海外感染症情報 (NO.22)
平成22年4月6日
関西空港検疫所
パンデミック・インフルエンザ(H1N1)の流行状況について(2)

2010326日――2010321日までに、213カ国以上の国々や地域でのH1N1新型インフルエンザ確定例(少なくとも16931例の死亡例を含む)が報告された。

新型インフルエンザウイルス感染の最も活動の高い地域は東南アジアの一部、西アフリカ、南北アメリカの熱帯地域である。タイではここ2か月間に新型インフル感染が持続的していたが、その後全体的な活動性は弱まっていくようだ。西アフリカでは、データは少ないが、活動のピークを迎えたという明らかな証拠はないまま、新型インフルエンザウイルス感染の活動性は続くと推測されている。中米と南アメリカの熱帯地域では、新型インフルエンザウイルスの蔓延と関連した呼吸器疾患の活動性の増加傾向が各国から報告されており、これは3月初旬から増加している。新型インフルエンザウイルスは、優勢なインフルエンザウイルスとして世界的に蔓延しているが、季節性インフルエンザウイルスB型は東アジアで優位であり、低レベルではあるが東南アジア、西アジア、東アフリカ、ヨーロッパの一部の地域で検出されている。

東南アジアでは、タイで2月中旬から新型インフルエンザウイルス感染が続き、地理的にも広がった。マレーシアでは3月初旬から新型インフルエンザの感染が拡大した。タイでは、全体的な呼吸器疾患の活動の強さは、低いもしくは中程度と報告されているが、現在活動性は3月中旬よりさらに弱まっていくようだ。インフルエンザ様疾患を呈する患者からとった定点の呼吸器検体での新型インフルエンザ陽性率は、最新週の報告で10-22%であった。マレーシアでは、データは少ないが、ここ2週間の新型インフルエンザ症例の検出は増加している。しかし、疾患の拡がりや重症度は現在のところわかっていない。タイや東南アジアのその他の地域で、季節性インフルエンザウイルスB型が検体数は少ないが依然分離されている。

南アジアでは、新型インフルエンザウイルスの感染は亜大陸の間で多様である。バングラデシュでは、2月下旬から呼吸器疾患の活動性が増加傾向にあり、新型インフルエンザ症例の検出が増加している。しかし、全体的な疾患の活動性は低いままである。インドでは、全体的な新型インフルエンザの活動性は低いままだが、西インドでは新型インフルエンザ症例の報告が続いている。

東アジアでは、新型インフルエンザウイルスの感染は大幅に減少した。インフルエンザ様疾患/急性呼吸器感染症の発生率は、日本と大韓民国で基準値近くまで戻った。しかし中国では、新型インフルエンザウイルスの蔓延は大幅に減ったが、季節性インフルエンザウイルスB型の蔓延が続いており依然として活動的である(ここ数週間に分離したインフルエンザウイルスのうちの約85%を占めている)。同様にモンゴルでは、200911月に新型インフルエンザウイルスの蔓延により、インフルエンザ様疾患(ILI)の第一のピークがあった。その後20102月末から3月初旬までの間に、季節性インフルエンザウイルスB型の蔓延によるインフルエンザ様疾患の第2の鋭いピークがあった。全体的なインフルエンザの活動性は、香港、台北、朝鮮民主主義人民共和国では依然として低いままである。

サハラ砂漠以南のアフリカでは、新型インフルエンザの活動性は多様である。データは少ないが、最も新型インフルウイルス感染の活動性が高い地域は西アフリカと東アフリカの一部、特にルワンダである。ガーナでの呼吸器疾患の検体の27%と、ルワンダでの検体の47%が、3月中旬に、新型インフルエンザウイルス陽性だった。セネガルでは、呼吸器疾患の活動性が高く、新型インフルエンザウイルスの検出と関連して増加している。新型インフルエンザウイルスは、依然として西アフリカと東アフリカに蔓延する優勢ウイルスとなっているが、季節性インフルエンザウイルスH3N2とB型も少数ではあるが確認されている。

南北アメリカの熱帯地域では、全体的なインフルエンザの活動性は低いままだが、新型インフルエンザウイルスの感染は、特に中央アメリカと南アメリカの一部の地域で増加傾向にある。グアテマラ、ニカラグア、エルサルバドル、パナマでは、呼吸器疾患の活動性は増加傾向にあり、これは新型インフルエンザウイルスの検出と関連があると報告されている。ブラジルでは、呼吸器疾患の活動性が3週間連続で増加しており、このことは新型インフルエンザウイルスが地域で拡大していることと関連している。ブラジル北部の3つの州では、検査確定症例の増加を報告した。しかし、症例の拡がりや重症度はまだ不明である。メキシコでは、インフルエンザ様疾患と 重症急性呼吸器感染症が2月末と3月初旬の2週間連続で増加 (1週あたり11-14)したと報告された。しかし、呼吸器疾患の活動が新型インフルエンザウイルスによるものかどうかはまだわからない。

ヨーロッパでは、ほとんどの国で全体的な新型インフルエンザウイルスの感染は減少しつづけているかもしくは低いままである。ドイツ、イタリア、ロシア連邦での定点検体の20%以上はインフルエンザ陽性だった。しかしこれらの定点検出インフルエンザウイルスの増加と、全体的な急性呼吸器疾患の発生率の増加との間に有意な関連性はなかった。イタリアとロシア連邦では、季節性インフルエンザウイルスB型は優勢な、もしくは新型インフルエンザと共に優勢なウイルスだった。ルーマニアとポーランドでは、インフルエンザ様疾患や急性呼吸器疾患の発生率は最近増加しているが、新型インフルエンザウイルスや他のインフルエンザウイルスの増加との関連はなかった。

(平成22年3月26日 WHO情報)