(No.15)

米国とカナダにおけるソウルウイルス感染症
2017年2月20日更新

 2017年1月24日、米国疾病予防管理センター(CDC)はHealth Alert Network(HAN)の発出をとおして、8人のソウルウイルス感染者(ウイスコンシン州:2人、イリノイ州:6人)を報告しました。ウイスコンシン州の2人の感染者は2016年12月上旬に報告されましたが、ウイスコンシン州において家庭内でペットとしてネズミを飼育しており、急性の熱性疾患で発症し、その後ソウルウイルス感染症であることが確認されました。また、ある複数の施設のドブネズミについてソウルウイルスが検査で陽性であることが判明しました。ソウルウイルスのヒト感染は米国では必ずしもよく見られるものではありません(このウイルス属は、疾病の原因となりうる、米国でもっともよく見られるハンタウイルスであるSin Nombreウイルスを含みます)。
今回の事象は、米国において初めてとなる、ペットのネズミに関連した例になります。
 これまでのところ、合計11人がウイスコンシン州、イリノイ州、コロラド州において感染しました。そのうち2人が入院しました。ソウルウイルス感染症は、同時にウイスコンシン州、イリノイ州、ミネソタ州のペット用ネズミの飼育場のネズミにおいて確認されています。追跡調査により、感染している可能性のある
ネズミは、アラバマ州、アーカンソー州、コロラド州、イリノイ州、インディアナ州、アイオワ州、ルイジアナ州、ミシガン州、ミネソタ州、ミズーリ州、ノースダコタ州、サウスカロライナ州、テネシー州、ユタ州、ウイスコンシン州に拡散している可能性が示唆されています。これまでの全ての調査によって、汚染された飼育施設は、ペットのネズミのものに限定されていることが示唆されました。これらのうちどのネズミも研究施設には供給されておりません。
 それに加え、米国CDCとカナダの保健当局は、米国とカナダの間ではネズミの取引があったことを指摘しています。カナダの国際保健規則(IHR)担当窓口は、2017年の2月10日、現在調査中となっているカナダにあるネズミの飼育施設から米国へ輸出が行われ、同時に米国の汚染された施設から輸入が行われていたことを報告しました。2017年10月現在、ソウルウイルス、プーマラウイルス、ドブラバウイルスを含む腎症候性出血熱(HFRS)を引き起こすハンタウイルス群に関して、3人のヒト陽性例がカナダにおいて血清検査によって特定されました。これらの感染者において重篤な症状は報告されておりません。これらの感染者のうち2人はネズミを飼育しており、3人目の感染者はネズミとの接触歴がありました。更なる検査とウイルスの
特徴を明らかにする作業が現在進められています。また、更なる疫学調査とネズミの検査が計画されています。

公衆衛生上の取り組み
米国およびカナダの保健当局は、アウトブレイクに対応するために以下の措置を実施しています。
○カナダ
・人への感染を裏付けるための臨床試験実施やウイルスの特定
・関連するペット飼育施設の評価
・ラットの疫学調査と検査の実施
○米国
・米国CDCと同国保健当局が協力してアウトブレイク調査を実施
・影響のあったラット飼育施設におけるラットの殺処分
・アウトブレイク検出前のラット輸出入に関する調査

ソウルウイルスに関する情報
 ソウルウイルスはハンタウイルスの一種で、感染した齧歯類のエアロゾル化した尿、糞、唾液やラットの巣や寝床の埃から人に感染します。また、咬傷により皮膚や粘膜内に直接ウイルスが侵入して感染することもあります。自然宿主はノルウェーラット(Rattus norvegicus)および黒ラット(Rattus rattus)です。世界中に生息するペットおよび野生の両方に存在しています。潜伏期間は1~8週間と言われていますが、ほとんどの人は曝露後1~2週間以内に症状が出現します。同ウイルス感染症の症状は軽症から重症まで様々で、重篤な場合は出血性腎症候群を引き起こします。不顕性感染も起こりえます。ヒト-ヒト感染はありません。特異的な治療法もありません。

WHOのリスク評価
 HFRSはソウルウイルスによる重症感染症です。同ウイルスによるHFRSの致死率は1~2%です。これまでに米国で報告された11例のうち、2人が入院していますが、死亡例はありません。
カナダにおけるHFRS患者3人については現在調査中ですが、米国でのアウトブレイクに関連する疫学的証拠がいくつかあります。米国とカナダ以外における感染ラットの分布に関して入手可能な情報はありません。
ラットは同ウイルスに感染しても症状は呈しません。一旦感染すると、生涯を通じて他のラットや人に潜在的に感染し続けます。米国CDCは他州の保健当局と協力して、ペットのラットや人へのアウトブレイクに関して、同ウイルスに感染している可能性のあるラットの船や陸路での流通の追跡を実施し、ペットの流通においてどのようにウイルスが侵入したのかを解明し、他のラットや人への感染を防止するために調査を実施しています。同ウイルス感染に対する効果的な治療法は見つかっていないため、感染予防が重要となります。もし、感染した齧歯類が土着ラットと接触したら、ウイルス感染は未感染の齧歯類へも拡大し、結果的に人畜共通感染症として齧歯類と人の両方で有病率に変化が生じます。

WHOからのアドバイス
 国際間におけるペットの取引は、人における新興・再興感染症を引き起こし拡大させる可能性を秘めています。WHOは締約国に対して、ウイルスを検出する能力の開発と維持、類似症例の報告を推奨しています。