●腸管出血性大腸菌感染症



■腸管出血性大腸菌感染症 enterohemorrhagic Escherichia coli infection

病原体:腸管出血性大腸菌〔Enterohemorrhagic Escherichia coli (EHEC)、
別名 Shiga toxinproducing E.coli (STEC)、またはVero toxinproducing E. coli(VTEC)〕
好発年齢:乳幼児、高齢者
性 差:なし
分 布:世界的に分布

腸管出血性大腸菌感染症の背景
■疫学状況
●1982 年、米国ミシガン州とオレゴン州の隔絶した地区で、同じメーカーのハンバーガーによる大腸菌O157 :H7 集団食中毒が世界で初めて発生した。1993 年には、シアトル周辺で700 〜800 人にものぼるハンバーガー食中毒事件も発生し、例年、多くの患者と死者を出している。
●カナダやイギリスでも早くから患者の報告がある。現在、世界各地から患者の報告がみられるようになり、地域的な偏りはない。
●わが国では、1990 年埼玉県浦和市の幼稚園で、井戸水汚染による事件が発生し、患者数319 人、死者2 人を出した。
●1996 年には全国で爆発的発生がみられた。厚生省の調査では、この年の患者総数は17、877 人、無症状保菌者1、475 人、死者12 人。特に大阪府堺市では小学校給食がO157 :H7 に汚染したために、10、000 人を超える患者が発生した。世界最大の歴史的な事件であった。
●その後、毎年約1、500 例の患者が報告されている。季節的には夏期に多いが、冬期でも患者は発生する。

■病原体・毒素
●ベロ毒素(VT )を産生する大腸菌は、8割あまりがO157 血清型に属する。次いでO26 、O111 が多く、ほかに数十種類のO血清型も報告されている。
●VT は蛋白毒素でVT1 、VT2 の2 種類がある。多くはVT1 、VT2 の両方を産生する。いずれも血管内皮細胞や腎尿細管、脳などに強い毒性を示す。毒素の作用機序は蛋白合成阻害とアポトーシスの誘導による細胞死である。
●一方、大腸粘膜への定着は、LEE と呼ばれる遺伝子群(特にeaeA 遺伝子産物のインティミン)に担われており、A/E 病巣を形成する。

■感染経路
●本菌はウシ、ヒツジ、シカなど反芻動物の大腸に生息している。それらの腸内容物で汚染された食品(生肉、土の付いた野菜など)や水を介して経口感染する。患者や保菌者の便からの2 次感染もしばしば起きる。

■潜伏期
●2 〜14 日(平均3 〜5 日)。

診断と治療
■臨床症状
◎病型
●出血性大腸炎と溶血性尿毒症症候群(HUS )。水様性下痢と腹痛で発症する。血便、発熱、嘔気、嘔吐、感冒様症状も初発症状の数%にみられる。翌日にはほとんどに血便がみられる。
●重症例では鮮血を多量頻回に排出する(出血性大腸炎)。腸重積、脱肛、虫垂炎などの合併もみられる。発症後1 週間頃、患者の約10 %にHUS が続発する。血小板減少や溶血性貧血(LDH の上昇)、尿量減少、血尿、蛋白尿などで気づく。意識障害を随伴することも多く、重篤例では痙攣、昏睡に陥る。HUS の約3%は死亡する。
●HUS の予兆として、初期から腹痛や血便、発熱の程度が高いこと、血液検査で白血球数やCRP 値が高いこと、総蛋白やアルブミン値が低下していることなどが挙げられる。HUS は乳幼児や高齢者に好発する。

■診断・鑑別診断
◎確定診断
●便検体からO157 などのVTEC を分離する。大腸菌のVT 産生性はPCR やラテックス凝集反応(LA )で調べることができる。
●便検体から直接VT 遺伝子を検出したり、O157 抗原やVT 抗原を検出する方法もある。
●発症後、時間が経過すると菌の検出率は悪くなるので、血中抗体(大腸菌LPS に対するIgM 抗体)を調べることも有用である。

◎鑑別診断
●サルモネラやカンピロバクター、赤痢菌、腸炎ビブリオなどの腸管感染症との鑑別を要するが、いずれも便培養などの便検査でしか鑑別できない。

■治療
●腸炎に対しては安静と水分の補給、消化しやすい食事の摂取を勧める。
●経口摂取が不可能な重症患者には輸液を行う。
●蠕動抑制性の止痢剤の使用は控える。
●HUS 患者では、無尿時の腹膜透析や溢水の管理、血圧のコントロールが重要である。
●痙攣重積や脳浮腫に対しては薬物による対症療法を行う。抗菌剤の有効性については、一定の見解が得られていないが、小児に対してホスホマイシン、カナマイシン、ノルフロキサシン、成人に対してはニューキノロン、ホスホマイシンの経口投与を行う。ただし、発症早期に3 〜5 日間の使用とし、漫然とした長期投与は避ける。
●一般に、小児には抗菌剤と乳酸菌製剤の併用が広く行われている。

■2次感染予防・感染の管理
●本菌は50 個程度の少数菌量で発症しうるため、2 次感染しやすい。
●患者や保菌者の便から経口感染するので、便で汚染した衣類、寝具、おむつは消毒剤で十分消毒する。排便後の手洗いも、流水で石鹸をよく泡立てて洗った後、消毒剤で消毒を行う。
●入浴やプールにも注意が必要で、できればシャワーですませるのがよい。



出典:日本医師会編・発行≪日本医師会生涯教育シリーズ≫「感染症の診断・治療ガイドライン」より、日本医師会の許可を得て転載