オレゴンで発生した2例のペスト症例について

CDC(MMWR)  2011年2月25日

ペスト菌によって引き起こされるペストは、アメリカ合衆国西部のげっ歯類にみられる風土病です。人は、1) げっ歯類(まれには他の動物)が運ぶ感染したノミによって咬まれることにより、2) 汚染された組織への直接接触により、またまれに3) 感染者や感染動物の呼吸分泌物の吸入によって感染します。
2010年9月にオレゴン州保健当局は、1995年以来初めての、オレゴン州での人ペスト症例2例について報告しました。これは、2010年にアメリカ合衆国でみられたペスト症例として唯一のものでした。

この事例は、両者とも8月21日に発症しました。症例は、17歳と42歳の同一世帯の患者で、飼い犬の中の1匹が持っていた感染したノミによってペストへの暴露を受けた可能性があります。その犬は、抗Y.pestis抗体が、受け身赤血球凝集反応阻害試験(1:64の希釈率)で陽性であることがわかりました。もう一方の患者は、疾患発症前の2週間に、同じベッドでイヌと一緒に眠っていたと認めました。両方の患者とも、高熱と両側性の複数のリンパ節の炎症性腫脹(bubo)がありました。 1人の患者は、血圧低下、頻脈、急性腎不全があり入院しました。その患者の血液培養によって、両極性の染色がみられるグラム陰性桿菌が分離されました。

4つの別々の臨床検査室が、分離された菌の同定を試みました。3台の異なった市販の自動化システムにより、この細菌はそれぞれAcinetobacter lwoffiiPseudomonas luteolaYersinia pseudotuberculosisであると同定されました。しかし、検体採取の25日後に、Spokane (Washington) 地域保健研究所実験室で、F1抗原に対する直接蛍光抗体法、PCR法、バクテリオファージ溶菌法によって、分離菌がY.pestisであると同定され、オレゴン州保健機関への通知が行われました。2例目の患者に対しては、単回の血清学的診断法に基づいて、後方視的に疾患の同定が行われ、受け身赤血球凝集反応阻害試験で1:32希釈濃度まで反応がみられました。この症例は、当所ペストであるとは疑われていませんでした。患者には両者とも、経験的治療に基づき、ドキシサイクリンとアモキシシリン+クラブラン酸カリウム(後者はペスト治療に有効性があるとは考えられていません)を投与され、問題なく回復しました。

自動細菌同定システムでは、Y.pestisであると誤認されることがあります[1,2]。血液でエルシニア属であると自動同定された場合には、患者の臨床徴候がペストの徴候と合致するかどうか決定するため、さらに患者の十分な臨床評価を行わなければなりません。ペストが疑われた場合は、直ちに治療を開始するべきです。そして、州の公衆衛生検査室と保健機関の両者にただちに通知しなければなりません。

ペストは、バイオテロに用いられる可能性を考慮すべき病原体として(米国で)、Category Aに属する細菌です。 人への感染はまれですが、生命に危険を及ぼす場合があります。ペストの致死率は、臨床症状(腺ペスト、敗血症ペスト、肺ペスト)と抗生物質開始のタイミングに依存します。未処置の場合、致死率は、腺ペストでは50%を超え、肺ペストでは100%に達します[3]。迅速な実験室での同定は、治療補助の役にたちます。

犬と一緒に同じベッドで眠ることが、ペストの風土病地域でペスト罹患に関連することが、以前から指摘されてきました[4]。げっ歯類に暴露を受けたことがないペスト患者では、ペットがペストに感染したげっ歯類のノミを家まで運んできたために、ペスト菌に感染した可能性があります。イヌ・ネコの飼い主に対して、獣医は必ずノミのコントロールを行うように推奨しなければなりません。

参考文献

  1. 1.American Society for Microbiology.Sentinel laboratory guidelines for suspected agent of bioterrorism:Yersinia pestis.Washington, DC:American Society for Microbiology;2009.
    http://www.asm.org/images/pdf/Clinical/ypestis12-11-09.pdf .Accessed February17, 2011.[PDF形式:400KB]
  2. 2.CDC.Fatal human plague---Arizona and Colorado, 1996. MMWR 1997;46:617--20.
  3. 3.CDC.Human plague---four states, 2006. MMWR 2006;55:940--3.
  4. 4.Gould LH, Pape J, Ettestad P, Griffith KS, Mead PS. Dog-associated risk factors for human plague.Zoonoses Public Health2008;55:448--54.