●サル類のエボラ出血熱・マールブルグ熱
●プレーリードッグのペスト
●野兎病


■サル類のエボラ出血熱・マールブルグ熱

Ebola hemorrhagic fever and Marburgdisease in non-human primates

病原体:エボラウイルスEbola virus、マールブルグウイルスMarburg virus
好発年齢:特になし
性差:特になし
分布:アフリカ、フィリピン、米国、イタリア、ドイツ、ユーゴスラビア

サル類のエボラ出血熱の背景
●サル類は自然宿主ではなく、ウイルスを保有する未知の動物から感染する。
●ヒトに致死性の感染を起こすエボラ出血熱ウイルス(アフリカ型:ザイール、スーダン、コートジボワール株)とサル類には致死性であるが、ヒトに病原性を示さないエボラウイルスレストン株(アジア型)がある。
●チンパンジーを除きサル類のエボラ出血熱(アフリカ型)の自然感染は知られていない。

■臨床的特徴
●最も病原性の強いザイール株の接種では、カニクイザル、アフリカミドリザルともに6〜10日の経過で100%死亡する。
●スーダン株では7〜11日の経過でカニクイザルは死亡し、アフリカミドリザルは耐過する。
●レストン株接種ではアフリカミドリザルは耐過し、カニクイザルは、11〜19日の経過で50%の率で死亡する。
●チンパンジーの自然感染例(コートジボワール、ガボン)はいずれも死亡例である。
●ザイール株接種例では元気消失、沈うつになり、食欲は廃絶する。出血斑が胸部、上腕内側、大腿部に認められる。血小板の減少、肝機能の強度の障害がみられる。
●レストン株の感染ではカニクイザルでも出血斑はみられないが、肝機能障害は認められる。

■感染経路
●コートジボワールおよびガボンでチンパンジーのエボラ出血熱(アフリカ型)、フィリピンおよびフィリピンから輸出されたカニクイザルの米国、イタリアでのサルエボラ出血熱(レストン株、アジア型)が知られている。

診断と治療
■診断
●アフリカ型に感染したサル類は短期間で発症するので、検疫期間中に流行が起これば、きわめて高い致死率になる。
●蛍光抗体法(FA)、免疫組織化学による抗原検出(肝臓、脾臓)。
●電子顕微鏡によるウイルス検出(主として脾臓、肝臓)。
●PCRによるウイルスゲノムの検出(唾液、血液、肝臓、脾臓)。
●耐過例では抗体検査(ELISA、ウエスタンブロット法など)。
●解剖時にみられる広範な出血病変、実質臓器の壊死。
●病理組織学的な肝の巣状壊死、好酸性細胞質内封入体、網内系の壊死は診断の助けになる。

■コメント
エボラウイルスには大きく4株あることが知られている。ヒトに病原性を示す株はいずれもアフリカで流行している。最も病原性の高い株はザイール株で、1976、77年と95年にザイールで流行している。ヒトでの致死率は約80%。これよりやや病原性の弱い株がスーダン株で1976と79年にスーダンで流行しており、致死率はほぼ50%。他の2株はサル類が関与している。コートジボワール株は1994年、象牙海岸のタイ森林公園で死亡しているチンパンジーを解剖した3人のうち1人が発病した。1996年にはガボンでウイルスに感染したチンパンジーの肉を食用に用いたために起こった(致死率57%)。アジア型は1989年米国レストン検疫所で輸入カニクイザルが多数死亡したのが最初である。その後90年に米国で、92年にイタリアで、96年に米国で、いずれも輸入ザルが発症死亡している。いずれもフィリピンの同一業者が出荷したものである。

サル類のマールブルグ病の背景
●サル類は自然宿主ではなく、ウイルスを保有する未知の動物から感染する。
●現在まで、ヒトを含め感染の由来はアフリカである。

■臨床的特徴
●アフリカミドリザルは、本ウイルスに対して高い感受性を示す。皮下接種では7〜9日、接触感染では15〜36(平均20)日の潜伏期で100%死亡。自然感染時の潜伏期は1〜2週間と考えられる。
●アカゲザルは、皮下接種で7〜9日、接触感染で16〜18日の潜伏期で100%死亡。直接接触で感染し、空気感染は起こらない。特徴的な臨床症状は出現しない。死亡の1〜2日前に元気消失、沈うつになる。通常、ケージの隅に縮こまって座り、食欲は廃絶、周りにわずかに反応する程度である。時に発疹や眼瞼周囲の浮腫がみられる。

■感染経路
●1967年、ドイツのマールブルグ、ユーゴスラビアなどでアフリカウガンダ由来のアフリカミドリザルの解剖時、血液に接した31名が発症、7人が死亡した。血液との接触で感染拡大がみられた。

診断と治療
■診断
●アフリカミドリザルでは、ウイルスは唾液、血液、尿中に多量に存在しており、容易にサルからサルに伝播する。感染したサルは短期間で発症するので、検疫期間中に流行が起これば、きわめて高い致死率になる。
●FAによる抗原検出(主として脾臓、肝臓塗抹)。
●電子顕微鏡によるウイルス検出(脾臓、肝臓)。
●PCRによるウイルスゲノムの検出。
●不顕性感染例はほとんどないので抗体の検出は効果的でないが、感染後10日以上生存すれば抗体は上昇する。
●解剖時にみられる筋、胸膜下、心筋などの広範な出血病変、病理組織学的な肝の巣状壊死、好酸性細胞質内封入体、網内系の壊死は診断の助けになる。

■コメント
1967年、当時の西独マールブルグ、フランクフルトおよびユーゴスラビアのベオグラードでワクチン製造のためにウガンダから輸入したアフリカミドリザルが感染源となり突然発生した。このときの感染者は31人で、7人(23%)が死亡。その後1975年に南アで3人が発病し1人死亡。1980年にはケニアで2人の患者が出ており、また1982年南アで、1987年ケニアで散発的に感染が起こっている。1999年コンゴでの発生が報告された。


■プレーリードッグのペスト

病原体: Yersinia pestis (ペスト菌)
好発年齢:なし
性差:なし
プレーリードッグの分布域:北米大陸
好発時期:温帯では春から夏
感染経路:ヒトへの感染は感染ノミの刺咬、あるいは感染動物との接触
     プレーリードッグへの感染はenzootic host(ペスト菌の自然界での維持に関わる動物)のノミによる刺咬
潜伏期間:プレーリードッグでのデータは存在しない。ジリスでの感染実験成績から2〜7日程度と考えられる。なお、実験用マウスを用いた感染実験では感染後数日で 症状を呈する。
感染期間:げっ歯類では死亡の数時間前まで明らかな徴候を示さない場合が多い。従って潜伏期と感染期間はほぼ一致する。
症状:野生げっ歯類では行動異常が認められる場合もあるが、ペストによるかの断定はできない。カリフォルニアジリスにおける感染実験では接種部位の所属リンパ節の腫脹を呈する個体が認められている。また鼻出血が認められる場合がある。
オーダーする検査:菌分離、遺伝子検出
確定診断のポイント:検体からのペスト菌の分離、あるいは遺伝子の検出


プレーリードッグのペストの背景

●プレーリードッグはリス科のげっ歯類で、オグロプレーリドッグ(Cynomys ludovicianus、テキサスからカナダにかけて分布)、オジロプレーリードッグ(C.leucurus、コロラド、ユタ、ワイオミング、モンタナ)、グニソンプレーリードッグ(C. gunnisoni、コロラド、ユタ、アリゾナ、ニューメキシコの4州の境界部))、ユタプレーリードッグ(C. parvidens、ユタ)、メキシコプレーリードッグ(C. mexicanus、メキシコの一部)の5種が北米大陸に生息している。プレーリードッグはジリスなどとともにペストのいわゆるepizootic host(増幅動物)である。

■疫学
●ペストは本来げっ歯類とその外部寄生昆虫であるノミとの間で維持されている。enzootic host(ペスト菌の自然界での維持に関わる動物)はペスト菌感染に抵抗性を示し、繁殖能力が高く、寿命が短い必要がある。ハタネズミ(Microtus spp)、シカネズミ(Peromyscus spp)などが、これらの特徴を有すると考えられる。また、これらの動物に寄生するノミが通年にわたり活動することがペスト菌の維持に重要である。通常enzootic hostからヒトへの感染は起こらず、epizootic hostでの流行からヒトへの感染が拡大する。epizootic hostはペスト菌に対する感受性が割合高く、死亡率が高い。北米ではジリス (Spermophilus spp)、ヒメシマリス(Eutamias spp)、トウブキツネリス(Sciurus neger)、ウッドラット(Neatoma spp)およびプレーリードッグがepizootic hostとして知られている。1959年から1998年までにアメリカ合衆国で393例のヒトにおけるペストの発生が記録されているが、240例(61%)で感染源が特定できている。そのうち31例(13%)がプレーリードッグあるいはその寄生ノミから感染したとされている。図はコロラド州のデータであるが、全米と同様の傾向を示している。


Colorado Department of Public Health and Environment

●プレーリードッグは何れの種もペストに対し極めて感受性が高く、死亡率は99%以上とされている。従ってプレーリードッグは維持宿主とはなりにくい。また、既に述べたようにヒトのペストの10%強がプレーリードッグを感染源としているが、プレーリードッグのノミ(Oropsylla spp)はヒトからの吸血をあまり好まないことが知られており、プレーリードッグのノミの刺咬によるヒトの感染は稀である。感染プレーリードッグを直接扱うか、プレーリードッグのノミの吸血により感染した、他のげっ歯類あるいは哺乳類のノミの刺咬により感染することが考えられる。日本国内に輸入され長期間飼育されているプレーリードッグがペストに罹患しているあるいはペスト菌を保有している可能性は考えにくい。しかし輸入して間もない動物における原因不明の死亡などの場合にはペストも疑う必要がある。

■診断
●動物が死亡した場合にはペスト菌の莢膜抗原(fraction 1)特異的抗体を用いた直接蛍光抗体法により菌体の検出を行う。この方法は抗体の特異性が高ければ非常に有効であり、また、死後時間が経過していても大腿骨の骨髄などを検体にすれば判定できる利点がある。確定には菌分離、遺伝子検出などを行う。検査は地方自治体の衛生研究所等で可能である。なお、分離法及びPCRのプライマー等は平成14年2月の感染研で行った希少感染症事業研修会で配布したマニュアルに記載してあるので参照されたい。

■病理
●ペストで死亡したプレーリードッグにおける病理学的情報は極めて少ないが、他のげっ歯類での報告が参考にできるかもしれない。
カリフォルニアジリスでのペストにおいて急性症状を示した個体では出血性リンパ節腫脹、脾腫が認められたが、肝臓の壊死性結節は認められなかったとされる。また、亜急性感染では、壊死性リンパ節腫脹、肝臓および脾臓における壊死性結節が認められている。治癒した例では、化膿性巣状壊死を伴うリンパ節腫脹を認めるのみであった。同じくカリフォルニアジリスの実験感染では膿瘍形成をしばしば伴う脾腫を認めている。また、鼻出血が高頻度に認められている。イワリスの実験感染でも鼻出血ならびに腹部および胸部の点状出血が認められる場合があると報告されている。また肺炎を呈している個体も認められている。

ペストに罹患した疑いのあるプレーリードッグの取り扱いに関する注意事項について
■概要
●プレーリードッグはペストに対して極めて感受性が高く、感染するとほぼ100%の動物が死亡するので、国内で長期間飼育されているプレーリードッグがペストを発症する可能性は極めて低い。また、たとえペストの常在地からの輸入個体であっても輸出国で充分な衛生管理及び繋留観察等がなされ、それが確認された健康な個体であれば、輸入後にペストを発症する可能性は極めて低いと考えられる。しかし、ペストを疑う症状を発した動物を扱う場合には、万が一に備えて十分な個人防護策を講じることは有益である。

■標準的予防策等
●ペストは動物に寄生するノミによる刺咬でヒトに感染する場合が最も普通である。従って、ノミによる咬傷を受けないことが極めて重要である。感染を疑う動物を扱う場合には、なるべく皮膚の露出を避ける。また、露出部分に、忌避剤(有効成分N, Nジエチルトルアミド等)を塗布し、着衣には殺虫剤(合成ピレスロイド系殺虫剤等)を染み込ませるなどの対策が有効である。
また、ペストは感染動物の体液等により直接感染する場合もあるので、感染の疑いのある動物を扱う場合には上記の注意事項に加えて、マスク、手袋、ゴーグル等を着用する必要がある。解剖する場合には安全キャビネット内で行う。この場合バイオセーフティレベル2の実験室で行って差し支えない。
動物が生存している場合には麻酔するなどにより、動物から危害を受けないような注意が必要である。また、動物に寄生しているノミの殺虫を行うことを推奨する。外部寄生虫駆除に有効な薬剤(有効成分フィプロニル、トリクロルホン等)による噴霧、薬浴などを考慮すべきである。
万が一感染を疑われる動物や当該動物に寄生するノミなどからヒトへの感染が起きた可能性がある場合には、速やかに抗生物質による曝露後予防を行う必要がある。

国立感染症研究所獣医科学部長 山田章雄 
国立感染症研究所細菌第一部長 渡邊冶雄 


■野兎病

Tularemia,Yato‐Byo

病原体:野兎病菌Francisella tularensis
好発年齢:特になし
性差:野生動物との接触によるため男性に多い
分布:ほぼ北緯30度以北の北半球(北米、欧州、北アジア)

野兎病の背景
●フランシス病、牛バエ熱、ウサギ熱、大原病、コブウサギなどとも呼ばれたことがある。野兎病は本来は野生動物の疾病でヒトにも感染する細菌性疾患である。また野兎病菌を持ったダニ、蚊、アブなどに刺されても感染する。
●1911年米国カリフォルニア州Tulare郡でペスト様疾患に感染したハタリス(Ground Squirrel)から原因菌が分離され、地名にちなんでBacteriumtularense(現在のFrancisella tularensis)と命名された。さらに1921年にEdward Francisはヒトに感染する疾患群をツラレミアの呼称に統一した。日本では、1924年、大原八郎が罹患野兎から感染したヒトの例を初めて観察し、野兎病と命名した。

■病原体・毒素
●野兎病菌(Francisella tularensis)、グラム陰性の短桿菌で、球菌、長桿菌、時には鞭毛様突起が出現するなど多形性を示す。非運動性、無芽胞で極染色性を示す。
●北米に分布する亜種の1つは病原性が強く、欧州・アジア型の亜種はすべて病原性が弱い。抗生物質未使用では死亡率9.5%、抗生物質が使用されるようになってからは1%程度。日本の野兎病菌は弱毒であるため通常、死亡することはない。


■感染経路
●野兎および野生の齧歯類などの疾病で汚染動物から直接、あるいはマダニ、アブなど節足動物が媒介して感染する。ヒトは感受性が高く、健康な皮膚からも感染する。国外では汚染生水による経口感染、病原体の吸入による呼吸器感染も起こっている。通常、ヒトからヒトへの感染はない(潰瘍部からの滲出物は感染源となる)。

■潜伏期間
●通常3日をピークとする1〜7日が多い。

診断と治療
■臨床症状
●患者は突然、悪寒、波状熱(39〜40℃)、頭痛、筋肉痛、関節痛、嘔吐などの症状を示す。
●表在型(潰瘍リンパ節型)では菌が侵入した部位に潰瘍が生じ、所属リンパ節が痛み、腫脹する。
●内臓型(チフス型)では発熱、まれに意識障害、髄膜刺激症状を示す。
●敗血症はまれ(5%以下)。治療が遅れると症状が何週間も続き、発汗、悪寒、体力消耗、体重減少。
●各病型の経過中に蕁麻疹様、多形滲出性紅斑などの皮疹をみることがある。

■検査所見
●白血球増多、血沈亢進、CRP上昇がみられる。一過性にGOT、GPT値の上昇、尿蛋白陽性。

■診断・鑑別診断
●凝集試験:患者血清中の野兎病菌凝集抗体を測定する。凝集価は発症1週後から上昇して、3〜4週でピークとなる。1週おきに2回測定すれば、既往者と鑑別可能。
●菌検出:病変部からの直接菌分離は困難。菌発育にはシスチンを必要とする。ユーゴン血液寒天培地が実用的。通常罹患リンパ節などの乳剤をマウス腹腔内に接種し、発症あるいは死亡後血液を培養する。また組織片スタンプで蛍光抗体試験、病理切片で免疫染色により菌体を検出する方法も有効である。
●鑑別診断:菌の侵入経路により異なる症状を示すので注意が必要である。初期は感冒様症状。以下の疾患との鑑別を要する。
 ツツガムシ病、日本紅斑熱、ネコ引っ掻き病、ブルセラ症、鼠咬症、結核、ペスト
●病理組織学的には結核に酷似する。

■治療
●全身治療:ストレプトマイシン(SM)が有効(1g/日で総量12〜15g注射)。クロラムフェニコール、テトラサイクリン(TC)、マクロライド系が有効。通常TC1日1g分4で経口投与し、SMと併用する。TCは2週間続けたあと、減量して1〜2か月服用。ただし、マクロライド系には自然耐性菌株が存在するので注意を要する。ペニシリン系、セファロスポリン系は無効。
●局所治療:
1 )膿瘍化したリンパ節を穿刺し排膿(3〜4日ごと)。症例によってはストレプトマイシンの局所注入(0.1〜0.2g注入、2〜3回)。
2 )切開後、病巣を十分に掻爬する(難治性瘻孔にならないようにする)。

■予防
●ロシアでは弱毒株(RV株)を生ワクチンとして用いて年間1,000万人以上に接種し、流行を防止した(1950年)。RV株から改良された弱毒生ワクチン(LVS株)があり、米国では実験室バイオハザード対策として1959年から使用されている。
●免疫は数か月から数年間持続する。

■予後・合併症
●一般に良好。治療が適切でないと、リンパ節炎の再発、リウマチ様関節痛など慢性症状に移行することがある。

■二次感染予防
●55℃、10分の加熱で不活化できる。
●菌で汚染された表面は0.5%次亜塩素酸ナトリウムと70%アルコールの噴霧で消毒可能。




出典:日本医師会編・発行≪日本医師会生涯教育シリーズ≫「感染症の診断・治療ガイドライン」より、日本医師会の許可を得て転載