2011年におけるスウェーデンでのダニ媒介脳炎の増加

2011年9月26日ユーロサーベイランス(原文〔英語〕へのリンク)

要約

2011年、8月までにスウェーデンでは161件のダニ媒介脳炎(TBE)が報告され、人口10万人あたりの発生率が1.7人となりました。50歳から59歳の感染が最も多く(24%)、症例の55%は男性でした。過去10年間、スウェーデンでのTBEは増加していますが、これはダニの増加により人とTBE感染のダニの接触が増えたことが原因となっている可能性があり、また疾患の検出が向上していることに起因しているかもしれません。気象状況もダニの増加に関与しているかもしれません。

2011年9月25日までに、204人がダニ媒介脳炎(TBE)と診断され、スウェーデンでは2011年における年間患者数が最高値を記録するかもしれません。

背景

ダニ媒介性脳炎ウイルス(TBEV)は、フラビウイルス科に属します。フラビウイルスは多くの重要なヒト感染症、黄熱、日本脳炎、ウエストナイル熱、デング熱などの病原体です。TBEVはダニ(Ixodes ricinusI.persulcatus;マダニ)によりヒトに伝搬され、3サブタイプに分けられます。ヨーロッパ、シベリア、極東型です。スウェーデンではヨーロッパ型がみられ、最初の臨床報告は1954年で、ウイルスが分離されたのは1959年です。他のバルト海沿岸の国々と同様スウェーデンでは沿岸部でTBEが地域発生(endemic)していますが、南部の湖の周囲や西部沿岸部でも患者が発生します(図1)。ノルウェーとデンマークでTBEVが初めて報告されたのは2006年です。

TBEVのヒト感染は重症神経疾患となる可能性があります。感染したヒトの大部分は軽症か無症状ですが、重症例では高熱と脳炎症状となります。診断された患者の約46%では神経学的後遺症が永久に残ります。ヨーロッパでの致死率は2%以下です。

信頼できる検査室診断が1950年代中旬から得られるようになり、1969年からこの疾患はスウェーデン感染症疾病管理研究所(SWI)へ報告する届出疾患となっています。TBEの報告には神経学的症状と検査室診断が必須です。1960年、70年代の患者数はほとんど一定でしたが、1980年代の中頃から増加してきています(図2)。

予防接種

スウェーデンでは1988年から予防接種が導入されています。予防には3回接種が必要です。予防接種への助成はなく、推奨されるのもハイリスクエリア(ウプサラとセーデルマンランドの主に沿岸部、ストックホルム群島、メーラレン湖周辺、ヴェーネルン湖とヴェッテルン湖周囲のいくつかの地域など)に居住または一時滞在する人々のみです。TBEワクチンは国内で定期接種されていませんが、年間販売数(約50万人分)からワクチン接種率はまだ低いと推察されます。ワクチン接種率に関する調査はわずかしか行われておらずストックホルム郡でも最大30%と見積もられています。

スウェーデン人のダニ媒介脳炎症例の増加

1956年から1984年の間のスウェーデンでの年間TBE症例数は10例以下から多くても50症例でした。1985年から1999年の間の平均年間症例数は63例でした。過去11年間のTBEV感染者数は増加し続けています(図2)。2011年初めから8月までに161例がスウェーデンで報告されており全国での人口10万人における発生率は1.7人になりました。TBEは国内の一地域に限局されているので、セーデルマンランド、ウプサラ、ストックホルム郡での発生率はそれぞれ9.29人、6.55人、3.71人と高くなっています。8月だけで83例が報告されており、過去4年間のいずれの月よりも多くなっています。2011年9月25日までに2011年の累計で204例のTBEが報告されており、2010年は総計で174例(2009年は210例、2008年は224例)でした。50歳から59歳の年齢層が最も多く感染しており(24%)、患者の55%は男性でした。年齢、性別の割合は例年と類似していました(図3)。

結果と考察

2011年、9月25日までにスウェーデンでのTBE症例の届出数は記録を更新するほど増加しました。通常、追加症例が10月にも報告されるので2011年はスウェーデンにおけるTBEに関して記録的な年になるかもしれません。我々の見解では、スウェーデンにおける過去のTBE症例の増加は、ダニの個体数の増加(T Jansen氏からの情報)により説明できる可能性があり、また人の行動様式、野生動物との接触も関係しているかもしれません。

ダニの繁殖を促進する要因として他に極端でない温度、高湿度と冬の間の積雪があります。過去数十年の年間平均気温の上昇がダニにとってより快適な条件になっているのかもしれません。特に、過去数年の豊富な積雪量、春の早い時期の急な気温上昇は暑すぎず、乾燥していない状況と同じでダニの生存と繁殖に重要な要因となっていたかもしれません。しかしながら気象学的な要因だけではダニの個体数の増加の持続的効果にはならないでしょう。もっとも重要な血液供給源である齧歯類、シカや野ウサギの個体数もまた重要です。

ダニに曝露される人に関する要因として、好ましい天気、屋外活動の目的となるキノコやイチゴ類の量も影響するかもしれません。近年、春は以前に比べより暖かくなり、夏や秋は比較的暖かで、これらの要因で人がダニに刺咬されることが多くなったようです。

結論として、気候がダニの繁殖と人のダニへの曝露を促進しその結果2011年のスウェーデンにおける患者数が増えたと考察されます。

【図1】 2010年スウェーデンのダニ媒介脳炎症例の位置

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【図2】 1956年1月~2011年9月スウェーデンの年間ダニ媒介脳炎症例数(n=3648)

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【図3】 2006年~2010年(n=954) スウェーデンのダニ媒介脳炎症例の年齢、性別分布

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出典

Tick-borne encephalitis increasing in Sweden, 2011
Eurosurveillance, Volume16, Issue 39, 29September2011
http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=19981