●E型肝炎 ●ウエストナイル熱 ●エキノコックス症 ●黄熱
●オウム病 ●回帰熱 ●Q熱 ●狂犬病 ●高病原性鳥インフルエンザ
●腎症候性出血熱 ●サル痘 ●炭疽
●ツツガムシ病 ●デング熱
●ニパウイルス感染症 ●日本紅斑病 ●日本脳炎
●ハンタウイルス肺症候群 ●発疹チフス ●マラリア ●ライム病
●リッサウイルス感染症 ●レプトスピラ症 ●野兎病
●Bウイルス病 ●ブルセラ症 ●インフルエンザ
●急性脳炎(日本脳炎を除く)



■日本脳炎 Japaneseencephalitis

病原体:日本脳炎ウイルスJapanese encephalitis virus
好発年齢:乳幼児、学童、生徒、高齢者
性差:なし
分布:日本、韓国、中国、ベトナム、タイ、カンボジア、マレーシア、ラオス、ミャンマー、フィリピン、インドネシア、ネパール、バングラディッシュ、インド、スリランカ、パプアニューギニア、オーストラリアの一部の島

日本脳炎の背景
■疫学状況
●日本脳炎(Japaneseencephalitis)は南アジア〜東南アジアを経て東アジアへ至るアジアモンスーン地帯に広く分布している。
●WHOの推計によると毎年世界で、約43、000人が発症し、このうち11、000人が死亡し、9、000人は回復しても重篤な後遺症を残す。
●わが国では1966年以後、患者数は激減し近年では数十人以下の低流行状態を維持している。
●アジア各国では患者の多く(85%)は15歳以下の小児、学童であるが、わが国では近年、高齢者に多い。

■病原体・毒素
●フラビウイルスの1つである日本脳炎ウイルス(Japaneseencephalitisvirus)が中枢神経に感染することにより発症する。
●脳炎の発症率はウイルス感染者300〜3、000人に1人と推定されており、多くは不顕性感染である。

■感染経路
●日本脳炎ウイルスに感染したコガタアカイエカに吸血されることで感染する。
●コガタアカイエカは主に水田で繁殖する。
●カはウイルス血症を起こしているブタを吸血することで感染する。
●脳炎を発症した患者は、すでにウイルス血症の時期を過ぎているので感染源とはならない。

■潜伏期
●ウイルスに感染したカに刺されて5〜15日の潜伏期を経て発症する。
●ウイルスはまず末梢(感染局所)で1次増殖し、血流を介して中枢神経に侵入すると考えられている。

診断と治療
■臨床診断
●多くは頭痛、発熱により発症する。
●時に食欲不振、嘔気・嘔吐や小児では腹痛、下痢などの消化器症状を初発症状とする例もある。
●感染が進行するとさらに高熱(39〜40°C)となり、項部硬直、Kernig徴候、筋硬直など、髄膜刺激症状が顕著になる。
●さらに重症例では意識障害、痙攣、昏睡がみられるようになり、ついには死に至る。

■検査所見
●髄液は一般的な無菌性髄膜炎の所見を示す(圧上昇、リンパ球増多、蛋白増加、糖は正常または軽度上昇)。
●CTまたはMRIによる画像診断では、しばしば視床、基底核(多くは両側性)に異常所見を認める。
●血清および髄液中の抗体価:日本脳炎ウイルス特異的IgMの検出。ウイルス特異的IgG〔赤血球凝集抑制反応(HI)、補体結合反応(CF)、ELISA〕の上昇。
●ウイルス分離およびPCR:患者髄液、および剖検例では患者脳サンプルからウイルスが分離され、またPCRによってウイルス遺伝子が検出される。だだし、髄液からのウイルス分離およびPCRの陽性率は低い。

■診断・鑑別診断
◎確定診断
●3主徴候:高熱、頭痛、意識障害。
●髄膜刺激症状。
●発症が流行時期と一致すること、また海外渡航者では日本脳炎流行地への渡航歴。
●抗体検査:次の1または2より診断確定する。1.特異的IgMの証明(HIで2―ME感受性抗体の証明またはIgM-ELISA)。特に、髄液中の特異的IgMの診断的価値は高い。2.ペア血清でHI、CF、またはIgG-ELISA抗体価の4倍以上の上昇。ただし、ダニ脳炎が疑われる場合は1が必須である。
●死亡例では脳組織からのウイルス分離、またはPCRによるウイルス遺伝子検出。

◎鑑別診断
●細菌性、結核性、真菌性の髄膜炎:1.髄液所見。2.起因菌の培養。
●ヘルペス脳炎:1.画像診断所見(CT、MRI)。2.脳波。3.抗体検査。
●ダニ脳炎:1.IgM-ELISA。2.剖検例では脳からのウイルス分離、またはPCRによる遺伝子検出(近年、北海道でウイルスの存在と症例が確認された。日本脳炎ウイルスと同じフラビウイルスであり、症状、検査所見はほぼ日本脳炎と同じで、IgG検査も共通の反応を示す)。
●脳血管障害:画像診断所見(CT、MRI)。

■治療
●日本脳炎に対する抗ウイルス剤は開発されていない。
●したがって、感染の進行とともに現れる発熱、脳浮腫、脳圧亢進、痙攣、呼吸障害に対する対症療法と合併症の予防が主体である。
●すなわち、気道および輸液ルートを確保し、適宜、解熱剤、鎮痙剤、高浸透圧薬、ステロイドホルモンの投与を行う。

■経過・予後・治療効果判定
●一般的に日本脳炎患者の約1/3は死亡するといわれているが、致死率は患者の管理により異なり20〜50%である。
●また死亡を免れた場合でも、半数近くは重篤な後遺症を残す。
●高齢者や発熱の長く続く症例は、予後不良である。

■合併症・続発症とその対応
●呼吸不全に伴う細菌感染による肺炎などの合併症には、抗生剤の投与を行う。

■2次感染予防・感染の管理
●脳炎を発症した患者から感染が拡大することはない。したがって、患者の隔離は不要である。
●有効で安全な不活化ワクチンがあるので流行地では日本脳炎流行期の前、すなわち毎年6月以前に接種しておくことが望まれる。
●特にわが国で小児、学童の患者が少ないのは、ワクチン接種が有効に行われているためと考えられる。
●わが国の日本脳炎流行地域では、毎夏、カへのウイルス供給源となるブタのウイルス汚染度をモニターしてその状況を公表している。
●汚染情報および患者発生情報にあわせて地域住民への啓蒙活動(媒介カへの注意など)が必要である。



出典:日本医師会編・発行≪日本医師会生涯教育シリーズ≫「感染症の診断・治療ガイドライン」より、日本医師会の許可を得て転載