海外感染症情報 (NO.73)
平成25年6月4日
関西空港検疫所
イスラエルで環境からポリオウイルスの分離
 2013年6月3日 イスラエルは同国南部のラハトで本年の4月9日に下水から野生株のⅠ型ポリオウイルスを分離同定しましたが麻痺性ポリオの患者の発生は認めていません。どこからもたらされたものなのかを調べるため、遺伝子の解析と疫学調査を実施中です。予備的な解析結果ではアフリカの角と呼ばれている地域で最近流行しているウイルスとは関連がないようです。今回ウイルスはイスラエルで通常環境調査の一環として実施されている下水調査で分離されたものです。イスラエルは1988年から土着の野生株ポリオウイルスは認めていませんでした。同地域での野生株ポリオウイルスの環境からの分離は1991年~2002年にかけてみとめていますが麻痺性ポリオの患者発生は認めていませんでした。

 野生株ポリオウイルスが分離されたことを受けてイスラエルの専門家は環境と保健調査を実施中であり、すべてのワクチン未接種者や麻痺性ポリオの可能性例を探しています。ワクチン接種者の割合は94%程度とみられています。この調査結果からすると必要に応じて何らかの追加接種が必要であるということになるようです。ガザとウエストバンク(ヨルダン川西岸地区)においても同様の対策が実施されています。2002年以来の同様の環境サーベイランスが実施されてきましたが検体から野生株のポリオウイルスが分離されたことはありません。同地区ではワクチン接種率が高いこと調査と対策が実施されていることから世界保健機関(WHO)はイスラエルからこのウイルス株が国際間で拡がる可能性は低度~中等度と評価しています。

 ポリオ発生国との旅行や、交易が頻繁である国では新たなポリオウイルスの侵入を発見し、対策を講じるために急性の弛緩性麻痺の患者についての強化サーベイランスを実施することが大切です。追加接種の指標にするべく、また結果として新たにウイルスがもたらされるのを最小限にくいとめるために、国内における免疫獲得率の地域差を分析把握することが大切です。病原体を輸入する可能性の高い地域及び経口ポリオ3価ワクチン/3種混合3回の接種率が80%未満の地域は優先的に実施されるべきです。

 WHOの海外旅行と健康ではポリオ発生地域を往来するすべての旅行者はポリオに対する十分なワクチン接種を推奨しています。野生株ポリオが地域流行をしている3か国は残存しています。ナイジェリア、パキスタン、アフガニスタンです。さらに2013年にはアフリカの角と呼ばれる地域で野生株ポリオの発生があり、ケニヤとソマリアで6例の発生を認めています。
(2013年6月3日 WHO報告)