パンデミック・インフルエンザ(H1N1)-更新

WHO(GAR)  2010年1月29日

今週の更新情報

2010年1月24日現在、世界中の209以上の国や地域から少なくても14,711人を超える死亡例を含む、パンデミック・インフルエンザH1N1の検査確定症例が報告されています。

WHOは、WHO地域事務局や加盟国との頻繁な協議や、複数のデータのモニタリングを通して、流行の経過を積極的に監視しています。

最新の状況

北半球の温帯地域の大部分で、秋・冬季のパンデミック・インフルエンザの活動性は、2009年10月下旬から 11月下旬の間にピークを越えましたが、遅れて流行が始まった数ヶ所の地域、特に、北アフリカ、東部・南東部ヨーロッパの限られた地域、南・東アジアの一部では、ウイルスの感染は依然として活発です。

北アフリカでは、限られたデータですが、パンデミック・インフルエンザウイルスの感染は、依然として活発で、地理的に広範囲にわたっており、特に、モロッコ、アルジェリア、リビア、エジプトでは、活発で、広範囲に流行しています。しかし、この地域の大多数の国では、先頃、2009年12月あるいは2010年1月の間に活動性のピークが過ぎたようです。西アジアでは、パンデミック・インフルエンザウイルスの感染の地理的な広がりは、依然として、地域的な広がりか、広範囲にわたっていますが、活動性の水準は、2009年12月以降、減少が続いているか、低いままです。

南アジアでは、パンデミック・インフルエンザの活動性は依然として活発ですが、地理的な広がりは一定していません。最近、12月下旬と2010年1月上旬に活動性のピークが観察されたのは、インド北部、ネパール、スリランカです。インフルエンザの活動性は安定していますが、インド西部では上昇し、インド北部では大幅な減少が続いており、インド南部と東部では全体として低いままです。バングラデシュでは、インフルエンザの活動性は、地域的な広がりであり、呼吸器疾患の活動性の強さは弱いと報告されました。

東アジアでは、パンデミック・インフルエンザの感染は、依然として活発ですが、大部分の国では、全体的な活動性は低下し続けています。北朝鮮で、呼吸器疾患が局地的に広がっており、増加傾向であると報告されました。韓国では、パンデミック・インフルエンザの感染は、依然として活発です(パンデミックH1N1が陽性になった呼吸器検体は20%を超えています)が、全体としての活動性は、2009年11月にピークに達してから、減少し続けています。日本では、インフルエンザの活動性は減少し続けていますが、南部の沖縄で高水準の感染が続いています。中国の北部・南部では、パンデミック・ウイルスの分離数は、2009年上旬から中旬にかけてピークに達し、それ以降、大幅に減少していますが、最近数週間で、B型インフルエンザウイルスの検出が増加しました。

東南アジアでは、パンデミック・インフルエンザウイルスの感染は持続していますが、現在の活動性は低い水準です。ベトナムでは、インフルエンザの活動性は、 2009年10月と11月の間にピークに達して以降、大幅に減少しました。タイでは、北部と中部の数県で、局地的に、インフルエンザが突発的に発生しましたが、全体的なILIの活動性は低いままです。

ヨーロッパでは、パンデミック・インフルエンザウイルスの感染の地理的な広がりは、大陸の中部・東部・南東部では、依然として、地域的な広がりか、広範囲にわたっていますが、大部分の地域では、全体的な活動性は減少し続けています。数ヶ国(オーストリア、アルバニア、ブルガリア、スロバキア、ロシア)が、 ARIあるいはILIの活動性の水準がわずかに増加したと報告しましたが、大部分の国では、依然として、活動性の水準は最近のピークをかなり下回っています。インフルエンザ陽性となった呼吸器検体の全体的な割合は、2009年11月上旬にピークに達した(45%)後、低下し続けています(16%)。

アメリカ大陸では、熱帯地域も、北部の温帯地域も、大部分の地域で、全体的なパンデミック・インフルエンザの活動性は、減少し続けているか、低いままです。注目すべきこととして、アメリカ大陸の数ヶ国で、RSウイルスの検出数が増加しており、その地域の、特に小児におけるILIの活動性が上昇した原因の一部であるかもしれません。アメリカとカナダでは、ILIの割合が、季節性のベースラインよりも低下するにつれ、パンデミック・インフルエンザウイルスの検出数、重症患者数、死亡者数が、かなり減少しました。中米とカリブ海沿岸諸国では、パンデミック・インフルエンザの感染は持続していますが、大部分の地域では、全体的な活動性は低いか、変化がないままです。

南半球の温帯地域では、パンデミック・インフルエンザの散発例が報告され続けていますが、地域での持続した感染はみられていません。

パンデミック・インフルエンザ(H1N1)2009ウイルスは、世界中で流行している優勢なウイルスとしてとどまっています。季節性のH3N2とB型のウイルスは、アフリカ、東アジア、東南アジアの一部で、低い水準で流行していており、その他の大陸では、散発的に検出されているだけです。

グローバルインフルエンザサーベイランスネットワーク(GISN)は、パンデミック・インフルエンザウイルスや季節性のインフルエンザウイルス、その他のインフルエンザウイルスを含む、人に感染する、あるいは人に感染する可能性のあるインフルエンザウイルスの世界的な広がりを監視し続けています。ウイルス学的なサーベイランスと抗ウイルス薬に対する耐性についてのより詳しい情報は、下記のウイルスのサーベイランスデータの更新情報を参照してください。

ウイルスのサーベイランスデータの更新情報

  1. (*):温帯地域とは、北回帰線の北にある、または南回帰線の南にある地域、そして、熱帯地域とは北回帰線と南回帰線の間にある地域と定義します。
  2. (**):略記として、 インフルエンザ様疾患(ILI)、急性呼吸器感染症(ARI)、重症急性呼吸器感染症(SARI) と記載しています。

発表された文献から:

ビクトリア(オーストラリア)の、パンデミックH1N1インフルエンザ感染が検査で確定した、入院した妊婦 43人の一連の事例は、妊娠中にインフルエンザに感染する危険性を強調しています(Hewagamaらによる、CID 2010:50)。この研究では、妊婦のうち半数には基礎疾患がありませんでしたが、この集団全体としての、喘息、糖尿病、肥満の有病率は、オーストラリアの一般集団で観察された頻度よりも高率でした。患者の大部分は、妊娠第2期(30%)、第3期(65%)に発症しました。最もよくみられた臨床症状は、合併症のないインフルエンザ様疾患(58%)でしたが、約28%には肺炎の所見があり、20%では集中治療が必要で、1人が死亡しました。妊娠37週未満の15人の女性のうち6人(40%)は早産で、その6例のうち2例は子宮内胎児死亡であり、1例は分娩後に死亡しました。早産の6人の妊婦のうち5人には、胸部X線写真で肺炎の所見もありました。また、特に、早産に関連した合併症で死亡した1人を含む、7人の新生児でH1N1の検査が実施されましたが、すべて、H1N1は陰性でした。

妊娠中のインフルエンザの症状の範囲は、軽症から重症まで広いのですが、この発表は、特に妊娠第2期と第3期で、基礎疾患がある場合、妊娠に関連してインフルエンザが重症化する危険性が増加することを改めて明らかにしています。さらに、WHOの臨床管理ガイドラインでは、妊娠を、重症化の危険性が高い状態と評価しており、妊婦には、他の危険因子がなくても、オセルタミビル、あるいはザナミビルでの早期治療を推奨しています。

質的な指標(第29週~第2週:2009年7月13日~2010年1月17日)

質的な指標としてモニターされている事象:インフルエンザの地理的な広がり、呼吸器疾患の傾向、急性呼吸器疾患の強さ(急性呼吸器疾患患者が人口に占める割合)、パンデミックが医療サービスに及ぼす影響

全世界的調査のために更新されたWHOの暫定ガイダンス

パンデミックの全世界的なモニタリングとサーベイランスの目的と方法については、この暫定ガイダンスを参照してください。

以下のリンク先に示されている地図は、質的な指標を示します。各週、約60ヶ国の情報を示しています。モニタリングは継続中であり、報告は時間が経過するとともに完全なものになると思われます。

2010年1月24日現在、IHR(国際保健規則)によってWHOに公式報告された、パンデミック・インフルエンザ(H1N1)2009の検査確定診断症例数

感染者が確認された国と、死亡例が確認された国を示した地図

前回の更新情報(1月22日付)から、新たにパンデミック・インフルエンザ(H1N1)2009の確定例が報告された国や地域はありません。

前回の更新情報(1月22日付)から、新たにパンデミック・インフルエンザ(H1N1)2009の死亡例が報告された国や地域:キプロス、ナイジェリア

地域死亡者数
アフリカ地域事務局(AFRO)133
アメリカ地域事務局(AMRO)7166超
東地中海地域事務局(EMRO)1002
ヨーロッパ地域事務局(EURO)3429超
東南アジア地域事務局(SEARO)1426
西太平洋地域事務局(WPRO)1555
総数14711超

死亡者の報告数は、多くの死亡者で検査を実施しないか、インフルエンザに関連していると認識されないので、実際の死亡者数を下回ります。

詳しくは、こちらをご覧ください