●アメーバ赤痢 ●クリプトスポリジウム症 ●ジアルジア症



■クリプトスポリジウム症 cryptosporidiosis

病原体:クリプトスポリジウムCryptosporidiumparvum
好発年齢:学童・生徒、成人
性差:特になし
分布:世界的に分布

クリプトスポリジムウム症の背景
■疫学状況
●感染性腸炎の病原体検索で本症の検出頻度は上位5指に入る。
●下痢便からの検出率は、アフリカおよび中南米で約10%、アジア・太平洋地区で5%、ヨーロッパで3.5%、北米で1.6%程度。世界で1年間に数億人が感染するといわれる。
●免疫不全患者における感染率はさらに高い。HIV陽性者の場合、下痢患者からの検出率は途上国で平均24%(8.7〜48%)、先進国で平均14%(6〜70%)との報告がある。
●4歳前後の幼児における感染率が最も高い。
●国内での本格的疫学調査データはまだないが、集団感染例を含め過去10年間で1万数千人の患者発生が知られている。エイズや先天性免疫不全患者における死亡例もある。
●国内では途上国旅行による感染例は毎年みられるが、国内感染例も多い。
●人獣共通感染症。家畜、イヌ、ネコ、ネズミなどにも感染がみられ、子ウシの感染率は非常に高い。ヒトへの重要な感染源である。
●先進諸国では水道水やプール遊泳による集団感染が毎年のように発生。国内でも1996年に水道水による大規模な集団感染を経験した。

■病原体・感染力
●腸粘膜上皮細胞の微絨毛内で増殖。感染性のオーシスト(直径約5μmの球形)が糞便に多数排出される。
●排出直後でも感染性があり、水中や湿潤な環境では半年、低温ではさらに長期間生存。しかし、オーシストが体外で増殖することはない。
●オーシストは、病院や家庭で使用される各種消毒液では死滅しない。水道水やプールの塩素消毒も全く無効。殺滅には乾燥あるいは70°C以上の加熱が有効。
●感染力は非常に強い。1〜数個の摂取で感染し発症する。

■感染経路
●オーシストの経口摂取による。汚染された生水、生野菜、手指などを介して感染。

■潜伏期
●4、5日。

診断と治療
■臨床症状
◎病型
●健常者と免疫不全患者、初感染か再感染か、摂取したオーシスト数、病原体の株による毒力の差などにより病型は異なる。
●健常者では自然治癒。免疫不全患者では慢性化し、重症・難治性に移行する。
●初感染では症状は重く、半年〜1年以内の再感染では軽症か無症状。

◎腸クリプトスポリジウム症
●水様下痢が多いが、粘性下痢もある。腹痛、嘔気、嘔吐、軽度の発熱を伴うが、血便をみることはない。
●健常者では普通は1日に数回〜10回程度の下痢。30回に及ぶ例もある。
●有病期間は平均6日(2〜30日程度)。
●エイズ患者では、1日に10〜20lにも及ぶコレラ様の下痢が長期間持続。体重減少と衰弱が著しく、致命的になる。

◎腸外クリプトスポリジウム症
●免疫不全患者では、慢性的腸症状に加えて胆嚢・胆管炎、膵炎、呼吸器症状を併発することも多い。各臓器に原虫の感染が認められる。

■検査所見
●検便でオーシストが検出される。
●下痢の極期には1ml当たり数百万〜1千万個ものオーシストが排出される。
●下痢終息後も1g当たり数十万〜数百万個の排出が約2週間は続く。
●血清抗体価が上昇する頃には下痢は終息するので、血清検査の診断的意味はない。
●腸生検材料のHE染色標本でも原虫を証明できるが、本症診断のための採取は不要。

■診断・鑑別診断
◎確定診断
●糞便からオーシストが検出されれば診断は確定。
●通常の原虫・虫卵検査法では検出できない。
●検出には簡易迅速ショ糖浮遊法、ショ糖遠心沈殿浮遊法、抗酸染色法、直接蛍光抗体法(DFA)などが必須。
●手技は簡単で、鏡検像に慣れさえすれば検出は容易。数分〜30分以内で診断可能。
●胆汁や喀痰からも上記の方法で検出可能。

◎鑑別診断
●細菌性下痢に比べて潜伏期間がやや長い。
●症状はジアルジア症やイソスポーラ症、サイクロスポーラ症に似る。
●途上国旅行後の患者では、細菌や他の原虫類との混合感染例も少なくないので要注意。
●抗生物質が反応しない下痢は、本症を疑う。

■治療
●免疫機能が正常であれば投薬は不要。脱水症状に留意し、自然治癒を待つ。
●先天性免疫不全、後天性免疫不全患者の場合には投薬する。
●第1選択薬はパロモマイシン。完治する例は少ないが、60〜70%に症状の改善と原虫の増殖抑制効果が認められる。腸管外感染原虫には効かない。
●腸管外感染例にはアジスロマイシンやクラリスロマイシンの投与を試みる。
●エイズ患者の場合は、HIVに有効な抗ウイルス療法は必須。
●激しい慢性下痢には水分、栄養分の補給に十分留意する。
●大量の下痢を軽減するために腸管運動抑制薬(オクトレオチドなど)を使用する。
●免疫抑制剤投与中の発症例には、その投与を一時中止する。

■経過・予後・治療効果判定
●エイズや低γ‐グロブリン血症の慢性感染例では投薬中は症状の改善がみられるが、オーシストの排出は続き、再発を繰り返す。予後は悪い。
●治療の効果判定には、下痢の改善度の比較、糞便内オーシストの計数を行う。

■合併症・続発症とその対応
●免疫不全患者が腸管外感染を起こすと難治性になる。早期診断と早期治療開始が欠かせない。定期的に検便を実施する。
●非定型抗酸菌症の予防や治療に使用されるクラリスロマイシンやリファブチン(rifabutin)の持続投与が本症の発症予防にも有効との報告がある。

■2次感染予防・感染の管理
●患者の糞便の取り扱いには細心の注意が必要。
●医師は患者およびその家族に対して、次の諸点を教示・指導する。1.有効な治療薬がない。激しい下痢を起こし、免疫不全症のヒトが感染すると致命的になる。2次感染の予防が大切。2.患者の下痢便には1日に数十億個もの病原体が排出される。ゴマ粒程度の便にも数千〜数万個が含まれる。3.感染力が非常に強く、1〜数個が口から入れば感染する。C病原体は消毒液では死滅しない。加熱あるいは乾燥が有効。
4.患者の便が付着したおむつや下着は、熱湯をかけてから洗濯する。5.おむつや汚れた下着を触った後は、流水で手をよく洗う。6.感染者の入浴は家族の中で最後にし、湯を抜いた後の湯舟および洗い場には90°C以上の熱湯をかける。7.下痢発症中はもちろん、下痢終息後も2週間はスイミングプールや公衆浴場を使用しない。
●免疫不全患者を担当する医師は、患者に次の諸点を教示・指導する。1.上記の1〜4。2.日常生活で生水を飲まない。水道水も飲用、炊事、口すすぎには1分間煮沸するか、1μm以上の粒子を除去できる家庭用浄水器で濾過したものを使用する。3.国内・海外旅行の際にも携帯用浄水器(中空糸膜を使用した小型・軽量で便利なものが市販されている)を使う。4.土や動物を触った後は、手洗いを励行する。5.下痢が続く場合は必ず受診する。
●消化器内視鏡を扱う医師は、機器の消毒に留意し院内感染防止に努める。
●患者の隔離は不要。
●予防ワクチンはない。



出典:日本医師会編・発行≪日本医師会生涯教育シリーズ≫「感染症の診断・治療ガイドライン」より、日本医師会の許可を得て転載