豚由来インフルエンザA(H3N2)ウイルス感染が2児で確認されました。

CDC(MMWR) 2011年9月2日

インフルエンザAウイルスは多くの動物、ヒト、豚、野鳥などで感染が確認されていますが、散発的にヒトと動物の間での伝搬も起こっています。例えば鳥インフルエンザA(H5N1やH7N7)ウイルスと豚インフルエンザA(H1N1、H1N2やH3N2)ウイルスがヒトに感染することが知られています。遺伝子解析によってヒトの間で広く感染し毎年流行する季節性インフルエンザウイルスと動物由来のインフルエンザウイルスを鑑別することができます。
この報告書は8月19日と8月26日に豚インフルエンザA(H3N2)ウイルスが2症例で確認され、現在精査中であることの報告です。この2症例の疫学的リンクは認められず、現在調査中ではありますがこのウイルスによる新たなヒトの感染例は確認されていません。
このウイルス2株は過去2年間にヒトから分離された他の8種類の豚インフルエンザA(H3N2) ウイルスと類似していますが、8本の遺伝子鎖のうち1本(M遺伝子)が2009インフルエンザA(H1N1)ウイルス由来という点で特徴的です。この2株のインフルエンザA(H3N2)ウイルスのM遺伝子は1998年北米の豚の間で流行していた豚インフルエンザA(H3N2)ウイルスと2009年パンデミックの際にヒトから豚に感染したと推定されるインフルエンザA(H1N1)ウイルスの遺伝子をもっていたため、両ウイルス間の再構築が起こっていたことを示唆しています。しかしながら、2009インフルエンザA(H1N1)ウイルスと他の豚インフルエンザAウイルスとの再構築はすでに豚では報告されています。最近豚と接触のあったヒトでインフルエンザを疑う症例を診察する医師は患者の咽頭ぬぐい液を採取し、州の公衆衛生機関での確定検査によって時期を逸さず診断し、従来のノイラミニダーゼ阻害薬の処方でヒトーヒト感染の拡大を迅速に制限すべきです。

症例報告

患者A
2011年8月17日、CDCはインディアナ州健康研究所より5歳以下の男児の豚由来インフルエンザA(H3N2)感染疑い例について報告を受けました。
男児は2010年9月にインフルエンザワクチン接種を受けていましたが、2011年7月23日に発熱、咳、息切れ、下痢、喉の痛みを発症しました。彼は地元の救急部(ED)を受診し、検査結果はインフルエンザA(H3)でした。受診後帰宅しましたが、抗インフルエンザ薬による治療は行われませんでした。患児は複数の慢性疾患を有しており、悪化した慢性疾患の治療のため7月24日再入院となりました。7月27日に退院し、回復しています。

CDCサポートインフルエンザサーベイランスの一環として、患者の検体は7月24日に採取後、インディアナ州保健局研究所へ送付され、PCR検査の結果8月17日、豚由来インフルエンザA(H3N2)ウイルスの感染疑いがあると診断されました。検体はCDCへも送付され8月19日遺伝子の配列により確定されました。

この男児は直接豚に接触していませんでしたが、男児の発症前の2日間世話をした人がその数週間前に無症状の豚に接触していたことが報告されています。男児の家族や親密に接触のあった人、男児の世話人のいずれの人も呼吸器症状はありませんでした。

患者B
2011年8月24日、CDCはペンシルベニア州保健局より5歳以下の女児の豚由来インフルエンザA(H3N2)感染疑い例について報告を受けました。
女児は2010年9月にインフルエンザワクチン接種を受けていましたが、8月20日急性発熱、乾性咳嗽、倦怠感の症状が出現し、地元病院の救急外来を受診しました。鼻咽頭拭い液のインフルエンザ迅速診断検査でインフルエンザA陽性でした。抗インフルエンザ薬による治療は行われず、同日帰宅し回復しています。

患者の鼻咽頭拭い液や鼻洗浄検体はCDCサポートインフルエンザサーベイランスの一環としてEDで採取され、追加検査のためペンシルベニア州保健局研究所へ送付されました。
8月23日、PCR検査の結果豚由来インフルエンザA(H3N2)ウイルスの感染疑いであると診断されました。両検体はCDCへも送付されています。8月26日遺伝子の配列により豚由来インフルエンザA(H3N2)と診断されました。

8月16日にこの女児は農業祭で豚や他の動物に接触した、と報告されました。女児の家族や密接に接触した人から新たな疾患はありませんが、他のフェアの参加者に対して調査が続けられています。豚由来インフルエンザ感染の診断はこれまでに追加されていません。

疫学的調査と実験室検査

9月2日の時点で患者Aと患者Bの間に疫学的リンクは確認されていません。またこの豚インフルエンザA(H3N2)ウイルスの新たな感染患者も確認されていません。2州の調査で、両患者が発症した時期のインフルエンザの活動性は低いことが示されています。インディアナ州とペンシルベニア州の郡と州のヒトや動物の保健担当機関による患者と接触者の調査は現在も継続中で、さらにヒトでの感染がないかの調査が強化されています。

2株のインフルエンザウイルスの予備実験的な遺伝子解析からこのウイルスは豚由来インフルエンザA(H3N2)ウイルスと確認されました。完全な遺伝子配列もウェブサイトに掲載されました。2株のウイルスの遺伝子配列は類似はしていますが、完全には一致していません。ヘマグルチニン(HA)遺伝子やノイラミニダーゼ(NA)遺伝子を含む8本の遺伝子鎖のうち7本は、1998年から米国内の豚で確認されている他の豚インフルエンザH3N2ウイルスや、2009年から米国で報告されている豚インフルエンザA(H3N2)ウイルスのヒト感染症例から分離された8株のインフルエンザA(H3N2)ウイルスと類似していました。2株のウイルスとこれらの報告されているウイルスとの違いは、この2株のウイルスのM遺伝子が2009インフルエンザA(H1N1)ウイルス由来で、これまでのヒト感染で確認された古典的な豚インフルエンザA(H3N2)ウイルスのM遺伝子と置き換わっている点です。

豚インフルエンザウイルスと2009インフルエンザA(H1N1)ウイルスの遺伝子間の再構築は米国の豚からは報告されていますが、今回の豚インフルエンザウイルス遺伝子の再構築は特徴的で、GenBANKの検索ではこれまで豚でもヒトでも報告されていません。米国農務省(USDA)豚インフルエンザサーベイランス機構を通してGenBANKで解析した結果、この2株のインフルエンザウイルスは2009インフルエンザA(H1N1)由来のM遺伝子をもっていることが確認されました。この2株の豚インフルエンザウイルス遺伝子構成の完全な特徴について明らかにするための全遺伝子配列が解析中です。

この2症例から分離されたウイルスはアマンタジンとリマンタジンには耐性でしたが、ノイラミニダーゼ阻害薬であるオセルタミビルとザナミビルには感受性でした。このウイルスは特異な組換えを起こしているので、現在のところ豚またはヒトでの伝搬性や豚とヒトの間での伝搬性についての情報はありません。