(No.102)

黄熱―ナイジェリア
12月27日更新

 

 2017年9月14日、ナイジェリアの疾病管理センター(NCDC)はクワラ州(Kwara)における黄熱の確定例を世界保健機関(WHO)に通知しました。9月15日、ナイジェリアの国際保健規則(IHR)連絡窓口がIHR(2005)に基づき公式に通知しました。

 今回の患者はクワラ州に住む7歳の少女で、2017年8月16日に発熱、嘔吐、腹痛などの症状が出現しました。彼女には黄熱ワクチン接種歴がなく、発症前の2年間にクワラ州外への渡航歴もありません。ラゴス大学付属病院で行われた血液のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法で陽性と判定され、地域の標準検査機関であるダカール・パスツール研究所(IPD)で行われた血液検査で確定されました。

 2017年7月2日から12月19日までに、16の州(アビア(Abia)、アナンブラ(Anambra)、ボルノ(Borno)、エド(Edo)、エヌグ(Enugu)、カノ(Kano)、カツィナ(Katsina)、コギ(Kogi)、クワラ、ケビ(Kebbi)、ラゴス、ナサラワ(Nasarawa)、ナイジャー(Niger)、オヨ(Oyo)、プラトー(Plateau)、ザンファラ(Zamfara))から341人の黄熱疑い患者が報告されています。

 2017年12月19日現在、213件の検体がナイジェリアにある5つの検査施設で検査されました。これら213件の検体の内、ナイジェリアの検査施設では63件が黄熱陽性であり、1件の結果が確定していません。黄熱確定のためIPDに送られた63検体の内、32検体が陽性、24検体が陰性、7検体がこの更新発表時点で検査中です。

 341人の疑い例のうち、214人(62.8%)が男性でした。最も感染の影響を受けた年齢層は、20歳以下の若者で患者の65.9%を占めています。死亡者数(疑い例、可能性の高い例、確定例)の合計は45人で、確定例中では9人でした。全ての症例中(疑い例、可能性の高い例、確定例を含む)致死率は21.1%であり、確定例中では28.1%でした。さらなる疫学的調査が進行中です。

公衆衛生上の取り組み

 アウトブレイクへの対応は、複数の機関と複数の支援組織のあるインシデント管理センターによって調整され、アウトブレイクを監視するため緊急対策センター(EOC)が設立されました。EOCはクワラ州でも設立され、ザンファラ州では周辺地域からの支援が行われています。2017年9月18日から10月20日までに、NCDCとWHOから迅速対策チーム(疫学者と昆虫学者を含む)が配置され、地域当局のクワラ州、コギ州、そしてプラトー州における調査を支援しています。またさらなる拡大の危険性を評価し、その他の活動として予防接種キャンペーンの実施を支援しています。WHOの支援により、黄熱の調査が全国的に強化されています。またラゴスにおける黄熱と麻疹の診断改善のための1週間トレーニングコースが行われました。検査施設の能力を強化するために、検体の管理と運搬手順が考案され、各州で情報共有されました。クワラ州では治療施設が指定されました。リスクコミュニケーションと社会動員活動が実施されています。これはコミュニティの指導者達を通じ、公共情報のキャンペーンやラジオでの発信及びコミュニティとの連携強化などがあげられます。

 定期黄熱ワクチン接種は2004年にナイジェリアの予防接種プログラム(EPI)に導入されました。しかし、現在流行の影響を受けている地域における全体の免疫状態は集団免疫閾値60-80%以下に留まる可能性があります。2017年10月のクワラ州とコギ州の優先的なコミュニティにおける9ヶ月から45歳までの80万人を超える人々を対象とした対策予防接種キャンペーンは、対象地域において98%まで接種率を増加させました。また100万人以上を予防接種した対策予防接種キャンペーンは、12月にザンファラ州の4つの地方行政区域(Local Government Area)においても完結しました。5つの地方行政区域、コギ州の3区域とクワラ州2区域においても別のキャンペーンが実施されています。さらに、先制的な集団キャンペーンが2018年2月に予定されていますが、このキャンペーンでは最近確定例が出た6州を筆頭に、引き続き他の優先度の高い州を対象とします。これは、来年にむけて、国全体にひろげるべく計画された全国的な予防キャンペーンの次の段階になります。国民全体の免疫能を高レベルに向上させるために国をあげてのアプローチが必要であるとの認識があります。

WHOによるリスク評価

 黄熱は、蚊によって媒介される急性のウイルス性出血熱で、急速に広がり、深刻な公衆衛生上の影響をもたらす可能性があります。黄熱ワクチンは1回の接種で一生涯の免疫を獲得でき予防可能ですが、特異的な治療はありません。脱水、呼吸不全、熱に対する対症療法と細菌感染の合併症に対する抗生物質による治療が推奨されています。
 
 16州からの疑い例と6州からの確定例の報告、流行しているコミュニティにおける至適未満の予防接種率、散発例への対応、また大きな予防キャンペーン(もし保証されるならば)を実施する国内の能力を考慮すると、WHOは国レベルの全体的なリスクを高いものであると評価しました。地域への感染拡大については、流行州が近いこと(ザンファラ州とケビ州はニジェールの国境からおおよそ400km)、そしてこの国の人々の免疫能の低下(35.4%)により、現在中等度のリスクがあります。世界レベルの全体的なリスクは低いです。
 
 感染例の増加のリスクは、感染伝播を維持するため一部はヒトの集団内における媒介蚊の密度に依存していますが、現在クワラ州の外では、昆虫学的な情報は入手可能できていません。この地域は乾期に入りつつあり、媒介蚊の密度は全体的には減少するでしょう。しかし、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)は、ヒトの集団内で黄熱のアウトブレイクを増大することができ、家屋の周囲にある人工の容器に生息するヒト寄生性の媒介昆虫であり、より乾燥した条件下でも中等度の影響を与えます。
 
 ナイジェリアは、他州におけるコレラとラッサ熱のアウトブレイク、国の北東部における人道危機と同時にいくつかの公衆衛生上の非常事態に直面しています。この状況は厳密に監視されています。

WHOからのアドバイス

 予防接種と蚊の制圧が、予防と黄熱制圧のための主要な手段です。WHOとパートナーは現在のアウトブレイクを制圧するために、これらの介入を実施し、地方当局を支援し続けます。
 持続的または周期的な黄熱ウイルスの伝播の証拠が存在することから、WHOはナイジェリアに渡航する生後9ヶ月以上の全ての海外からの旅行者に対して黄熱の予防接種を推奨しています。ナイジェリアも、黄熱の感染伝播のリスクのある国々から到着した1歳以上の旅行者に対して黄熱予防接種証明を要求しています。黄熱ワクチンは安全で、非常に効果的で、一生涯続く免疫防御を獲得できます。IHR(2005第三版)に従えば、WHOが承認したワクチンを使用していれば、黄熱予防接種の国際証明の有効期限は接種者の一生涯に延長されています。黄熱ワクチンの追加接種は、入国時の条件としては、海外からの旅行者に要求されることはあり得ません。
 
 WHOは、このアウトブレイクに関する入手可能な情報に基づいて、ナイジェリアへの渡航と貿易に対するいかなる制限も推奨しません。

 黄熱についてのさらなる情報については、以下のリンクをご参照ください。

WHO factsheet on yellow fever

【出典】 
Emergencies preparedness, response
Yellow fever – France – French Guiana
Disease outbreak news
22 December 2017
http://www.who.int/csr/don/22-december-2017-yellow-fever-nigeria/en/