H1N1ポスト・パンデミック期に入る

WHO(事務局長声明) 2010年8月11日

インフルエンザパンデミックの警戒水準はフェーズ6から、現在はポストパンデミック期へと移行しました。新型H1N1ウイルスはほぼパンデミックとしての流行過程を終えました。

本日、電話回線による会議に召集された緊急委員会のメンバーにより、WHOの見解が得られました。委員会は、全世界の状況および現在インフルエンザが流行している国々からの報告に基づいて以上の評価を下しました。私(マーガレット・チャンWHO事務局長)は委員会からの助言に全面的に同意しています。

現在は、ポストパンデミック期に入って間もない時期であり、H1N1ウイルスが無くなったという訳ではありません。過去のパンデミックに対する経験から、H1N1ウイルスは季節性インフルエンザのような振る舞いをし、今後の数年間にわたって流行することが予想されます。

ポストパンデミック期では、H1N1によるアウトブレイクが、程度は異なるものの局地的に生じる可能性があります。現在ニュージーランドで起きている状況がこれにあたり、他の場所でも今後生じる可能性があります。

事実、ニュージーランドそしてインドの保健当局が取っている、警戒措置や迅速な症例検出と治療、予防接種の推奨などの行動は、ポストパンデミック期直後にどのような対応を国がとるべきかというモデルになるでしょう。

全世界的には、現在観察されているH1N1流行レベルや流行パターンは、パンデミック期に観察されたものとは明らかに異なっています。北半球でも南半球でも、現在は季節外れのアウトブレイクは報告されていません。H1N1ウイルスによって起こったアウトブレイクも含め、インフルエンザのアウトブレイクは季節性の流行期に見られるものと同程度になっています。

パンデミック期にはH1N1ウイルスは他のインフルエンザウイルスを抜いて主要な流行株となりました。現在はそのような状況ではありません。多くの国で、季節性流行に際してよく見られるような、インフルエンザウイルスの複数混在流行が報告されています。

最近発表された複数の研究では、地域によっては人口の20から40%がH1N1ウイルスによる感染を受け、ある程度の防御免疫を集団レベルで持っていることが示されています。多くの国では特に危険性の高いグループに対して、十分なワクチン接種が行われており、接種率の高さによってさらに集団レベルでの免疫が高まっています。

パンデミックは、それを起こすウイルスが予測不可能なように、予測することができません。同様にポストパンデミック早期には予測できないことが起こりえます。ひきつづき警戒を怠らないことが非常に重要であり、WHOはポストパンデミック期に際してのサーベイランスや予防接種、そして臨床管理についての勧告を出しています。

過去のパンデミックについて、利用可能なエビデンスや経験に基づくと、低年齢のグループで、少なくともポストパンデミック期早期に、ウイルスによる重篤な病状が引き続き起こることが予想されます。パンデミック期に疾患が重症化したり、致死的になるとされたグループでは、症例数は減少することが期待できるものの、おそらく引き続き高いリスクがあると考えられます。

それに加えて、若年者や健康だった人など、パンデミック期に感染を受けた人の中の一部が、通常の季節性インフルエンザでは典型的ではない、重症のウイルス性肺炎を起こし、非常に治療が困難であったという事実があります。このパターンがポストパンデミック期に見られないということは分かっておらず、警戒を続ける必要があると考えられます。

すでに述べたように、パンデミックは予測が不可能であり、思いがけない結果をもたらしやすいものです。これまでに起こったパンデミックの中で、同じものは二つとありません。このパンデミックは一年少し前に恐れられていたものに比べ、結果としては軽いものであることが分かりました。

これまでのところ、私たちは単に運に助けられたとも言えます。このウイルスは、パンデミック期の間に、さらに致死性の高いタイプに変異することはありませんでした。オセルタミビルに対する耐性が拡大することもありませんでした。製造されたワクチンは流行しているウイルスに対して適したものであることが分かり、非常に安全であることが示されました。

国際社会の十分な備えと多大な援助によって、保健システムが非常に貧弱な国の場合でも、症例の検出と症例の報告が迅速に行われました。 これらの地域のどこかで事がうまく運ばなかったら、現在の状況は全く異なっていたかもしれません。