(No.64)

スリランカのデング熱
7月21日更新

 2017年1月1日から7月7日にかけて、スリランカ保健省疫学ユニットは、215人の死亡例を含む80,732人のデング熱症例を報告しました。これは、2010年から2016年の間の同時期の平均症例数の4.3倍も高く、毎月の症例数は過去の6ヶ月の平均に3標準偏差を加えた数値を超えています。過去の7年間の定点サーベイランスに基づいて予想される5月から7月のピーク月が4月後半に始まる南西のモンスーン期に一致しています。
 おおよそ43%のデング熱症例が西部州から報告されており、最も報告数が多く流行している地域は、コロンボ(18,186)、ガンパハ(12,121)、クルネガラ(4,889)、カルタラ(4,589)、バッティカロア(3,946)、ラトゥナプラ(3,898)、キャンディ(3,853)となっています。検査の予備的報告では今回のアウトブレイクで循環している血清型Ⅱのデングウイルス(DENV-2)が同定されています。スリランカでは4種すべてのデングウイルスが同時に30年以上循環していますがⅡ型は2009年以後まれにしか見つかっていませんでした。
 現在流行中のデング熱のアウトブレイクについては多量の降雨と洪水が関係しており、スリランカの25県のうち15県で発生しており、約600,000人が感染しています。重度のモンスーンによる降雨、雨で濡れたゴミの未処理、排水されない水たまり、その他蚊の幼虫の生育に適した素地が都市および、郊外における多数の患者発生に寄与しています。

公衆衛生上の取り組み
 世界保健機関(WHO)は有効で包括的な衛生対策及び以下に記載したような対策が確保できるようにスリランカの保健省をサポートしています。

・保健省は、医療機関での患者受け入れ能力の限界を超えたため増床のためのサポートを軍部に要請し、コロ
 ンボから北38kmにある病院に3つの臨時病棟が設置されました。
・ 国防軍の動員によりサポートされた媒介蚊のコントロールを含む緊急対策が保健省により実施されまし
 た。陸軍、警察、国防軍は医療スタッフとともにハイリスクの地域で戸別訪問を実施するために動員されま
 した。加えてゴミの処理、媒介蚊の繁殖地の除去、また衛生教育活動をするため地域に動員されました。
・東南アジア地域担当事務局(SEARO)は対策の舵取りをするために専門調査団を立ち上げました。
・WHOとSEAROは疫学者、昆虫学者およびデング熱/デング出血熱患者治療についてのWHOの協力研究機関
 (シリキット国家児童衛生研究所:タイ)及びタイ公衆衛生省から2人のデング熱の専門家を派遣しまし
 た。医療機関における患者のよりよいマネージメントを補佐するために2017年6月にトリアージプロト
 コールが更新されました。
・スリランカのWHO州事務局は媒介蚊対策のために50台の煙霧機を購入しました。
・保健省とWHOは次の数週間以内にデング熱のアウトブレイクコントロールの戦略、実践強化計画を共同で
 準備すべく活動中です。

WHOによるリスク評価
 デング熱は蚊媒介性のウイルス感染症で、血清型は4種類(DENV-1, DENV-2, DENV-3, DENV-4)です。ある血清型に感染すると同じ血清型に対しては長期間の免疫が獲得されますが、他の血清型については獲得されません。2回目の感染において患者は重症のデング熱や、デングショック症候群になるリスクが非常に高くなります。
 ネッタイシマカ、ヒトスジシマカは都市および郊外の環境に広く適応した媒介蚊です。デング熱はスリランカでは地域に存在する疾患であり、毎年発生しています。通常、降雨の後が蚊の繁殖には最も適しています。しかしながらDEN-2 は2009年以後少数しか認めていませんでした。しかし今回、血清型が同定された検体の50%以上を占めています。
 今回のスリランカにおけるデングの熱の流行は公衆衛生上の再衝撃であったと思われます。現在のデング熱の流行は、スリランカの公衆衛生上に影響を及ぼしそうです。

WHOによるアドバイス
 WHOはデング熱を含めた感染症媒介蚊のコントロールのために、包括的媒介蚊対策(IVM)を戦略的アプローチとして推奨しています。
 ヒトの生活環境の周辺に媒介蚊の繁殖場所があることがデングウイルス感染にとって重要なリスク因子となります。
 予防とコントロールができるかどうかは蚊の繁殖する場所を減らす(繁殖場所の数を減らすか、場所の状態を変化させる)ことにより、蚊の繁殖を抑える事とヒトと媒介蚊の接点を減らす(蚊の成虫に対するコントロール対策)ことにかかっています。有効なコントロールのためにはこれら両方のコントロール対策が同時に実施される必要があります。
 このことは住居内やその周囲にある人工の水たまり(セメントの貯水槽、ドラム缶、古タイヤ、空瓶、ココナツ殻など)の数を減らすことで達成され、虫よけのスクリーンを貼ったり、ドアや窓を閉めたり、長袖の衣服を着たり、虫の忌避剤を使用したり、家屋内で殺虫剤や蚊取り線香の使用をしたりすることで達成されます。また緊急対策としては殺虫剤の空中散布がされることもあります。シマカ(感染の主要媒介動物)から身を守るために(特に幼小児、病人、高齢者は)蚊よけのベッドネット(殺虫剤処理、未処理にかかわらず)を使用して就眠する事が推奨されます。
 WHOは利用しうる最新の情報に基づいてスリランカとの如何なる交易や、一般的な渡航の制限も推奨はしていません。

【出典】Emergencies preparedness, response
    Disease Outbreak News (DONs)
    Dengue fever-SriLanka 19July 2017
    http://www.who.int/csr/don/19-july-2017-dengue-sri-lanka/en/