者の3人に2人は7日ほどの無熱期を経て、再び有熱期を迎えます。(このことから回帰熱という病名がついています。)2回目以降の有熱期は短く、熱の程度も軽くなります。これを繰り返したのち、最終的に解熱します。また、妊婦が感染した場合は、低出生体重児や早期産、自然流産のリスクが高まります。致死率は、ダニ媒介回帰熱では10%以下ですが、シラミ媒介回帰熱では50%にまで達することがあります。

治療法

いずれの回帰熱に対しても、抗生物質(テトラサイクリン系、ペニシリンなど)が有効です。ただし、抗生物質の初回投与後数時間以内に悪寒や震えが生じ、その後ショックから死亡に至ることもあるので、注意が必要です。この反応は、ダニ媒介回帰熱の場合は30-40%、シラミ媒介回帰熱の場合は80-90%の症例で生じるといわれています。

予防等

ダニ、シラミとの接触を避けることが基本です。長袖長ズボンの着用やDEETを含んだダニ忌避剤の塗布を心がけましょう。また、就寝時には蚊帳を使用するのも効果的です。

【ひとくちメモ】
ダニと呼ばれるものには、マダニ(tick)とダニ(mite)とがあります。このうち、重篤な感染症を媒介するのはほとんどがマダニであり、いったん皮膚に吸着すると数日間にわたって吸血し続けるのが特徴です。このため、刺咬部にダニがいなければマダニではないと考えるのが一般的です。ダニ媒介回帰熱を媒介するヒメダニ(soft tick)は、就眠中に短時間(通常は1時間以内)だけ皮膚に吸着することが多く、中には局所麻酔作用のある物質を分泌することで咬まれたことに気付かれないようにするダニも存在するので、注意が必要です。