●エボラ出血熱
 ●クリミア・コンゴ出血熱 ●ペスト 
●マールブルグ熱 ●ラッサ熱 ●重症急性呼吸器症候群(SARS)



■ペスト plague(pest)

病原体:Yersinia pestis
好発年齢:特になし(主にペスト菌保有ノミに刺咬されたヒト)
性 差:なし
分 布:世界的に分布
その他:好発時期は、特にノミの発生する時期

ペストの背景
■疫学状況
●わが国においては、1926 年以来、ペスト患者の報告はない。
●1980 〜1994 年の15 年間にWHO に報告された世界のペスト患者は、24 カ国で18、739 人でそのうち死亡者は1、852 人となっている。
●次の5 つの地域においてペストの感染が野生齧歯類間で持続的に起こっている。(1)南アフリカ地方およびマダガスカル、(2)ヒマラヤ山脈周辺からインド北部、(3)中国の雲南省から蒙古、(4)北米南西部ロッキー山脈地方、(5)南西北西部アンデス山脈地方。

■病原体
●Yersinia pestis (ペスト菌)。

■感染経路
●病原体保有ノミ刺咬による感染(78 %)。
●ペットなどを含む感染小動物の体液を介して傷口からの感染(20 %)。
●ペスト菌含有エアロゾールの吸入(2 %)。
●ペスト患者の発生はノミの活動期に集中している。
●Y. pestis は主に感染ノミ刺咬によりヒトの皮下に感染する。

■潜伏期
●発症までの潜伏期は2 〜7 日。

診断と治療
■臨床症状
◎病型
●ヒトペストは、腺ペスト、敗血症ペスト、肺ペストに大別される。

◎腺ペスト
●ヒトペストの80 〜90 %がこれに当たる。
●主にペスト菌感染ネズミなどに吸着したノミによる刺咬後に発病する。
●急激な発熱(38 °C 以上の高熱)、頭痛、悪寒、倦怠感、不快感、食欲不振、嘔吐、筋肉痛、疲労衰弱などの強い全身性の症状、さらに鼠径部、腋窩、頸部などのリンパ節腫脹および膿瘍を形成する。

◎敗血症ペスト
●ヒトペストの約10 %を占める。
●腺ペストから敗血症への移行による。
●急激なショックおよびDIC (昏睡、手足の壊死、紫斑など)を起こす。

◎肺ペスト
●腺ペストの末期や敗血症ペストの経過中に起こる。
●肺ペスト患者から排出されたペスト菌含有エアロゾールを吸い込んで2 次的に発症する。
●強烈な頭痛、嘔吐、39 〜41 °C の高熱、急激な呼吸困難、鮮紅色の泡立った血痰を伴う重篤な肺炎像を示す。

■検査所見
●齧歯類に寄生しているノミによる咬傷。
●臨床検体(血液、リンパ節腫吸引物、痰、組織など)からY。 pestis の分離・同定。
●患者血清中の抗Fraction 1 抗体価の上昇。

■診断・鑑別診断
◎確定診断
●臨床所見。
●血液、リンパ節腫吸引物、痰などにY.pestis を証明。
●患者血清中の抗Fraction 1 抗体価が、受身赤血球凝集反応(PHA )で10 倍以上の上昇。
●PCR によるペスト菌に特有な病原性遺伝子の証明。

◎鑑別診断
●野兎病:Francisella tularensis がダニ、ウマバエなどをベクターとして感染し、腺ペストに類似した症状を呈する。
●類鼻疽:Burkholderia pseudomallei に、傷口あるいは砂ぼこりの吸引を介して感染し、肺ペストに似た初期症状を呈する。
●レプトスピラ症:感染ネズミの尿に出るLeptospira autumnalis type A、B などが傷口から侵入した場合に感染する病気で、初期症状がペストと似ている場合がある。

■治療
●治療を行わない場合には、非常に高い致死率を示す。
●治療に有効な抗菌薬として、ストレプトマイシン、テトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、クロラムフェニコールがある。
●ストレプトマイシン:すべての型のペストに最も効果があるが、副作用があるので過度の使用に注意すること。
●ニューキノロン系のレボフロキサシン、スパルフロキサシンは経口投与にもかかわらず、注射薬であるストレプトマイシン、ゲンタマイシンと同等かそれ以上の効力がある。

■経過・予後・治療効果判定
●適切な抗菌薬による治療を行わないと予後不良である。
●腺ペストから、敗血症ペスト、肺ペストへ移行すると致死率が高くなるので、慎重な対処が必要。
●テトラサイクリンなどの耐性菌の報告があるので、治療のうえで注意が必要である。
●肺ペストは、2 次感染力が強いので適切な防御対策が必要。

■合併症・続発症とその対応
●全身性疾患であるので、適切な抗菌薬治療が最重要である。

■2次感染予防・感染の管理
●衛生の徹底:ネズミ、ノミの駆除。
●患者の住む地域の特定感染症指定医療機関、もしくは第1 種感染症指定医療期間
への入院措置。
●抗菌薬による予防投与:(1)腺ペスト、ペスト性敗血症患者と直接接触した場合、(2)肺ペスト患者に接近した場合、(3)検査室内での事故でペスト菌に汚染された場合など。
●ホルマリン処理全菌体ワクチンはあるが、副作用が強い:ハイリスク集団(患者と濃厚に接する医療従事者、あるいは野生動物やペットなどから感染する機会が強いヒトなど)に限定した、ワクチンの使用がWHO により推奨されている。
●ワクチンは検疫所に保存されている。



出典:日本医師会編・発行≪日本医師会生涯教育シリーズ≫「感染症の診断・治療ガイドライン」より、日本医師会の許可を得て転載