(No.31)

エボラウイルス病-コンゴ民主共和国(4):ワクチンの輪状接種の最新情報

5月23日更新

 コンゴ民主共和国の赤道州(Equateur Province)で現在起きているエボラウイルス病の大規模流行への対応として、WHO(世界保健機関)はコンゴ民主共和国保健省、国境なき医師団、ユニセフ(UNICEF)およびギニア保健省といった支援組織と協力し、感染が発生している保健地帯で感染リスクの高い人々へのエボラウイルスに対してワクチン接種を実施しています。

 2018年5月21日、ムバンダカ(Mbandaka)(WHO)とビコロ(Bikoro)(国境なき医師団)の医療従事者と共にワクチンの輪状接種が開始されました。5月21日現在、製薬企業MerckはWHOに8,640回分のrVSVΔG-ZEBOVワクチンを提供し、そのうち(150人で構成される約50集団分に十分な)7,540回分はコンゴ民主共和国で投与が可能です。今後さらに8,000回分のワクチンが投与できるようになります。

 2017年にWHOの予防接種に関する戦略的諮問委員会(SAGE)は、ザイールエボラウイルスの大規模流行のため、インフォームド・コンセントと「医薬品の臨床試験の実施に関する基準(Good Clinical Practice)」を遵守した未承認薬アクセス制度下で、rVSVΔG-ZEBOVワクチンの使用を推奨しました。rVSVΔG-ZEBOVワクチンはザイールエボラウイルスに対して高い防御効果と、有効性が証明された最初のワクチンです。

 ヨーロッパ、アフリカ、アメリカにおいて16,000人を超えるボランティアを含んだ複数の臨床試験により、6歳以上の人々におけるワクチンの高い安全性プロファイルが示されています。ギニアとシエラレオネでは2015年に成人7,500人に対する有効性試験でこのワクチンが使用され、安全性と、ザイールエボラウイルス感染に対する防御効果が示されました。ギニアとシエラレオネにおける117集団から得られたエビデンスによると、迅速にワクチンを接種した接触者およびその接触者の間では、エボラウイルス病患者は10日以上発生しませんでした。対して、ワクチンを接種していないまたは接種が遅れた接触者と、その接触者の間では23人の患者が発生しました。推定されるこのワクチンの有効性は100%(95%信頼区間は79.3-100、P値=0.0033)です。この試験は、ギニアの保健省、国境なき医師団、ノルウェーの公衆衛生研究所と他の国際的支援組織との協力でWHOが実施しました。このワクチンは、水疱性口内炎ウイルス(VSV)として知られる無害なウイルスの遺伝子を、エボラウイルスの表面タンパクをコードする遺伝子で置換することにより作用します。ワクチンに生きたエボラウイルスは含まれていません。

 2016年3月、ギニア南東部の森林地帯(Guinee Forestiere)で新たにエボラウイルス感染が確認されたことに続いて、6-17歳の303人と、現場で従事する307人を含めた4集団1,510人にワクチンを接種しました。最初のエボラウイルス病患者の確定から最初のワクチン接種者まで10日かかりました。ワクチン接種者の中で、エボラウイルス病の2次感染患者は発生しませんでした。

 僻地であることや、現在流行が発生している人々へ交通アクセスが限られていることを考慮すると、輪状接種の実施や-80℃の低温輸送保存体系を維持する事が、保健省や国境なき医師団、WHOと他の地上の支援組織にとって重大な輸送上の課題になっています。

 予防接種は2015年にギニアで行われた輪状方式で実施されます。この方法でワクチンはリスクのある人々に提供されます。提供される人々は以下の通りですが、これらに限定されません;(ⅰ)接触者と、その接触者との接触者。(ⅱ)流行地域における、現地もしくは国際医療従事者と現場作業者。(ⅲ)流行が拡大するリスクのある地域の医療従事者と現場作業者。承諾と同意を得て、集団内の個人に予防接種が検討されます。ワクチン接種後は一定期間フォローアップされます。

 各予防接種チームは訓練を受けており、「医薬品の臨床試験の実施に関する基準(Good Clinical Practice)」の知識を持っています。このチームには、ギニアとシエラレオネで輪状接種の試験を実施した、ギニアの未承認薬アクセス制度下で介入を行ったギニア人研究者達が含まれています。いかなる副作用も資格を持った内科医によって治療され、全ての重大な副作用はコンゴ民主共和国の当局と製薬企業Merck、データ安全性モニタリング委員会(DSMB)に報告されます。チームは熟練したスタッフの支援を受けています。輪状接種の手順は明確に定義されており、以下の通りです:

ⅰ.予防接種チームから1-2人のソーシャルモビライザーが地域社会を訪問し、ワクチン接種を受ける可能性がある人々に手順を説明します。
ⅱ.集団の定義は、訓練された2人のワクチン接種チームメンバーによって決められ、エボラウイルスが確認された患者との全ての接触者と、その接触者をリストアップします(不在の住民を含む)。
ⅲ.接種の可能性がある人の、接種適格性が評価されます。
ⅳ.(ワクチン接種の)適格性がある各個人に、インフォームド・コンセントが求められます。
ⅴ.同意を得た適格性のある個人に、ワクチンを接種します。
ⅵ.ワクチンを接種された人は、医師により接種後30分間モニタリングされます。その後、ワクチン接種後3日目と14日目に往診によってフォローアップされます。

 コンゴ民主共和国で治験段階のrVSVΔG-ZEBOVワクチンを使用することは、エボラウイルスアウトブレイクの制御において画期的な出来事になります。にもかかわらずワクチンは、患者発見、接触者の追跡、疑い患者の隔離、適切な検査診断、通常の医療施設における感染管理、安全で尊厳のある埋葬、社会動員、効果的な対応調整といった複数のアウトブレイク制御方法の1つに過ぎません。

【出典】
Emergencies preparedness, response
Disease outbreak news
Ebola virus disease – Democratic Republic of the Congo: Update on Ring Vaccination
21 May 2018
http://www.who.int/csr/don/21-may-2018-ebola-drc/en/