■野兎病
Tularemia,Yato‐Byo
病原体:野兎病菌Francisella tularensis
好発年齢:特になし
性差:野生動物との接触によるため男性に多い
分布:ほぼ北緯30度以北の北半球(北米、欧州、北アジア)
野兎病の背景
●フランシス病、牛バエ熱、ウサギ熱、大原病、コブウサギなどとも呼ばれたことがある。野兎病は本来は野生動物の疾病でヒトにも感染する細菌性疾患である。また野兎病菌を持ったダニ、蚊、アブなどに刺されても感染する。
●1911年米国カリフォルニア州Tulare郡でペスト様疾患に感染したハタリス(Ground Squirrel)から原因菌が分離され、地名にちなんでBacteriumtularense(現在のFrancisella
tularensis)と命名された。さらに1921年にEdward Francisはヒトに感染する疾患群をツラレミアの呼称に統一した。日本では、1924年、大原八郎が罹患野兎から感染したヒトの例を初めて観察し、野兎病と命名した。
■病原体・毒素
●野兎病菌(Francisella tularensis)、グラム陰性の短桿菌で、球菌、長桿菌、時には鞭毛様突起が出現するなど多形性を示す。非運動性、無芽胞で極染色性を示す。
●北米に分布する亜種の1つは病原性が強く、欧州・アジア型の亜種はすべて病原性が弱い。抗生物質未使用では死亡率9.5%、抗生物質が使用されるようになってからは1%程度。日本の野兎病菌は弱毒であるため通常、死亡することはない。
■感染経路
●野兎および野生の齧歯類などの疾病で汚染動物から直接、あるいはマダニ、アブなど節足動物が媒介して感染する。ヒトは感受性が高く、健康な皮膚からも感染する。国外では汚染生水による経口感染、病原体の吸入による呼吸器感染も起こっている。通常、ヒトからヒトへの感染はない(潰瘍部からの滲出物は感染源となる)。
■潜伏期間
●通常3日をピークとする1〜7日が多い。
診断と治療
■臨床症状
●患者は突然、悪寒、波状熱(39〜40℃)、頭痛、筋肉痛、関節痛、嘔吐などの症状を示す。
●表在型(潰瘍リンパ節型)では菌が侵入した部位に潰瘍が生じ、所属リンパ節が痛み、腫脹する。
●内臓型(チフス型)では発熱、まれに意識障害、髄膜刺激症状を示す。
●敗血症はまれ(5%以下)。治療が遅れると症状が何週間も続き、発汗、悪寒、体力消耗、体重減少。
●各病型の経過中に蕁麻疹様、多形滲出性紅斑などの皮疹をみることがある。
■検査所見
●白血球増多、血沈亢進、CRP上昇がみられる。一過性にGOT、GPT値の上昇、尿蛋白陽性。
■診断・鑑別診断
●凝集試験:患者血清中の野兎病菌凝集抗体を測定する。凝集価は発症1週後から上昇して、3〜4週でピークとなる。1週おきに2回測定すれば、既往者と鑑別可能。
●菌検出:病変部からの直接菌分離は困難。菌発育にはシスチンを必要とする。ユーゴン血液寒天培地が実用的。通常罹患リンパ節などの乳剤をマウス腹腔内に接種し、発症あるいは死亡後血液を培養する。また組織片スタンプで蛍光抗体試験、病理切片で免疫染色により菌体を検出する方法も有効である。
●鑑別診断:菌の侵入経路により異なる症状を示すので注意が必要である。初期は感冒様症状。以下の疾患との鑑別を要する。
ツツガムシ病、日本紅斑熱、ネコ引っ掻き病、ブルセラ症、鼠咬症、結核、ペスト
●病理組織学的には結核に酷似する。
■治療
●全身治療:ストレプトマイシン(SM)が有効(1g/日で総量12〜15g注射)。クロラムフェニコール、テトラサイクリン(TC)、マクロライド系が有効。通常TC1日1g分4で経口投与し、SMと併用する。TCは2週間続けたあと、減量して1〜2か月服用。ただし、マクロライド系には自然耐性菌株が存在するので注意を要する。ペニシリン系、セファロスポリン系は無効。
●局所治療:
1 )膿瘍化したリンパ節を穿刺し排膿(3〜4日ごと)。症例によってはストレプトマイシンの局所注入(0.1〜0.2g注入、2〜3回)。
2 )切開後、病巣を十分に掻爬する(難治性瘻孔にならないようにする)。
■予防
●ロシアでは弱毒株(RV株)を生ワクチンとして用いて年間1,000万人以上に接種し、流行を防止した(1950年)。RV株から改良された弱毒生ワクチン(LVS株)があり、米国では実験室バイオハザード対策として1959年から使用されている。
●免疫は数か月から数年間持続する。
■予後・合併症
●一般に良好。治療が適切でないと、リンパ節炎の再発、リウマチ様関節痛など慢性症状に移行することがある。
■二次感染予防
●55℃、10分の加熱で不活化できる。
●菌で汚染された表面は0.5%次亜塩素酸ナトリウムと70%アルコールの噴霧で消毒可能。