コレラ

CDC Chapter5Other Infectious Diseases Related to Travel 2010年10月25日

病原体

コレラは毒素産生性のVibrio cholerae O-group 1もしくはO-group 139によって起こる急性の腸管感染症です。

  • コレラ毒素の遺伝子の有無にかかわらず、その他多くの血清型のVibrio choleraeが、毒素非産生性のO1 群およびO139群の株と同様、コレラ様疾患の原因になります。
  • 血清型O1 およびO139の毒素産生性株だけが広範囲の感染の原因となり、WHOに「cholera」として報告できます。
  • Vibrio cholerae O1には2つのバイオタイプがあります。古典型とEl Tor型で、それぞれのバイオタイプに2つの血清型 (Inaba and Ogawa) があります。El Tor型のバイオタイプに感染を受けた人の方が無症状である率が高いか、あるいは病状が軽いのですが、感染症状では区別が付きません。
  • 近年、V. cholerae O1古典型バイオタイプによる感染は非常にまれになり、バングラデシュおよびインドの一部に限られています。

感染様式

  • 毒素産生性のV. cholerae O1およびO139は独自に生活している生物体で、新鮮な淡海水で橈脚類(カイアシ類)やその他の動物プランクトン、貝・甲殻類、水生植物などに関連して存在します。
  • コレラ感染の多くは、V. choleraeが自然な状態で存在する水、あるいは症候性、無症候性の感染者の便からV. choleraeがまぎれこんだ水を飲むことによって生じます。
  • その他よくみられる媒介物には、汚染された魚、貝・甲殻類、農産物や、適正に再加熱しなかった食べ残しの調理済み穀物などがあります。
  • ヒトからヒトへの直接感染は、流行中の医療従事者についても、まれにしか報告されていません。

発生

  • 1961年から、血清型O1バイオタイプEl Tor型のV. choleraeによる、7回目のコレラの世界的流行が、インドネシアから始まり、ほとんどアジア全域に拡大し、東ヨーロッパ、アフリカへと、そして北アフリカからイベリア半島へと流行を広げました。
  • 1991年には広範な流行がペルーで始まり、西半球の近隣諸国に拡大しました。
  • アメリカでは現在コレラ症例はほとんど発生していませんが、V. cholerae O1はアフリカのほとんど、および南・東南アジアでいまだに地域性流行を起こしています。
  • V. cholerae O139は1990年代初めに急速にアジア全域に拡大しましたが、その後はバングラデシュとインド内の数地域に限局しています。
  • 2007年に53か国が177,963例のコレラ症例と、4,031例のコレラによる死亡例をWHOに報告しています(致死率2.3%)。社会的資源が少ない地域で大部分の症例が報告され続けています。99%の症例はアフリカからのもので、同じ傾向があります。

旅行者のリスク

  • 通常の観光客の旅程をたどり、コレラの報告がある国にいる間、食物の安全に関する勧奨事項を順守する旅行者には、実質上リスクはありません。コレラの地域性流行がある地域で、処理されていない水を飲んだり、十分に調理されていない、あるいは生のシーフードを食べたりする人ではリスクが高くなります。
  • アメリカ合衆国では1996年から2006年にかけて、海外で罹患し、コレラと確認された症例は40例だけでした。
  • 2症例が海外旅行に際し、機内で提供された食事に関係してコレラになったとされています。もっとも最近の例は、1992年になってアメリカでの流行の最中に、アルゼンチンからロサンジェルスへのフライトで起こっています。これを受けてCDCは国際航空運送協会(International Air Transport Association) に、海外便には経口補水液 (ORS)が積まれていなければならず、決められた種類の食品については、コレラ流行が起きている町で準備され、機内で提供されてはならないと勧告しました。

臨床症状

  • コレラ感染は、ほとんどの場合無症候性か、軽度の胃腸炎で終わります。
  • 重症コレラは、「コメのとぎ汁様の便」と表現される、水分の枯渇につながる急性のおびただしい量の水様性下痢で特徴づけられます。症状や所見には、頻脈、皮膚ツルゴールの低下、粘膜の乾燥、低血圧、口渇などがあります。その他の筋痙攣などの症状は、下痢の結果として起こった電解質異常による二次的なものです。
  • 治療しなければ、ボリュームの枯渇は急速に低容量性ショック、そして死に至る可能性があります。

診断

  • コレラは便試料あるいは直腸スワブの培養によって確認されます。
  • 試料運搬に際してはCary Blair培養基を使用するのが理想的で、分離同定には、選択的thiosulfate-citrate-bile salts agar (TCBS) が最適です。分離されたV. choleraeの血清型を検出する試薬は、すべての州(*アメリカ)健康局試験室で利用可能です。市販で入手できる迅速試験キットでは、抗生剤感受性試験や菌サブタイプを検査するための菌分離が行えません。このため、通常の診断には使ってはいけません。
  • すべての分離試料は州健康局試験所を介して、コレラ毒素の検査およびサブタイプ検査のためにCDCに送られなければなりません。
  • コレラは国に報告義務のある疾患の一つです。

治療

  • 補液が治療の第一歩です。経口補水塩 (oral rehydration salts)と、必要な場合には経静脈補液および電解質投与が、適切な時間に十分な行われた場合には、致死率は1%未満に減少します。
  • 抗生物質は補液の必要性と疾病の持続期間を減少させます。重症例は抗菌薬治療の適応になります。この場合、etracycline, doxycycline, furazolidone, erythromycin, ciprofloxacinが使用できます。可能であれば、抗菌薬への感受性試験を行い、治療薬選択に関する情報を得るべきです。

旅行者に対する予防措置

  • コレラを予防するには、安全な食事および水に対する警戒が不可欠です。
  • 予防的抗生剤投与の適応はありません。

ワクチン

  • アメリカ合衆国では現在、利用できるコレラワクチンはありません。
  • アメリカ合衆国国外では2種類の経口ワクチンが利用できます。:それは、SBL Vaccin ABによるDukoralと、Vietnamでのみ入手できるDukoralの類似品です。このワクチンは、以前認可されていた注射用ワクチンに比べて、幾分免疫誘導が良好で、副作用が少ないように思われます。しかし、CDCはほとんど旅行者に対して、このワクチン両方を勧奨しません。それは、アメリカ合衆国旅行者に対するコレラのリスクが低いこと、それにワクチンによって得られる免疫が短期間で不十分であることによります。Dukoralについてさらに情報が必要な場合には、SBL Vaccin ABのウェブサイトwww.sblvaccines.se/en/を参照するか、SBL Vaccin ABに電話するか (+46-8-735 10 00) 、FAXする (+46-8-82 73 04) か、e-mailを送ってください (info@sblvaccines.se) 。
  • 現在では入国の際の条件としてコレラに対するワクチンを要求している国や地域はありません。

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