2010年10月から11月にかけてみられている、コンゴ共和国の急性弛緩性麻痺アウトブレイクについて

情報源:Eurosurveillance2010年11月26日

G Grard, J F Drexler, S Lekana-Douki, M Caron, A Lukashev, D Nkoghe, J P Gonzalez, C Drosten, E Leroy
Eurosurveillance, Volume15, Issue 47, 25November2010

成人の急性弛緩性麻痺症候群のアウトブレイクがコンゴで続いています。便、咽頭、および、脳脊髄のサンプルの遺伝子解析で、野生型ポリオウイルス(WPV)1型とエンテロウイルス109関連の、エンテロウイルスC株が原因として特定されました。11月22日の時点で、累積症例数は409例で、その中の169例(41.3%)が致死的でした。これは現在に至るまでの野生型ポリオウイルス1型の大規模なアウトブレイク報告の中で、著しく高い致死率を示したものの1つです。

背景

世界ポリオ撲滅イニシアティブによって組織化された集団予防接種キャンペーンに引き続き、世界保健機関(WHO)は、小児麻痺が世界の多くの地域で根絶されたと宣言しました。しかしながら、野生型ポリオウイルス2型(WPV2)の感染は絶えているものの、WPV1とWPV3のヒト感染症例は散発性に、またアウトブレイクとして、まだ多くの国で報告されています[1]。ここ10年間にみられた臨床例は、すべて、疫学的調査で地域内でのWPV伝播がまだ持続している4つの国、すなわち、アフガニスタン、インド、ナイジェリア、およびパキスタンからのWPVの輸入症例であることが示されました[1]。過去の10年間で、ナイジェリアかインドからのWPV1、そして/または、WPV3輸入によって生じた数回のアウトブレイクと、散発性の臨床例が、ポリオがないとされたアフリカの15か国で報告されました。最近も、2006年のナミビアと2010年のアンゴラで2回、インド由来のWPV1の輸入後に、小規模のWPV1のアウトブレイクがありました[2]。このような、輸入された、地域感染性のWPV伝播が散発的に生じるのを防ぐため、西アフリカおよび中央アフリカ諸国15か国の約7200万人の小児を対象にポリオワクチンキャンペーンが行われました。

今回のアウトブレイク

コンゴで、地域感染性のポリオ症例が最後に報告されたのは2000年のことでした[3]。2010年11月5日に、コンゴの保健省は、コンゴ第2の町、ポワントノワールを中心に、ポリオウイルスのアウトブレイクが生じたと宣言しました。アウトブレイクが始まったのは、おそらく2010年10月中旬であり、15歳~72歳の入院患者に、異常な急性弛緩性麻痺(AFP)の症例増加がみられました。ほとんどの症例は、ポワントノワールとカビンダ州のいくつかの町で発症しました。また、その後ポワントノワールから輸出されたと考えられる症例が、コンゴのいくつかの町と村で報告されました。11月22日の時点で、累積症例数は409症例で、その中の169症例(41.3%)が致死的でした。ポリオ症例との直接接触があったものはまれであり、明らかな地域関連性パターンもありませんでした。同様に、食物や水などの共通な感染源があるという証拠も全くありませんでした。ほとんどの入院患者で、足にAFPがみられ始める4~7日前に、インフルエンザ様症状で疾患が発症しました。AFPはその後、足から急速(1日以内に)に上行し、しばしば心停止や呼吸不全によって死に至りました。重症例が多く致死率が高いのは、以前のWPVのアウトブレイクとは著しく対照的であり、これまで未知であったウイルス・ホスト間の特性があるか、背景に大規模な軽症の、またそのために報告されない症例群があることを示しています。

検査による調査

ガボンにあるThe Centre International de Recherches Médicales de Franceville(CIRMF)は、10月29日に病因調査のため、3つの血漿試料を受け取りました。リアルタイム・コンベンショナル逆転写(RT)-PCRテストによると、病原体として、神経系、消化管系、呼吸器系ウイルス性病原体である、エンテロウイルス、フラビウイルス、アルファウイルス、フレボウイルス、ヒトマストアデノウイルス、パラミキソウイルス科のウイルス (ムンプスウイルス、麻疹ウイルス、パラインフルエンザ・ウイルス1-4、RSウイルス、ヒトメタニューモウイルス)、および、コロナウイルス亜科(ヒトコロナウイルスNl63、HKU1、OC43、および229E)は否定的でした。また、さらに、ウエストナイルウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルス、サイトメガロウィルス、ヒトヘルペスウイルス6型、単純ヘルペスウイルス1型、水痘帯状疱疹ウイルス、ロタウィルス血清群 A、ノロウイルス遺伝型1および2、サポウイルス、アストロウイルス、インフルエンザウイルスA・B型、およびライノウイルスに対する、種特異性リアルタイムRT-PCRテストは陰性でした。
その後、CIRMF 11月2日に、15の直腸スワブ、14の咽頭スワブ、および5の脳脊髄液(CSF)のサンプルを受け取りました。これに対して施行したエンテロウイルスに対する検査で、13の直腸スワブ標本(86.7%)、5の咽頭標本(35.7%)、および1の脳脊髄液標本(20.0%)に対する、5'nonencoding領域標的リアルタイムRT-PCRが陽性となりました[4]。便と咽頭サンプルはリアルタイムRT-PCRでのthreshold cycleが24~38の範囲で、サンプル中のウイルス濃度が中等度から高いことが示され、陽性CSFサンプルではthreshold cycleは38と低濃度でした。ウイルスゲノムに関する検査は、ドイツのボン医科中央大学ウイルス研究施設で、partial VP1sequencing[5]、3D sequencing(未発表の施設内評価)、および5'-UTR sequencing[6]により、行われました。

ポリオウイルス1型がサンプルの1つ(PCRによるVP1 タイピングで、最近のインド由来ポリオウイルス株の遺伝子型へ100%のアミノ酸相同性持つ)で同定されました。このサンプルの増幅された327nt配列(WPV1Brunhilde株のゲノムポジション2,631~2,957に対応)は、2006年と2007年にアフリカ(アンゴラとコンゴ民主共和国)で採取されたポリオウイルス1型(ANG-LUA-KIL-07-003とRDC-BCG-SEK-06-004)との相同性が94.8~96.3%であり、2010年にタジキスタンでポリオのアウトブレイクがみられた際に採取された株(GenBank受付番号HQ317702)に95.1%の相同性を持っていました。201bp VP1フラグメントを増幅する、より感度のよい株特異性nested PCR分析法が、初期の配列データから開発され、エンテロウイルスリアルタイムRT-PCRで陽性であった19サンプルの中の、2つを除いたすべてが、野生型ポリオウイルス1型とタイピングされました。ウイルス性ポリメラーゼ(WPV1Brunhilde株のゲノムポジション6869-7049に対応する181nt)をコードする3Dゲノム領域の部分配列が、5個のサンプルで検査されました。これらのサンプルすべてと、2000年以降にロシアとフィリピンで採取された(それぞれP1W/Bar65とMindanao-01-1分離株) ポリオウイルス1型株とのヌクレオチド相同性の最大値は96.1%でした。 すべての標本のpartial 5'-UTR配列検査の結果は陽性でした。その結果、えられた115nt(WPV1Brunhilde株の466~580ゲノムポジションに対応)は、中国からの最近のWPV1株(CHN-Hainan/93-2分離株)と96.5%相同でした。したがって、分析されたゲノム領域は、すべてWPV1と特定され、種内および種間にリコンビネーションが生じていないことが推定されます。さらに、VP1領域で、エンテロウイルス109(EV109)と弱い近縁関係にある、エンテロウイルスC株が1株、死亡患者の直腸スワブから検出されました。検出できた322nt VP1配列フラグメントで、このウイルスは、GenBankから情報を得られる5つのEV109配列に、75%~77%のnt配列相同性を持っており、2010年にニカラグアで採取されたEV109分離株NICA08-4327に、3Dゲノム領域で90.5%のnt相同性を示しました[7]。 注目すべきこととして、このサンプルは、最も大きいエンテロウイルスRNAコピー数(CT値24)を持つサンプルの1つでした。このサンプルでポリオウイルスは、上記のような広域をカバーできるアッセイを使用しても、また株特異性VP1ネスティッドPCR、3DリアルタイムPCRアッセイを用いても、検出されませんでした。その他のサンプルの株特異性VP1ネスティッドPCR、3DリアルタイムPCRアッセイでEV109関連のウイルスは陽性ではありませんでした。また、他の腸管ウイルス(アデノウィルス、アストロウイルス、エンテロウイルス、ロタウィルスA、サポウイルス、ノロウイルス遺伝型1および2の存在は、WPV陽性であったサンプルで1例ノロウイルRNAのサンプルがみられたもの以外、すべての便サンプルで否定されました。完全なVP1ゲノム領域の決定を標的とした、ポリオウイルスとエンテロウイルスを含むサンプルに対するゲノム配列決定と型判定が、現在進行中です。分析のために追加サンプルがCIRMFに送られています。

結論

予備段階の配列データと臨床像は野生型ポリオウイルスのアウトブレイクに合致するものです。このアウトブレイクが異常に高い致死率を示していること、患者年齢が比較的高いことを説明するために、疫学的血清学的な研究を更に進める必要があります。考えられる解釈の1つとして、報告されたのが重症の症例だけである可能性があります。あるいは、ワクチン接種キャンペーンが成功したとされていることを考慮すると、可能性は低いのですが、地域住民が免疫学的に抵抗力が低く、非常に感染を受けやすいのかもしれません、疫学的調査はちょうど始まったばかりです。現時点では、症例と症例にはどんな形での直接接触も観察されませんでした。また、家庭の中での播種やある小地域内の感染などの、どんな空間的な感染パターンも同定できませんでした、これらの観察結果を合わせると、広い範囲に影響を及ぼしうる原因によって、汚染が生じていることが推定されます。例えば、ある町の近隣の貧しい地域の井戸からくみ出されている水などが、汚染源として考えられます。より毒性の強いウイルスや、他のウイルスが潜在的にかかわっている可能性もまたあります。入院を要しなかった患者や、軽症者に関する詳しい情報が必要です。致死例が持っていた病前の問題点についての調査、また、VP1のすべての配列解析、完全なゲノム解析が現在進行中です。
WHO 国家事務局オフィス、地方事務局、および本部はポワントノワールで保健省に対する援助を行っています。また、WHO国家事務局は、調査および対応に当たるチームの運用費用を援助しています。アウトブレイクの中心地域(ポワントノワール地域)で、少なくとも110万人に対して、予防接種が予定されています。また、WPV1の最後の症例が2010年にみられたアンゴラに近接する、コンゴ国境地域の60万人も、同時に予防接種を受けることになるでしょう。

文献

1.Centers for Disease Control and prevention(CDC).Wild poliovirus type1and type3importations--14countries, Africa,2008-2009.MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2009;58(14):357-62.
2.Outbreak of type-1wild poliovirus in adults, Namibia,2006.Wkly Epidemiol Rec. 2006;81(45):425-32.
3.Polio in Congo- update. Geneva:World Health Organisation;9November2010.Available from:http://www.who.int/csr/don/2010_11_09/en/index.html
4.Dierssen U, Rehren F, Henke-Gendo C, Harste G, Heim A.Rapid routine detection of enterovirus RNA in cerebrospinal fluid by a one-step real-time RT-PCR assay.J Clin Virol. 2008;42(1):58-64.
5.Oberste MS, Nix WA, Maher K, Pallansch MA.Improved molecular identification of enteroviruses by RT-PCR and amplicon sequencing.J Clin Virol. 2003;26(3):375-7.
6.Nix WA, Berger MM, Oberste MS, Brooks BR, McKenna-Yasek DM, Brown RH Jr, et al.Failure to detect enterovirus in the spinal cord of ALS patients using a sensitive RT-PCR method.Neurology. 2004;62(8):1250-1.
7.Yozwiak NL, Skewes-Cox P, Gordon A, Saborio S, Kuan G, Balmaseda A, et al.Human enterovirus109:a novel interspecies recombinant enterovirus isolated from a case of acute pediatric respiratory illness in Nicaragua. J Virol. 2010;84(18):9047-58.