(No.86)

マダガスカルにおけるペスト
11月07日更新

 2017年8月以来マダガスカルは、大都市と他の非流行地域に打撃を与える大規模なアウトブレイクを経験しています。
 2017年の8月1日から10月30日までに、マダガスカル保健省は、死亡例127人を含む1,801人(確定例、可能性の高い例、疑い例)を世界保健機関(WHO)に報告してきました。これらのうち、肺ペストは1,111人であり、確定例257人(23%)、可能性の高い例374人(34%)及び疑い例480人(43%)を含んでいます。肺ペストに加えて、腺ペスト261人(15%)、敗血症型ペスト1人とタイプが特定されていない428人(24%)が報告されています(図1)。10月30日の時点で、マダガスカルの114地域のうち51地域で患者が報告されています(図2及び3)。アウトブレイクの始まりから、医療従事者71人がペストと診断して間違いない疾病に罹患しましたが、死亡した人はいませんでした。
 ペストであることの診断確定検査は、マダガスカル・パスツール研究所によって実施されました。ペスト菌(Yersinia pestis)の23の分離株が培養され、全てがペスト制圧国家プログラム(National Program for the Control of Plague)の推奨する抗生剤に感受性がありました。
 2017年10月の第2週以来、新しい感染例の減少傾向が見られています(図4)。ペスト疑いで入院する患者数の減少も同時に見られます。強化されたサーベイランスと実施中の調査によって、感染例の累積数は増加し続けていますが、しかしながら感染例のある部分は最近になって感染したのではありません。
 マダガスカルにおけるペストの感染例数は9月から4月の間に、最も多くなります。従って、感染対策が2018年の4月の終わりまで続けられることが重要です。
 ペストに感染していると疑われた人の接触者として同定された6,492人のうち83%の人のフォローアップ監視が終了しましたが、それは7日間のフォローアップと抗生剤の予防服用コースを含んでいます。2017年10月30日で、現在フォローアップ中の接触者972人のうち95%に、フィールドチームが到達し予防対策として抗生剤が供与されました。

図1.8月1日から10月30日までに、マダガスカルにおいて報告された臨床的な分類によるペストの確定例、可能性の高い例、疑い例と発症日



1295例について発症日は不明

図2.8月1日から10月30日までに、マダガスカルにおいて報告された腺ペストの確定例、可能性の高い例、疑い例の地理的分布



図3.8月1日から10月30日までに、マダガスカルにおいて報告された肺ペストの確定例、可能性の高い例、疑い例の地理的分布



図4.8月1日から10月30日までに、マダガスカルおける肺ペストの確定例、可能性の高い例、疑い例と発症日の疫学曲線(n=1053)



258例について発症日が不明

公衆衛生上の取り組み
 マダガスカル保健省はWHO及びその代理人やパートナーの支援を受けて、共同で対策を実施しています。
 マダガスカル保健省はアンタナナリボとトアマシナにおいて危機管理ユニットを立ち上げており、患者とその接触者は治療と予防的投薬について無料でうけられるようになっています。
 公衆衛生上の取り組み手段としては以下のようなものが挙げられます。
*新規症例の調査
*肺ペスト患者の隔離と治療
*症例発見の強化
*活発な接触者の発見、追跡、モニタリング及び、無料での予防的抗生剤の提供
*全ての患者発生地域における疫学調査の強化
*駆除(げっ歯類と媒介昆虫のコントロールを含む)
*腺ペストと肺ペストの予防に対する住民の意識向上
*医療従事者間の意識向上、症例の発見、感染コントロール、感染防御の改善
*葬儀の実施にあたっての感染対策情報提供

 アンタナナリボの国際空港では出国者のスクリーニング検査が強化されています。その方法としては、空港において(リスクのある出国者の同定のため)特別の出国カードの記載、スクリーニングでの体温測定、発熱のある渡航者には空港内の医師の診察をうけること、肺ペストに該当する症状のある場合には直ちに空港で隔離となり、迅速診断検査を実施、緊急対策プロトコールに従い、通知がおこなわれます。有症の渡航者は渡航が認められません。空港における技術的指導にはWHOの地球規模感染症に対する警戒と対応ネットワーク(GOARN)のチーム(米国CDC,フランス国立衛生監視研究所、公衆衛生研究所)が当たっています。
 アフリカ地域における9つの国や地域(コモロ連合、エチオピア、ケニヤ、モーリシャス共和国、モザンビーク、レユニオン、セーシェル、南アフリカ共和国、タンザニア)はマダガスカルとの交易や渡航との関連からもっともペストに対する対策と準備が必要とされました。これらの国や地域ではペストに対する住民への啓発の強化、特にペストの侵入門戸となる地域でのサーベイランスの強化、対応のための設備や物資の優先的配置など準備活動が実施されています。

WHOによるリスク評価

 ペストの新規患者が減少傾向にあること、ペストによる入院患者が減少していることは明るい兆候です。WHOの専門家は、マダガスカルにおけるペストの典型的な流行期が終わる2018年4月まではさらに患者の報告数は増加していくであろうと予測しています。新規に患者を発見し、治療すること、包括的に接触者の同定、フォローアップ、抗生剤治療を実施すること、げっ歯類や、ノミのコントロールをすること、安全で尊厳ある葬儀を行うこと等を含めて、現在実施中の対策をペストのアウトブレイクの時期及び流行期を通じて継続していくことが腺ペスト、ヒトからヒトへの肺ペスト感染を最小限にくいとめるために必須です。

 現在実施されている対策及び情報に基づいて、WHOは国内レベルでの更なるペストアウトブレイク拡大の潜在的リスクは高いままであると評価しています。肺ペストの短い潜伏期、出国の際のスクリーニング実施、マダガスカルへの旅行者へのアドバイス、近隣のインド洋諸島及び南、東アフリカの諸国での準備及び対応活動がスケールアップされていることなどを考慮すると国際的な拡大の危険性はより軽いといえます。全地球的なリスクは低いと考えられます。WHOは対策活動からの情報やアウトブレイクの成り行きを基にリスクアセスメントを再評価しています。

 感染防御と管理のための手段に、治療の選択についてのアドバイスはマダガスカル及び当該地域の国々に提供されています。

 ペストそのものとマダガスカルにおけるアウトブレイクの更なる情報についてはWHOのペストウェブサイト、マダガスカルのペストアウトブレイク状況報告のウェブサイトを参照してください。

WHO Plague website

Madagascar Plague Outbreak Situation Reports website

渡航に対するWHOのアドバイス

 現在まで利用可能な情報に基づいて国際的なペストの拡大リスクは非常に低いと思われます。WHOは利用可能な情報に基づいてマダガスカルへの渡航や交易の如何なる制限も推奨していません。

 マダガスカルに入る国際間の渡航者は現在のペストのアウトブレイクと必要な防護対策についての情報を与えられるべきです。渡航者自身はノミ咬症に注意し、死んだ動物や感染性の組織、材料との接触を避け肺ペスト患者との濃厚接触を避けるべきです。発熱、悪寒、疼痛を伴った炎症性のリンパ節腫脹、血性の痰の有無にかかわらず咳をともなった呼吸困難等、突然に発症した場合には渡航者は即座に医療機関を受診すべきです。予防のためであっても自己判断での治療は避けるべきです。予防的治療は患者と濃厚接触のあった場合、その他の高リスクの曝露(ノミに咬まれた、感染動物の体液や組織に直接的な接触があったなど)にのみ推奨されます。マダガスカルから帰国した場合には上記の症状に注意しておくべきです。もし症状が出現すれば医療機関を受診し、医師にマダガスカルへの渡航歴を伝えなければなりません。 

【出典】Emergencies preparedness, response
Plague – Madagascar
Disease outbreak news  2 November 2017
http://www.who.int/csr/don/02-november-2017-plague-madagascar/en/