パンデミックインフルエンザ(H1N1)

WHO(GAR)  2010年5月7日

今週の更新情報

2010年5月2日現在、世界中の214以上の国や地域から少なくとも18,001人を超える死亡例を含む、パンデミック・インフルエンザH1N1 2009の検査確定症例が報告されています。

WHOは、WHO地域事務局や加盟国との頻繁な協議や、複数のデータのモニタリングを通して、流行の経過を積極的に監視しています。

最新の状況

パンデミック・インフルエンザの感染が最も活発にみられているのは、西アフリカ、カリブ海地域及び東南アジアです。パンデミック・インフルエンザは北半球・南半球の温帯地域では、概して散発的な発生に留まっています。一方、季節性のB型インフルエンザの発生はアジア、アフリカ、ヨーロッパ及びアメリカで認められていますが、東及び中央アジア、南ヨーロッパ、中央アフリカでは晩期に流行した季節性インフルエンザウイルスの検出が低い程度ながら続いているようです。

サハラ以南地域のアフリカでは限られた情報ですが、西アフリカの一部でパンデミック・インフルエンザの活動性伝播が継続していることが示唆されており、一方、中央アフリカの一部では弱いながら季節性B型インフルエンザの流行が認められるようです。ガーナではパンデミック・インフルエンザの検出は2010年4月初めにピークとなって以降、減少しているようです。最新の週報によると14%の気道由来検体からパンデミック・インフルエンザが検出された模様です。カメルーンでは低い程度でパンデミック・インフルエンザと季節性B型インフルエンザが流行していますが、後者の方が2010年4月時点で優勢でした。コンゴ民主共和国では季節性インフルエンザH3N2が2010年2月から3月半ばにかけて流行しましたが、4月には大部分が季節性B型インフルエンザの流行に取って代わられました。局所的な、パンデミック・インフルエンザの弱い流行がルワンダやタンザニアを中心に東アフリカの一部で見られました。季節性インフルエンザH3N2は東アフリカ、中央アフリカ、西アフリカ中で散発的に認められました。

アメリカの熱帯地域では限られた情報ですが、いくつかの国で活発なパンデミック・インフルエンザの流行が示唆されています。中央アメリカのグアテマラでは3週連続で呼吸器疾患の報告が増えており、その背景に地域的なパンデミック・インフルエンザの広がりがありました。また、重症例の増加があります。キューバではパンデミック・ウイルスの検出や重症例が3月下旬以降増えていますが、その活動性はここ数週間で峠を越しました。ペルーでは首都での5歳未満の肺炎症例が7週連続で増えており、流行閾値を未だに超えています。しかしながらこれらの肺炎がパンデミック・インフルエンザH1N1に起因するか、地域で流行している他の気道親和性ウイルスが関与しているのか明らかではありません。この地域全般の2010年4月の呼吸器疾患の頻度は低から中等度にとどまりましたが、パンデミック・インフルエンザはキューバやバルバドスで蔓延しており、短期間にはメキシコ、ホンジュラス、ニカラグア、コロンビア、ベネズエラ、ブラジル、エクアドル及びボリビアで地域的に流行していると報告されました。

東南アジアのいくつかの国ではパンデミック・インフルエンザの活発な流行が認められますが、呼吸器疾患の程度は一定しないようです。マレーシアでは情報は限られていますがパンデミック・インフルエンザの伝播は継続しており、重症例を含む新たな症例の報告が続いています。また、メディアは特に2010年4月末から5月にかけて、学校での集団発生を報告しました。シンガポールでは2010年4月初旬以降、国内でのARIは一様に増加していて、現段階で流行閾値を越えたようです。最新の週報では基幹病院の気道由来検体のうち37%がパンデミック・インフルエンザ陽性でした。タイでは基幹病院のILIで受診した外来患者や肺炎で入院している呼吸器患者のパンデミック・インフルエンザ陽性率は2010年3月下旬にピークを認め、それ以後は減少しているようです。

南アジアでパンデミック・インフルエンザが最も流行している地域はバングラディシュですが、ここではパンデミック・インフルエンザと季節性B型インフルエンザが2010年4月半ばから流行していて、これにともなって呼吸器疾患の報告も増えています。しかしながら、これら2つのウイルスの低レベルの共流行は2010年2月から確認されました。インドでは西部や南部で局所的なパンデミック・インフルエンザが低レベルではありますが引き続き認められます。

東アジアでは非常に少なくはありますがパンデミック・インフルエンザが引き続き検出されています。この地域の全般としての呼吸器疾患の頻度は低いものですが、この地域の低レベルのインフルエンザ活動性は主に季節性B型インフルエンザによって引き起こされているようです。モンゴル、中国、韓国の三カ国は冬季に早期の、全体として程度の強いパンデミック・インフルエンザの流行に続く季節性B型インフルエンザの持続する流行を経験しています。中国、韓国では季節性B型インフルエンザが減少傾向にあるものの活動性の流行を続けているようです。

南半球の温帯地域では、パンデミック・インフルエンザも季節性インフルエンザも活動は散発的にとどまっています。ただし、チリは例外でパンデミック・インフルエンザがコミュニティで低レベルの流行が続いている証拠があり、これには重症例の検出などがあります。ただ、これが冬季のインフルエンザシーズンの幕開けと判断するのは早すぎます。チリのILIの国内レベルはほぼベースラインです。しかしながら、2つの南部の地域では地域特異的なベースラインを越えており、そのうちの1つであるLos Lagosは過去4週間で僅かに流行閾値を越えた段階です。注目すべきことに、チリでは基幹病院の気道由来検体のうち6%で呼吸器感染ウイルスが検出されており、その内訳は32%がRSV、27%がインフルエンザ(この半数がパンデミックH1N1)であったようです。

ヨーロッパでは全体的にインフルエンザの活動性は低く、非常に低いレベルでパンデミック・インフルエンザと季節性B型インフルエンザの共流行が続きました。基幹病院での気道由来検体のうちインフルエンザ陽性率は約5.3%と横ばいです。また、B型インフルエンザの検出数は引き続きA型を越えていましたが、これは主にロシア連邦やカザフスタンでの弱い季節性B型インフルエンザの流行に起因するものです。

グローバルインフルエンザサーベイランスネットワーク(GISN)は、パンデミック・インフルエンザウイルスや季節性のインフルエンザウイルス、その他のインフルエンザウイルスを含む、人に感染する、あるいは人に感染する可能性のあるインフルエンザウイルスの世界的な広がりを監視し続けています。ウイルス学的なサーベイランスと抗ウイルス薬に対する耐性についてのより詳しい情報は、下記のウイルスのサーベイランスデータの更新情報を参照してください。

抗ウイルス薬耐性のパンデミックH1N12009ウイルスは積算で285のままです。2010年4月16日の更新以降、追加はありません。

2010年4月28日--この週(2010年4月15~28日)にオセルタミビル耐性のパンデミック・インフルエンザH1N1の追加報告はありません。累積症例数は285のままです。

  1. (*):温帯地域とは、北回帰線の北にある、または南回帰線の南にある地域、そして、熱帯地域とは北回帰線と南回帰線の間にある地域と定義します。
  2. (**):略記として、 インフルエンザ様疾患(ILI)、急性呼吸器感染症(ARI)、重症急性呼吸器感染症(SARI) と記載しています。

質的な指標(第29週~第16週:2009年7月13日~2010年4月24日)

質的な指標としてモニターされている事象:インフルエンザの地理的な広がり、急性呼吸器疾患の傾向、呼吸器疾患の強さ(急性呼吸器疾患患者が人口に占める割合)、パンデミックが医療サービスに及ぼす影響

以下のリンク先に示されている地図は、質的な指標を示します。各週、約60ヶ国の情報を示しています。モニタリングは継続中であり、報告は時間が経過するとともに完全なものになると思われます。

2010年5月2日現在、IHR(国際保健規則)加入国によってWHOに公式報告された、パンデミック・インフルエンザ(H1N1)2009の検査確定診断症例数

前回のWeb更新情報 (No.98)から、新たにパンデミック・インフルエンザ(H1N1)2009の確定例が報告された国や地域:なし

前回のWeb更新情報(No.98)から、新たにパンデミック・インフルエンザ(H1N1)2009の死亡例が報告された国や地域:なし

地域死亡者数
アフリカ地域事務局(AFRO)168
アメリカ地域事務局(AMRO)少なくとも8309
東地中海地域事務局(EMRO)1019
ヨーロッパ地域事務局(EURO)少なくとも4783
東南アジア地域事務局(SEARO)1769
西太平洋地域事務局(WPRO)1805
総数少なくとも17853

※表を左右に動かしてご覧ください。

死亡者の報告数は、多くの死亡者で検査を実施しないか、インフルエンザに関連していると認識されないので、実際の死亡者数を下回ります。

詳しくは、こちらをご覧ください