(続報)志賀毒素産生性大腸菌(STEC)血清型O104(GERMANY MAY 2011)による溶血性尿毒症症候群の現在進行中のアウトブレイクについて

Eurosurveillance2011年6月2日

5月の上旬以降、志賀毒素産生性大腸菌(STEC)の感染に関連する溶血性尿毒症症候群(HUS)と血性下痢症の大規模なアウトブレイクがドイツ国内で起こっています。このアウトブレイクはドイツ北部を中心として発生しましたが、ドイツの全ての州および他国からも症例が報告されています。Eurosurveillanceで先週に報告を行って以来、HUS症例は470例に増加し、血清型O104のSTECが多くの症例で確認されています

進行中のアウトブレイクの詳細

2011年5月上旬より、470例の溶血性尿毒症症候群(HUS)がロベルト・コッホ研究所(RKI)に届出されました。Eurosurveillanceは、STEC感染およびHUSに関する情報を含むバックグラウンドなど、初期の知見を報告しています[1]。実際に使用された臨床例および実験室での試験における症例定義は公開されています[2]。今回、2011年5月31日現在においてロベルト・コッホ研究所に届出されたSTECおよびHUSの症例に関するアウトブレイクの疫学的特徴について最新の情報を報告いたします。

470例のHUSのうち、273例の臨床例(58%)は志賀毒素産生性大腸菌(STEC)感染であることが実験室で確認されたものです。サルモネラおよび他の細菌性腸内病原体に関する国立レファレンスセンター(“National Reference Centre for Salmonella and other bacterial enteric pathogens”)は単独で、今回のアウトブレイクにおける60例以上から血清型O104、志賀毒素2型(stx2)陽性、インチミン(eae)陰性のSTECを検出し、このアウトブレイクの原因病原体が特殊な血清型を有していることを示しました。

HUS症例の地理的分布

HUSの症例はドイツ連邦の全ての州から報告されています。2011年5月1日以降のデータから算出された、最も高いHUSの累積罹患率は、依然としてドイツ北部の州(Hamburg, Schleswig-Holstein, Bremen Mecklenburg-Vorpommern およびLower Saxony)で認められます(表)。HUS症例のうち66%がこれらの州で届出されたものです。

図.発症例数の表

疫学的調査の途中結果

2011年5月1日から8日までの間に報告されたHUSの新たな症例数(下痢の発症日を基準とする)は、1~2例/日でした。5月9日以降に初期の顕著な増加が認められました。その後、増加の度合いを強め、5月16日に届出されたHUSの症例は最大の39症例に達しました。

図.発症例数の表

HUS症例における年齢および性別の分布

2011年5月26日に報告したように[1]、HUS症例の年齢および性別の分布は現在においても特殊なものです。患者の大半は20歳以上(88%)で、女性(71%)です。注目すべきなのは、2006年から2010年の間に報告されたSTECとHUSの症例における成人の比率は1.5%から10%にすぎず、性差は特に認められなかったことです[3]。図2に2011年5月1日以降に届出されたHUS症例における年齢および性別の累積罹患率を示します。

図.男女別の表

死亡例

これまでに13例の死亡例が届け出されており、9例は、HUSによって死亡したもので、残りの死亡例は症候性STEC感染と実験室で確認された例です。死亡したのは22歳以上91歳以下の人で、5人は22歳以上40歳以下、8人は75歳以上91歳以下でした。

本アウトブレイクに関係するドイツ国外での症例

ドイツ国内の発生に加えて、デンマーク、英国、フランス、オランダ、ノルウェー、オーストリア、スペイン、スウェーデン(死亡例1を含む)、スイスおよびアメリカでの症例が報告されています。ほとんど全ての症例はドイツ北部への渡航歴があります。しかし、現在より詳しい調査が行われている症例もあります。スウェーデンの旅行者の一団(総勢30名)が、ドイツ北部に5月8日から10日にかけて滞在した後、15人が症候性STEC感染を発症し、うち5名がHUSと診断されました。

状況の評価

今回の出来事は、歴史的には世界で最大級のHUSのアウトブレイクの一つであり、またドイツにおいては最大のものです。届出や報告の遅れが原因で、現在の届出されたデータからは症例数が減少しているとは言えません。

このアウトブレイクでの症例における年齢や性別の分布は極めて特殊なもので、同定された病原体のSTEC O104 志賀毒素2型(stx2)陽性、インチミン(eae)陰性という系統も特殊なものです。血清型O104のSTECは過去にも下痢およびHUSの食品媒介性アウトブレイクを引き起こしたり、HUS患者から検出されたりしています[4,5]。しかし、ドイツでアウトブレイクしたという過去の例は知られていません。

疫学的調査の現状

RKIは、今回のアウトブレイクをさらに調査するため、次のような研究を進めています。

  • ドイツ国民を対象とした疾病負荷のオンライン調査
  • Luebeck(Schleswig- Holstein州)およびHamburgの重症入院患者における症例対照研究
  • 過去には発症例がなかったが、近日中に症例数が急増した病院における症例対照研究
  • HUSを治療した腎臓病専門医に対するアンケート調査
  • 売店(canteen)で起こった特殊なアウトブレイクでのヒト-ヒト感染に関する調査(およびレシートの分析に基づいて得られた購入情報に関する調査)
  • あるレストランでの夕食後に症候性STECを発症した患者群における、異なる集団に関するコホート研究
  • 発症例に関連する可能性のある各種催し物の調査

さらに、RKIは、症候性STEC感染を発症した複数の患者群に関するコホート研究を進めているスウェーデンとデンマークの研究所に協力しています。

連邦リスクアセスメント研究所(BfR)は、ドイツの消費者に対し、生のトマト、キュウリおよび葉野菜サラダを摂取しないよう勧告しています(ハンブルクの州および自治体の保健衛生部門の協力のもとにRKIでなされた疫学的調査に基づくものです[1])。上記の研究によって未だ新しい知見は得られていない間、またアウトブレイクが継続している間はこのBfRの勧告は有効です。特にドイツ北部で取得した食品に関してはご注意ください。

参考文献

1.Frank C, Faber MS, Askar M, Bernard H, Fruth A, Gilsdorf A, et al.Large and ongoing outbreak of haemolytic uraemic syndrome, Germany, May2011.Euro Surveill. 2011;16(21):pii=19878.Available from:http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=19878

(Forthに翻訳文を掲載:https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/2011/05261710.html)

2.Robert Koch Institute(RKI).Case definition for HUS-cases associated with the outbreak in the spring 2011in Germany. HUS-Outbreak_Case-Definition_2011-06-01_ENG.doc .Available from:http://www.rki.de/cln_116/nn_217400/EN/Home/HUS__Case__definition,templateId=raw,property=publicationFile.pdf/HUS_Case_definition.pdf[PDF形式:77KB]

3.Robert Koch Institute(RKI). SurvStat@RKI. Berlin:.RKI. [Accessed 24 May 2011]. German.Available from:http://www3.rki.de/SurvStat

4.Bea WK, Lee YK.Cho MS, Ma SK, Kim SW, Kim NH, et al.A case of hemolytic uremic syndrome caused by Escherichia coli104:H4.
Yonsei Med J. 2006;47(3):437-9.

5.Centers for Disease Control and Prevention(CDC).Outbreak of acute gastroenteritis attributable to Escherichia coli serotype O104:H21--Helena, Montana, 1994.MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 1995;44(27):501-3.