バングラデシュにおける小児ギランバレー症候群の高罹患率について

CDC(EID) 2011年07月20日

バングラデシュは、ポリオを根絶する活動で目覚しい実績を上げており、2000年以降、国内での症例は発生していません。それでも、15歳未満の小児10万人あたり3.25症例の罹患率(1)で、非ポリオ性急性弛緩麻痺(AFP)が発生しています。ギランバレー症候群(GBS)・急性多発神経根神経障害は、AFPの原因として最も頻繁にみられる疾患です(2)。カンピロバクタ-(3)によって引き起こされる腸管感染症は、バングラデシュにおけるGBSにしばしば先行してみられます。腸内病原菌への頻繁な暴露が、幼児におけるGBSの発生を増加させている可能性があります。今回、我々は、バングラデシュにおけるほとんどのAFP患者がGBSと診断されているであろうと仮定しました。目的は、バングラデシュの15歳未満の子供でGBSの粗罹患率を推定することでした。

WHOと共同で、バングラデシュ政府は、AFPのサーベイランスを積極的に実施しています。AFPは、15歳未満の小児で、外傷など他の明らかな理由がなく、局所性または全体性の麻痺が突然生じた状態であると定義されています。2006年と2007年の間のバングラデシュのAFP症例数に関するデータを入手し、サーベイランスシステムによって収集された臨床情報、およびその他の情報に基づいて、外傷及び分娩時外傷の存在がない場合の急性弛緩性および低緊張性麻痺(4)をGBS症例と定義しました。

図.2006・2007年のバングラデシュでの15歳未満のギランバレー症候群(10万人当たりの)粗発生率

バングラデシュは、64の県から成る6つの管区(主要な管理領域)に分けられます。

WHOとバングラデシュ政府によって、GBSの粗発生率が15歳未満の人口に基づいて管区および県ごとに計算されました。

2006年と2007年に、それぞれ1,619件、1,844件のAFP症例が15歳未満の小児で報告されました。うち、それぞれ608(37%)例・855(46%)例が、GBSの症例定義を満たしていました。15歳未満のGBSの粗発生率は、北部の3管区(ダッカ・ラージシャーヒ・シレット)で10万人当たり1.5~1.7件、南部3管区(クルナ・バリサール・チッタゴン)で10万人当たり2.1~2.5と異なっていました。国全体で見たとき、GBSの罹患率は、10万人当たり1.5~2.5件の幅がありました。罹患率が特に高い県は、南バングラデシュのMeherpur県とBarisal県でした(10万人当たり5件以上)。GBS患者数には季節的変動があることが検出されました。最も症例が多いのは5月(n=159)で、最も少ない月は2月(n=84)でした。また、GBSは主に男児により多く見られました(59%)。

これまでのGBS発生率に関する研究のほとんどは、ヨーロッパ・北アメリカからの文献として報告されてきました(5)。最近のレビューによると、世界で15歳未満小児のGBS発生率の予測値として最も適切な値は、10万人当たり0.6件であると報告されています。

発展途上国でのGBS罹患率関連の報告はあまりありません。バングラデシュにおける15歳未満のGBSの罹患率は、文献に記載されたものより2.5から4倍高いと考えられます。バングラデシュにおけるAFP頻度の上昇は、GBSによる上昇部分が統計学的に有意である結果生じていると考えられます。

北バングラデシュの3管区のGBS罹患率と南バングラデシュの沿岸部3管区の差については説明がつきません。しかし、南北間の罹患率の違いは、気候か疫学の違いによって説明されるかもしれません。更なる研究を行うことにより、GBSがなぜ南バングラデシュにより頻繁に起こるかを決定する必要があります。

人口に基づいたデータは、クルナ管区(6)におけるより規模の小さな病院ベースの研究とよく相関していました。その研究では、AFPで入院した症例患者の47%がGBSであると診断されました。最近の私たちの病院ベースの研究では、バングラデシュのGBS症例患者の25%が15歳未満です。今回の人口ベースの分析が、GBSの簡略化した症例定義の一つに基づいていることをここに強調しておく必要があります。GBSに関する国立神経障害研究所の診断基準に基づいて診断された25人全ての小児が、人口ベースのサーベイランスでも検出されており、簡易化されたGBS症例定義を満たしていました。しかし、将来の研究には、ここで使用された症例定義の検証を含めるべきです。

GBSが2009年のパンデミック(H1N1)およびそれ由来のワクチン接種キャンペーンに関連がある可能性が、最近再浮上しました(8)。2009年のパンデミック(H1N1)後に増加したと見られるGBS症例を正確にサーベイランスし、新しいワクチンの市販後サーベイランスを正確に行うためには、GBSのバックグラウンド発生に関するデータが非常に重要です。当報告によって、バングラデシュではAFPに対するGBSの影響が重要であり、現在行われているグローバルなAFPサーベイランス計画で得られたデータが、世界でのGBSの粗発生率を算定する目的に使用できることを示されています。

参考

  1. 1.World Health Organization. EPI surveillance bulletin, vol. 11, no. 6. 2008 [cited 2010 Dec 1].http://www.searo.who.int/vaccine
  2. 2.van Doorn PA, Ruts L, Jacobs BC.Clinical features, pathogenesis, and treatment of Guillain-Barrésyndrome.Lancet Neurol. 2008;7:939–50.PubMedDOI
  3. 3.slam Z, Jacobs BC, van Belkum A, Mohammad QD, Islam MB, Herbrink P, et al.Endemic axonal variant of Guillain-Barrésyndrome frequently associated withCampylobacterinfections in Bangladesh.Neurology. 2010;74:581–7.PubMedDOI
  4. 4.Landaverde JM, Danovaro-Holliday MC, Trumbo SP, Pacis-Tirso CL, Ruiz-Matus C.Guillain-Barrésyndrome in children aged<15years in Latin America and the Caribbean:baseline rates in the context of the influenza A(H1N1)pandemic.J Infect Dis. 2010;201:746–50.
  5. 5.McGrogan A, Madle GC, Seaman HE, de Vries CS.The epidemiology of Guillain-Barrésyndrome worldwide:a systematic literature review.Neuroepidemiology. 2009;32:150–63.PubMedDOI
  6. 6.Rasul CH, Das PL, Alam S, Ahmed S, Ahmed M.Clinical profile of acute flaccid paralysis.Med J Malaysia. 2002;57:61–5.
  7. 7.Asbury AK, Cornblath DR.Assessment of current diagnostic criteria for Guillain-Barrésyndrome.Ann Neurol. 1990;27:S21–4.PubMedDOI
  8. 8.Evans D, Cauchemez S, Hayden FG.Prepandemic immunization for novel influenza viruses,"swine flu"vaccine, Guillain-Barrésyndrome, and the detection of rare severe adverse events.J Infect Dis. 2009;200:321–8.PubMedDOI