海外感染症情報 (NO.32)
平成22年4月13日
関西空港検疫所
パンデミック・インフルエンザ(H1N1)の流行状況について(4)

201044日現在、世界中213以上の国や地域から、少なくとも17,700人の死亡例を含む、新型インフルエンザの確定症例が報告されています。

現在の状況は前回の更新(海外感染症情報No.28参照)と大きく変わっていません。最も流行している地域は東南アジアの一部、西アフリカ、アメリカ大陸の熱帯地域です。チリでは、通常南半球の冬季のインフルエンザシーズンが始まるより早く、新型インフルエンザウイルスによる感染がおこっています。季節性のB型インフルエンザは、東アジアで感染が活発に続いていますが、アジアの他の地域やヨーロッパでも低い水準で検出されています。

東南アジアでは、タイで新型インフルエンザの感染が続いていますが、2月下旬のピーク時から実質的な活動性は低下してきています。最近の報告では、インフルエンザ様疾患の外来患者の検体のうちの6.7%、肺炎で入院した患者のうちの16%で新型インフルエンザが陽性でした。低い水準で季節性インフルエンザのH3N2型とB型ウイルスも検出されています。マレーシアでは、新型インフルエンザの新たな検出例が少なくなってきていることから、新型インフルエンザの活動性は低下してきているだろうと推測されています。インドネシアでは、季節性インフルエンザH3N2ウイルスの活動は低下してきています。

南アジアで新型インフルエンザの活動が活発なところはバングラデシュで、2月末から症例数の検出が増加しています。その他の地域では、西インドで低水準ですが新型インフルエンザウイルスの蔓延が続いていますが、全体的な活動性は低いままです。

東アジアでは、多くの地域で新型インフルエンザウイルスの蔓延はとても低い水準で続いており、呼吸器疾患の罹患率も低いままです。中国では、インフルエンザ様疾患の割合は通常のシーズンの予想値程度ですが、最近は季節性のB型インフルエンザウイルスが蔓延しています(インフルエンザ検体の90%以上)。モンゴルでは、インフルエンザ様疾患の割合は、季節性のB型インフルエンザウイルスによる最近のピーク後からは減り続けています。韓国、香港、台湾では、全体的なインフルエンザ様疾患の割合やインフルエンザウイルスの検出は低いままですが、ここ最近検出されているウイルスで増えてきているのは、季節性のB型インフルエンザウイルスです。

サハラ砂漠以南のアフリカでは、西アフリカ、西-中央アフリカ、東アフリカの限られた地域で新型インフルエンザウイルスの蔓延が続いています。3月初旬から中旬の間に、コートジボアールとガーナで採られた検体の23%がインフルエンザ陽性でした(多くは新型インフルエンザウイルスでした)。セネガルでは、新型インフルエンザの感染はいまだ活動的ですが、採取した検体のうち新型インフルエンザ陽性の割合が、2月初旬のピーク時の67%から、最近は17%まで下がっていることから、これから活動が低下することが予想されます。カメルーンでは、ここ2週間の検体のうち38%34検体中13検体)がインフルエンザ陽性でした。そのうち71%が新型インフルエンザウイルスで、29%が季節性のB型インフルエンザウイルスでした。新型インフルエンザの感染が活動的な地域は、東アフリカのルワンダとタンザニアです。新型インフルエンザウイルスは西アフリカと東アフリカに蔓延する優勢なインフルエンザウイルスですが、季節性のH3N2型が少ないですが検出されています。

ヨーロッパでは、一部の地域で低いレベルではありますが新型インフルエンザウイルスが蔓延し続けています。検体のうちインフルエンザ陽性となる割合は低いままです(6.2%)が、最近ではB型インフルエンザウイルスの検出数は新型インフルエンザウイルスの検出数を超えています。イタリアでは、検体の31%29検体中9検体)がインフルエンザ陽性で、すべてB型インフルエンザウイルスでした。多くの国々では呼吸器疾患の活動性は低く、グルジアのみがインフルエンザの活動性が高い状態です。

アメリカ大陸の熱帯地域では、インフルエンザの活動性は全体としては低いままですが、地域差があり例えば、キューバ、グアテマラ、ペルー、ボリビアを含むいくつかの国々では活発な感染がみられています。これらの国々のここ数週間の報告では、地域的なインフルエンザの感染拡大により呼吸器疾患の割合が増加傾向にあります。メキシコでは、3月にいくつかの州で地域的な新型インフルエンザの感染が続いています。特に連邦地域の一部で最近新型インフルエンザ感染による死者や感染者数が増えています。ブラジルでは多くの地域で、ここ1ヶ月のインフルエンザ様疾患の割合が増えてきています。しかし新型インフルエンザの感染による重症例や死亡例は北部の地域からのみです。

アメリカ大陸の北部の温帯地域では、新型インフルエンザの活動性は低いままで、ウイルスもかなり低いレベルでのみ蔓延しています。アメリカでは、インフルエンザ様疾患の全体数は基準値以下で、南西部では地域の基準値をわずかに超えています(しかしこの地域的な上昇はインフルエンザウイルスの検出とは関連がありません)。アメリカで最も感染が活発なところは南西部の3つの州で、新型インフルエンザの地域的な感染が見られます。

南半球の温帯地域では、全体的なインフルエンザの活動性は低いままで、散発的に新型もしくは季節性インフルエンザウイルスが検出されています。チリでは、少なくとも3つの地域でここ2週間の間に、重症例を含む新型インフルエンザウイルスの新たな検出が報告されました。この早期の新型インフルエンザウイルスの蔓延が、通常の冬季のインフルエンザシーズンより早く始まった理由はまだわかりません。

季節性のH3N2型が、アジア、アフリカ、オーストラリア、アメリカ大陸で散発的に検出され続けていますが、H3N2型が最も流行しているのはインドネシアです。

(平成22年4月9日 WHO情報)