欧州月間麻しんモニタリング(EMMO)サーベイランスレポート(2011年6月)(抄訳)

ECDC 2011年7月13日

前月号からの主な更新内容

2011年1月から6月の間に21,000例以上の麻しん症例がEUおよびEEA/EFTA加盟国30カ国から報告されました。多数の症例が報告されたのは、フランス(12,699)、スペイン(2,261)、ルーマニア(1,619)、イタリア(1,500以上)およびドイツ(1,193)です。

前回5月に行われた更新以降に、イタリアのボルツァーノ自治県より、2011年における600例以上の症例が報告されました。

30カ国のうち7カ国からは、2011年の麻しん症例が報告されませんでした。報告しなかったのは、キプロス、ハンガリー、アイスランド、ラトビア、リヒテンシュタイン、ルクセンブルクおよびスロバキアです。

世界青年の日(WYD; World Youth Day)やその他の大規模なイベントがヨーロッパで夏季に予定されおり、ヨーロッパで麻しんの伝播が起こるリスクと他国への麻しんの輸出がおこるリスクが増大することが懸念されます。

背景

麻しんは、感染性が高く、死亡することもある疾患ですが、ワクチンを摂取することにより安全かつ効果的に感染を阻止することができます。2回の接種を行うことで、ワクチン接種者の98%がこの疾病に対する終生免疫を獲得します。麻しんウイルスはヒトのみに感染するものであるため、全人口の大部分がワクチン接種を行うことができれば、この疾患を根絶することが可能であろうと考えられています。EUおよびEEA/EFTA加盟国を含む、ヨーロッパ領域における世界保健機構加盟国は、2015年までに麻しんを根絶しようとしています。麻しんを根絶するには、麻しん抗原を含むワクチン(MCV)の2回接種によるワクチン接種率を95%以上に維持することが必要です。

ECDCは、EUおよびEEA/EFTA加盟国内におけるの麻しん伝播をモニターしており疫学的な情報の更新を毎月行っています。欧州月間麻しんモニタリング(EMMO)の報告は、種々の情報源からの情報に基づいています。たとえば、各国政府のウェブサイト、EUVAC.NETデーターベース、欧州早期警告対応システム(EWRS)、メディアからのレポートで信憑性が確認されたもの、および各国政府機関からのパーソナルコミュニケーションといったものです。調査データの対象期間は各国政府ごとに異なっており、EMMOに報告される症例数は、予備データとして取り扱われる必要があります。

MCV接種率に関するEMMOのデータは、特に断りがなければ、WHOの感染症集中情報システム(CISID)から取得したものです。CISID上のデータは、WHO加盟国によるWHO/UNICEFF合同報告様式による届出に基づいています。各国が異なる方法論に基づきワクチン接種を行い、ワクチン接種率の評価を異なる定義に基づいて行っているため、各国のワクチン接種率を互いに比較することは不可能です。MCVの二回目接種の推奨年齢は、各国でかなり違っており、事態を複雑にしています。EU27カ国中18カ国だけが、生後24カ月齢におけるMCV2回接種率を評価しています。EMMOの目的は、ヨーロッパ域内において疾病防御対策を効果的に行うために麻しんの感染状況を経時的に更新して公開し、2015年の麻しん根絶という共通の目標を支援することです。

概括

麻しんは、欧州における再興感染症です。2010年には、30,000人を超える麻しんの症例がEUおよびEEA/EFTA加盟国から報告され、過去5年間における1年あたりの平均値の5倍に増加しました。

2011年の前半6カ月の間では、21,000例を超える症例が、EUおよびEEA/EFTA加盟国から報告されました(表1)。これらのデータは予備的なデータであり、データがさらに追加されることにより数の増加が見込まれています。さらに、国によっては、かなりの過少報告されていると考えられています。

2010年に行われた症例報告の85%はワクチン未接種者のもので、2011年の状況も同様です。2010年における劇的な症例の増加は、主としてブルガリアで2009年から2010年にかけて起こったアウトブレイクが原因であり、同アウトブレイクでは、24,000人以上の症例と、24例の死亡が報告されました。このアウトブレイクは現在では収まっており、今年にはいってこれまでにブルガリアで報告された症例は157例にすぎません。

一方、フランスにおける現在も進行中の大規模なアウトブレイクは、2011年に報告された症例の半数以上を占め、6名の死亡者を出していますが、ヨーロッパにおいて麻しんが急増しているのはここだけではありません。他にも(ルーマニア、スイス、スペイン、ベルギー、デンマーク、英国およびイタリア)2010年と比較すると2011年に症例報告数が大幅に増加している国があります(表1、図2)。EUにおけるアウトブレイクは、主として加盟国間における伝播によって生じています。依然として、ほとんどの症例が免疫のないもしくは不十分な個人が発症しています。

EUおよびEEA/EFTA加盟30カ国のうち7カ国が2011年の麻しんの症例報告を行っていません。報告を行っていないのは、キプロス、ハンガリー、アイスランド、ラトビア、リヒテンシュタイン、ルクセンブルク、およびスロバキアです(表1)。

2011年6月6日に、欧州連合理事会[PDF形式:110KB]は、EU域内および加盟招待国において麻しんを感染制御するためには一層努力が必要であり、免疫付与活動を活発化し、特に、各々が孤立して分布しているウイルス感受性のある個人を標的とする必要があることを結論しました。

ECDCは、感染症、特に麻しんに対するワクチン接種を受けることが重要であると考えています。ワクチン接種は、欧州連合内に在住する人であって、音楽会、スポーツイベントや宗教上の集まりのような各種イベントに参加する予定の有る人には特に必要なことです。世界からの350,000人の参加が見込まれている2011年8月にマドリッドで予定されている世界青年の日(WYD; World Youth Day)のような多数の人間が参加するイベントは、ウイルス感受性のある人が麻しんに暴露される大きなリスクが存在します。感染した参加者が発症前に帰国し、自国にこの疾病を拡散させる可能性があります。

夏休みに先立ち、海外旅行を計画している人に対してワクチン接種の状況を更新する(必要に応じて再接種する)ことを推奨している国もあります。

表1 麻しん症例と死亡例の累積数、罹患率、最終報告日および情報源;EU/EEA加盟国2011年

表1 麻しん症例と死亡例の累積数、罹患率、最終報告日および情報源

図1 疫学調査機関によって確認された麻しん症例の分布(2011)および麻しんワクチンの2回接種率(2009, CISID*); EU/EEA加盟国2011年

図1 疫学調査機関によって確認された麻しん症例の分布(2011)および麻しんワクチンの2回接種率

*:接種率(%)は、WHO/UNICEFF合同年次レポートおよびWHO地域事務局報告(2011年6月1日付)に報告された各国公式数値です。

図2 罹患率(症例数/1,000万人/日)の国ごとの分布; EU/EEA加盟国2011年6月

図2 罹患率(症例数/1,000万人/日)の国ごとの分布

図.ECDCのロゴマーク