世界におけるインフルエンザ流行状況

2011年9月9日 WHO

要約

北半球の温暖地域の国々ではインフルエンザの活動性は低いかほとんど認められていません。米国では最近、インフルエンザA(H1N1)2009由来のM遺伝子を持った豚インフルエンザA(H3N2)のヒト感染例が4例(1例はインディアナ州、3例はペンシルベニア州)報告されています。

熱帯地域の国々でも一部の例外を除いてインフルエンザの活動性は低い状態です。ただし、中米のキューバ、ホンジュラス、西アフリカのカメルーン、セネガル、南アジアのバングラディシュ、タイでは流行が持続していると報告されています。

南米でのインフルエンザの流行は中程度でピークに達しました。流行している型、亜型は国や地域により様々です。

オーストラリアでの流行は一部の地方では増加していると報告されていますが、国全体ではピークに達したようです。ニューサウスウェールズ州では25例のオセルタミビル耐性ウイルス感染のクラスター発生が報告されています。患者発生は限定された地域ですが、3ヶ月間の間での発生でした。特記すべきは、どの症例もオセルタミビルの投与は受けておらず、耐性化するような危険因子も認められなかったということです。本件はこれまでで最大のクラスター発生で、地域での伝搬が最も長期にわたるものでした。ウイルスの広がっている範囲を見極めるための調査が続いています。

北半球の温暖地域

米国疾病対策予防センター(CDC)が小児4例(1例がインディアナ州、3例がペンシルベニア州)における豚インフルエンザA(H3N2)ウイルス感染の報告をしています。
このウイルスは1998年から豚の間で循環していて、以前に8例の患者で確認されていたウイルスと類似しています。ウイルス遺伝子8本のうちヘマグルチニンやノイラミニダーゼ遺伝子を含む7本は豚インフルエンザの遺伝子でしたが、M遺伝子と呼ばれる遺伝子鎖(セグメント)はパンデミックインフルエンザA(H1N1)の同じでした。豚H3N2ウイルスは1990年代に流行したヒトH3N2ウイルスと交差抗原を有しています。
インディアナ州の症例では直接豚との接触はありませんでしたが、豚と接触した介護者との接触がありました。ペンシルベニアの3例は豚のいる農業祭に出かけていました。ウイルスがヒトの間で広がっている様子はありませんが、調査を続けています。

熱帯地域

  • 中南米の熱帯地域;低レベルでの伝搬が報告されています。

・ドミニカ共和国では7月に流行のピークを越え減少してきており、現在はB型ウイルスが検出されています。
・キューバではウイルス検出が過去4週間増加し続けており、A(H3N2)が大部分を占めています。
・ホンジュラスでも重症呼吸器感染症(SARI)での入院患者数の増加とともにA(H3N2)の検出が増加しており、2010年の同時期と比較して高くなっています。過去2週間にSARI関連の死亡者も1例報告されています。
・他の中米の国々ではインフルエンザの活動性は低いか、報告されていません。
・南米では、ブラジルにおいて6月下旬または7月上旬にピークに達し低いレベルにまで減少しています。ブラジルではA(H1N1)2009とA(H3N2)が同程度流行しB型がわずかでした。ボリビアやコロンビアでも同様の傾向が見られました。

  • アジアの熱帯地域;ほとんどの国でインフルエンザの活動性は低いです。

・インド、バングラディシュ、タイ、シンガポールでは最近中等度のインフルエンザ伝搬が報告され、そのほとんどがA(H3N2)でB型がわずかでした。低レベルでの伝搬が続いていますが、ピークは7月中旬に越えたようです。
・東南アジアのベトナム、カンボジアではA(H1N1)2009とB型が混在して流行しています。両国では8月上旬から減少に転じています。特に、重症ウイルス性肺炎サーベイランスシステムで27例のインフルエンザウイルス陽性が確認されました(全検査例の27%)。27例のうち26例(96%)がpA/H1N1で1例(4%)がB型ウイルスでした。

  • サハラ以南アフリカ;

・西部で流行が続いていますが、ガーナやトーゴでのウイルス検出率は7月中旬にピークを越え減少してきています。しかしカメルーンでは最近まで流行が続いています。3国での検出ウイルスはA(H1N1)2009とB型が同じ割合です。
・東部アフリカ、ケニアでは3月のピークから伝搬が続いていますが、極低レベルです。A(H1N1)2009とB型が両方検出されています。

南半球の温暖地域

  • 南米;流行のピークに達したようで、いくつかの指標によると今シーズンは例年に比較し緩やかな活動性のようです。

・チリではインフルエンザ様疾患(ILI)活動性は例年より低く、人口10万人あたりの受診者はピーク時で7人でした。小児の呼吸器感染症での入院数と定点検査でのインフルエンザ陽性率も低いままです。しかし過去2週間にA(H1N1)2009関連の死亡者が2例報告されました。
チリでのILIとSARIの原因の大部分はA(H1N1)2009でした。ウイルス検出と呼吸器疾患は8月中旬に基準値以下になりました。
・アルゼンチンではILI、肺炎、インフルエンザウイルス検出はチリよりも3から4週間早くピークに達しましたが、この3つとも過去5年間の平均並みのレベルでした。
チリと比べるとアルゼンチンでは当初A(H1N1)2009が優勢でしたが、7月下旬のシーズン中頃にはA(H3N2)が優勢となりその後A(H1N1)2009はほとんど検出されていません。
・ウルグアイでの呼吸器疾患の発生状況もまた7月下旬から8月上旬には基準値以下となっています。SARI入院やSARIICU入院の割合はそれぞれ5%未満、15%未満、SARI死亡者の割合も2%未満となっています。
シーズン中の検出ウイルスの大部分はH1N1(2009)でH3N2はわずかでした。

  • 南アフリカ;6月はじめのピーク時から低レベルで発生しています。
  • オーストラリア、ニュージーランド、南太平洋;

・オーストラリアニューサウスウェールズ州ニューキャッスル地域でオセルタミビル耐性A(H1N1)2009ウイルスによるクラスター発生が報告されました。3ヶ月間で25人のインフルエンザ患者から分離され、全てのウイルスがH275Yの変異を起こしていました。この変異はオセルタミビル高度耐性として知られています。(以下詳細は2011年9月1日付け最新ニュース参照https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/2011/09011555.html

全体的にはオーストラリアでの流行はピークを越え、いくつかの地方からの報告が依然あります。88人の入院患者の半数以上、7人のICU入院の71%がA(H1N1)2009と関係しています。2011年初めからこれまでに11人のインフルエンザ関連死亡者が報告されています。8人がA(H1N1)2009、2人がB型、1人がA型亜型不明でした。

・ニュージーランドにおいてILI症状で受診した人は住民10万人あたり55.5人で、流行基準値付近で停滞しています。検出ウイルスはB型が主体です。
・サモア、トンガ、ソロモン諸島、キリバス以外の太平洋諸島では低レベルの活動性が報告されています。サモアではILIが増加してきており、トンガ、ソロモン諸島、キリバスでは流行が続いています。フィジーでは波がありますが、過去5週間減少傾向です。

査読文献から

中国の研究者によりますと呼吸器疾患とナルコレプシーに関連性が見られるということです。1998年から2010年の間に北京でナルコレプシーと診断された629例の(ほとんどが小児)発症歴について断面的後向き地域相関研究(a cross-sectional retrospective ecological study)で調べたところ、4月から7月に高率に認められるという季節的な発症パターンがあることを確認しました。2010年にはこのピークが3~4倍に増加しているのは、2009/2010冬季のインフルエンザ症例の増加を反映しているものとみられます。2010年の154例のナルコレプシー症例の大部分は小児で、その4%のみがH1N1ワクチン(アジュバンド無し)を受けていたと報告されています。
この研究報告によりますと、感染とナルコレプシー間に関連がみられましたが、ワクチン接種との間には関連は認められませんでした。著者らはインフルエンザA型や化膿性溶連菌を含む冬季の気道感染症がナルコレプシーの誘因になっているようだと述べています。冬季気道感染症とナルコレプシー発症の間には4~6ヶ月の間があるようです。またナルコレプシー発症は、動物実験でナルコレプシーの症状が出るには約80%の細胞が消失することにも一致している、すなわち、冬季気道感染症は免疫反応を誘導し、ヒポクレチン細胞の消失と感受性のある個人のナルコレプシーを引き起こすのかもしれないと述べています。

コメント

インフルエンザは一元的には呼吸器疾患と考えられますが、これは中枢神経系を含む他の身体機能疾患の誘因ともなり得ます。冬季気道感染と神経学的合併症との関連性は1918年パンデミック当時から指摘されており、神経学的合併症については季節性インフルエンザA(H3N2)流行時や2009/2010インフルエンザA(H1N1)2009パンデミックの流行時にも多くの症例が報告されています。インフルエンザ感染は脳炎、けいれん発作、意識レベルの変化と関連しています。神経学的症状は時によりインフルエンザ症状として小児や青少年でより起こりやすいようです。