●E型肝炎 ●ウエストナイル熱 ●エキノコックス症 ●黄熱
●オウム病 ●回帰熱 ●Q熱 ●狂犬病 ●高病原性鳥インフルエンザ
●腎症候性出血熱 ●サル痘 ●炭疽
●ツツガムシ病 ●デング熱
●ニパウイルス感染症 ●日本紅斑病 ●日本脳炎
●ハンタウイルス肺症候群 ●発疹チフス ●マラリア ●ライム病
●リッサウイルス感染症 ●レプトスピラ症 ●野兎病
●Bウイルス病 ●ブルセラ症 ●インフルエンザ
●急性脳炎(日本脳炎を除く)



■炭疽 anthrax

病原体:炭疽菌Bacillusanthracis
好発年齢:特になし
性差:なし
分布:世界的に分布。特に、アジア、南米、アフリカ

炭疽の背景
■疫学状況
・動物では世界各地で発生、ヒトでは獣疫の管理が不十分な国、特にアジア、アフリカ、南米で発生、家畜を扱う関係者に多発。
■病原症・毒素
・グラム陽性芽胞形成桿菌である莢膜形成能を有する炭疽菌の産生する防御抗原、浮腫因子、致死因子からなる毒素
■感染経路
・皮膚炭疽:自然感染で最も多く発生(>95%)、感染動物やその加工品との接触により、皮膚の傷口より感染、まれに昆虫による咬傷より発生。
・腸炭疽:汚染食品を生もしくは未調理で接種し発生。
・肺炭疽:8,000〜40,000個の炭疽菌芽胞の吸引により発生、自然発生は極めてまれ。
■潜伏期
・感染経路による差はなく、摂取菌量により異なるが1〜7日、最長60日くらい。

診断と治療
■臨床症状
・皮膚炭疽:初期病変は虫刺され様で、その数日後、冠状の黒色調の痂皮、炎症性の浮腫を取り囲むように、無痛性で非化膿性の悪性膿胞が出現する。所属リンパ管炎やリンパ節炎を合併する。
・腸炭疽:腸管感染では吐き気、嘔吐、腹痛、吐血、血便、腹水の貯留など、口咽頭部では喉頭炎、嚥下傷害、発熱、頸部のリンパ節炎が起きる。
・肺炭疽:軽度な発熱、疲労感、倦怠感が数日続き、頭痛、筋肉痛、悪寒、発熱、そして胸部の軽度の疼痛が起きる。重症では、突然の呼吸困難、チアノーゼ、昏睡を伴う失見当識が起こる。
・炭疽菌性髄膜炎:膿脊髄液中に菌体が現れ、意識消失が起こり死に至る。
■検査所見
・悪性膿胞の出現(皮膚炭疽)、X線像に縦隔拡大の兆候(肺炭疽)、血清抗体価の上昇、敗血症、髄膜炎。
■診断・鑑別診断
●確定診断
・臨床検体(悪性膿胞、痂皮、喀痰、リンパ節、腹水、膿脊髄液または血液など)から直接培養、莢膜染色、グラム染色などで炭疽菌を検出する。しかし感染初期では検出できないことが多い。発症以前に皮膚・鼻腔粘膜などから培養、莢膜染色、グラム染色などで炭疽菌を検出できる場合もある。抗体価の上昇は発症後に確認できる。肺炭疽発症後の場合、胸部X線写真で診断可能。また、動物接種は最終確定診断となる。その他、アスコリー試験、ガンマファージ溶菌試験、遺伝子増幅法(PCR)による診断も可能。
●鑑別診断
・皮膚炭疽は火傷の初期病変、類丹毒、潰瘍、梅毒性下疳などと、腸炭疽は腸管感染症と、口咽頭部の病変は連鎖球菌性咽頭炎や咽頭の腫瘍などと、肺炭疽の初期症状はインフルエンザ様の呼吸器感染症に酷似。
■治療
・感染後できるだけ早く抗生物質を大量に用いる。200万単位のペニシリンを2時間ごとに静脈内注射する。その他、耐性菌を考慮すると、シプロフロキサシン(400mg8〜12時間ごと静注)やドキシサイクリン(初回200mg、その後12時間ごと100mg静注)を用いる。細菌がペニシリン感受性の場合、アモキシシリン1日500mg/kg3回を超えないように注意しながら経口投与する。ただし、これらの量はアメリカでの基準でもある。有効補液、酸素吸入などの対症療法も必要である。また、使用場所や器具などは、ヨード剤や次亜塩素酸による芽胞体除染が必要であるが、次亜塩素酸は有機質の存在で活性が低下する。その他、クロラムフェニコール、エリスロマイシン、テトラサイクリン、ゲンタミシンなども使用可能である。なお、日本では現在シプロフロキサシンは健康保険の適用がない(平成13年12月現在)
・曝露後、予防法に抗生物質を用いる際は以下の基準がアメリカCDCにより推奨されている。
・妊婦および免疫不全状態患者を含む成人の場合:シプロフロキサシン500mg1日2回経口投与、あるいはドキシサイクリン100mg1日2回経口投与を60日間。ただし、妊婦6か月以前の場合、ドキシサイクリンは7〜14日の短い投与クールにする必要があり、6か月以降は医師と相談。
・小児の場合;シプロフロキサシン15〜20mg/kg12時間ごとに経口投与、あるいはドキシサイクリン(8歳以上かつ体重45kg以上は100mg1日2回経口投与、8歳未満かつ体重45kg未満および8歳未満は2.2mg/kg1日2回経口投与)
■・皮膚炭疽の約80%では10日程度で治癒する。一般的に抗生物質による治療が遅れると敗血症や感染毒素性ショックで死亡しやすく、致死率も高くなる。抗生物質投与しないと、致死率は皮膚炭疽で5〜20%、腸炭疽で25〜60%、肺炭疽で80%以上である。肺炭疽で縦隔拡大が確認された段階では、ほぼ24時間以内に死亡する。治療しても、口咽頭部感染では死亡率は50%、髄膜炎では100%である。
■合併症・続発症とその判定
・リンパ節炎、敗血症、毒素性ショック
■二次感染予防・感染の管理
・莢膜非産生、毒素産生株の濾過減菌培養清がワクチンとして一般的である。弱毒生芽胞液を用いる国もある。ワクチン接種時期は随時。接種方法は米国では、2週間ごとに3回皮下注後、その後半年ごとに皮下注、さらに1年ごとに追加免疫を行う。しかし、過剰反応、紅斑、圧痛、浮腫、痒みなどの副作用があり、妊婦、発熱、ステロイド投与者には禁忌である。現在日本ではヒト用のワクチン接種は行われていない(平成13年12月現在)
・動物へのワクチン計画がヒトの炭疽の予防に有効である。
・汚染土壌や感染動物の消毒
・ヒトからヒトへの感染は報告されていない。



出典:日本医師会編・発行≪日本医師会生涯教育シリーズ≫「感染症の診断・治療ガイドライン」より、日本医師会の許可を得て転載