■アメーバ赤痢 amoebiasis、amebiasis

病原体:赤痢アメーバ Entamoebahistolytica
好発年齢:成人、高齢者
性差:地域差はあるが一般に男性が多い
分布:世界的に分布

アメーバ赤痢の背景
■疫学状況
●世界人口のうち、約5億人が従来赤痢アメーバとされた原虫(Entamoebahistoly-tica/E。dispar)に感染し、そのうち3、800万人が病原種であるE。histolyticaによって赤痢、大腸炎や肝膿瘍を発症し、毎年4万〜11万人が死亡している。E。disparは光顕レベルでは鑑別困難で病原性を有しない。
●赤痢アメーバは世界各地に分布している。
●海外渡航者が感染することが多いといわれていたが、近年では国内感染による発症例が多く、福祉施設などでの集団感染も報告されている。
●男性同性愛者にも多くみられ、性感染症(STD)の1つとも考えられている。

■病原体・毒素
●E.histolyticaの生活環は栄養型と嚢子で構成される。感染能力があるのは成熟嚢子のみ。

■感染経路
●嚢子保有者が感染源として重要。
●感染にかかわる要因は前述のとおりであるが、いずれも成熟嚢子の経口摂取による。

■潜伏期
●明確な潜伏期間の基準は示せないが、次のようにして発症に至る。
●原虫が大腸粘膜に侵入し、潰瘍を形成すれば腸アメーバ症が成立する。一般的に緩徐な発症。
●アメーバ性肝膿瘍は大腸粘膜に侵入した原虫が経門脈的に肝に達し、そこで微小膿瘍を形成し、やがて肝膿瘍に進展する。

診断と治療
■臨床症状
◎病型
●病型は腸アメーバ症と腸外アメーバ症に大別される。
●腸外アメーバ症は大腸組織から血行性にアメーバが他臓器に転移して形成された病変を称し、肝膿瘍が最も高頻度である。膿瘍が2次的に転移したり破裂すると腹膜、胸膜、心外膜、肺、脳、脾、皮膚に膿瘍が形成されることがある。

◎腸アメーバ症
●下痢、粘血便、しぶり腹、鼓腸、排便時の下腹部痛、あるいは不快感などの症状を伴う慢性腸管感染症であり、アメーバ赤痢、アメーバ性大腸炎などの病型を含む。
●典型的なアメーバ赤痢ではイチゴゼリー状の粘血便を排泄するが、数日〜数週間の間隔で増悪と寛解を繰り返すことが多い。
●アメーバ性大腸炎の場合はやはり腹痛と下痢を主症状とするが、下痢の性状は血便、粘液便など多様である。
●アメーバによる潰瘍の好発部位は盲腸から上行結腸にかけてとS状結腸から直腸にかけての大腸である。
●まれに肉芽腫性病変が形成されたり、潰瘍部が壊死性に穿孔することもある。

◎腸外アメーバ症
●肝膿瘍が最も多い。
●肝膿瘍では発熱(38〜40°C)、右季肋部痛、同部圧痛、肝腫大、嘔気、嘔吐、体重減少、寝汗、全身倦怠などを伴う。

■検査所見
●糞便の顕微鏡所見:粘血便を伴う症例ではE.histolyticaの栄養型を、軽症例またはキャリアでは嚢子(シスト)が証明される。
●検便は原則として1回の検査にとどめず、連続3日間程度の集中検査で検出精度を高める措置が求められる。
●大腸炎では白血球数正常。肝膿瘍を合併すれば白血球数増多(10、000/mm3)以上し、時に血漿プロトロンビン値減少、血清コレステロール値低下。
●血清アメーバ抗体価:大腸炎では必ずしも上昇しない。肝膿瘍では陽性率95%。
●大腸内視鏡:大腸粘膜面にタコイボ状潰瘍。粘膜生検組織のアメーバ検出率は50〜70%程度。
●CTやエコーで肝に膿瘍性病変を検出。

■診断・鑑別診断
◎確定診断
●粘血便、しぶり腹。
●糞便または大腸組織内にE。histolyticaを証明。下痢便中の栄養型虫体で赤血球を捕食しているものが見出されればE。histolyt-icaである可能性は高い。生検組織内に栄養型虫体を見出したときも同様。
●内視鏡で大腸粘膜にアメーバによる潰瘍を証明。
●血清抗アメーバ抗体価上昇。●PCR。特に糞便内嚢子のDNAを標的にしたPCRは、E。histolyticaとE。disparの鑑別に有用。
◎鑑別診断
●細菌性腸炎:1.臨床症状が急性、2.抗生剤投与歴を聴取。細菌培養を行う。
●寄生虫症:1.生活歴を聴取、2.糞便からの虫体または虫卵の直接証明。または血清抗体による間接証明を行う。

■治療
●第1選択薬はメトロニダゾール。作用は殺アメーバ的で、大腸症状は多くの場合、速やかに反応して治療開始数日後から粘血便などの消失と有形便化をみる。しかしメトロニダゾールの腸管吸収が速いため、腸管内の虫体を完全に殺滅できないことがある。そのためしばしばテトラサイクリンなど、あるいはフラミド(オーファンドラッグの臨床評価に関する研究班より供与可能)を併用する。
●肝膿瘍の場合で、その直径が3〜5cm以上の巨大な膿瘍には肝ドレナージを併用することもある。2〜3週間で膿瘍腔の縮小が認められる。ドレーン抜去後、膿瘍陰影が消失するのに数カ月を要することもある。
●赤痢症状が強いときは食物の経口摂取制限が必要。
●非病原性であるE.disparのみの感染であれば治療は不要。

■経過・予後・治療効果判定
●アメーバ性大腸炎では、投薬による治癒後も糞便中に嚢子が認められ、感染源となることがあるので経過観察が必要。
●家族内での感染の有無に関して観察する。

■合併症・続発症とその対応
●腸外アメーバ症:わが国では腸アメーバ症例の約20〜40%が肝膿瘍を合併する。
●特に同性愛者の場合、梅毒やHIV感染の合併も考えて治療を進める。

■2次感染予防・感染の管理
●衛生の徹底。
●患者の届け出と、必要に応じて接触者および患者家族での感染の有無の確認。
●ワクチンは存在しない。



出典:日本医師会編・発行≪日本医師会生涯教育シリーズ≫「感染症の診断・治療ガイドライン」より、日本医師会の許可を得て転載