狂犬病

流行地

人畜共通感染症のひとつで、WHOの推計によると世界で毎年5万5千人の患者が死亡しています。インドや中国などアジアでの発生が大部分ですが、アフリカ、ヨーロッパ、北米・中南米など全世界でみられます。現在、狂犬病の発生がない国は、ノルウェー、スウェーデン、アイスランド、イギリス、アイルランド、オーストラリア、ニュージーランド、台湾、日本、グアム、ハワイ、フィジー諸島のみとなっています。
1957年以降国内発生はみられませんが、1970年にネパールからの帰国者1名と2006年にフィリピンからの帰国者2名が現地でイヌに咬まれて帰国後死亡した事例があります。

感染経路

主な病原体は狂犬病ウイルスで、ウイルスを保有するイヌ、ネコおよびコウモリを含む野生動物に咬まれたり、引っ掻かれたりしてできた傷口からのウイルスが侵入することで感染します。アジアやアフリカでは野犬、ヨーロッパではキツネなど、北米・中南米ではキツネ、スカンク、アライグマ、コウモリなど多くの動物(一部ペットも)が主な感染源となっています。
ヒト-ヒト直接感染はみられませんが、角膜移植による感染の報告例もあります。

潜伏期

通常は1~3ヶ月です。

症状

発熱、頭痛、倦怠感、筋肉痛、疲労感といった風邪のような症状ではじまり、咬まれた部位の痛みや知覚異常を伴います。興奮や不安状態、錯乱・幻覚、攻撃的状態、水を怖がるなどの脳炎症状を呈し、最終的には昏睡から呼吸停止で死亡します。発症するとほぼ100%死亡する危険な病気です。

治療法

動物にかまれたら、まず傷口を流水と石鹸でよく洗い出し、すぐに医療機関を受診してください。複数回のワクチン接種(暴露後接種)により、発症を予防することが可能です。

予防等

狂犬病ワクチン予防接種が有効です。野生動物と接触する機会がある場合や医療機関が近くにない地域へ旅行される方には、渡航前の予防接種(暴露前接種)をお薦めします。野生動物には近寄らないよう注意しましょう。

動物と接触した場合

接触状況によって処置が異なりますので、自己判断せずに、医療機関で相談して下さい。
参考:WHOが定めた基準(下表)。

動物との接触状況処置方法
触れた、餌を与えた
傷のない皮膚をなめられた
処置必要なし
直接皮膚をかじられた(甘咬みを含む)
出血を伴わない引っ掻き傷やすり傷
直ちにワクチン接種を開始する
ただし、10日間動物が健康であった場合は中止可能
1ヶ所以上の咬傷や引っ掻き傷
粘膜をなめられた
傷のある皮膚をなめられた
直ちに狂犬病ガンマグロブリン(*)とワクチン接種を開始する
ただし、10日間動物が健康であった場合は中止可能

(*)日本では、狂犬病ガンマグロブリン(RIG)の製造・輸入を行っていないので入手困難

暴露後接種スケジュール

曝露後接種とは、狂犬病発症動物や、狂犬病が疑われる動物に咬まれたり、その唾液に接触した場合に、発症予防のため受傷後に行う予防接種のことです。できるだけ早く接種を開始する必要があります。
基本的な接種方法は、初回接種日を0日として、以降3、7、 14、30、90日の計6回の接種を行います。(日本方式)
*WHO方式:初回接種日を0日として、以降3、7、14、30日の計5回接種
曝露後ワクチンについては、Ravipurというワクチンが日本製と同系列のワクチンです。

その他の注意事項

動物に咬まれた場合、破傷風の危険もありますので、過去の予防接種歴に応じた破傷風ワクチンの接種を考慮する必要があります。医療機関で相談して下さい。
【破傷風について】
創傷部位から破傷風菌の芽胞が体内に侵入し感染する病気です。破傷風菌は世界中の土壌に広く分布しています。転倒や事故、土いじりによる受傷部位からの感染が多いと言われていますが、極めて些細な創傷部位からでも感染することがあります。