限定的な新型インフルエンザA(H3N2)ウイルスのヒト-ヒト感染 (アイオワ州、2011年11月)

2011年11月23日 CDC(MMWR)原文〔英語〕へのリンク

2011年11月20日、CDCは3重の再集合を起こしたブタ由来インフルエンザA(H3N2)(S-OtrH3N2)ウイルス感染をアイオワ州2郡の3人の小児で確認しました。どの小児も入院せず、軽度の発熱呼吸器症状から回復しています。3人ともお互いに接触がありましたが、ブタとの明らかな接触はありませんでした。アイオワ州では他にこのウイルスが確認された症例は無く、このS-OtrH3N2ウイルスのヒト-ヒト感染が続いている証拠はありません。サーベイランスは続いています。

2009年からブタ由来インフルエンザA(H3N2)ウイルス感染が18人のヒトで確認されています(1,2)。この報告書のアイオワ州の3例を含めて直近の10例は、パンデミック2009インフルエンザA(H1N1)ウイルス(pH1N1)由来のM遺伝子を含むS-OtrH3N2ウイルスに感染していました。これらのウイルスは北アメリカのブタの間で循環しているブタ由来インフルエンザA(H3N2)ウイルスとpH1N1ウイルスの間で再集合を起こしたと推察されています。pH1N1ウイルス由来のM遺伝子を持つS-OTrH3N2ウイルスのヒト感染症例は全て2011年に起こっており4州から報告されています:ペンシルベニア州(3例)、メイン州(2例)、インディアナ州(2例)、アイオワ州(3例)(3)。

症例報告

患者A:患者Aは生来健康な女児で、2011年第2週にインフルエンザ様疾患(ILI)を急性発症しました。発症後3日目(第4病日)、医療機関で呼吸器から検体を採取され迅速インフルエンザ検査で陽性と出ました。通常のインフルエンザサーベイランスの一環として、検体が詳細検査のためアイオワ州立大学衛生研究所(SHL)へ送られました。患者Aの弟が、患者Aの発症1日前にILIを発症していました。患者Aの弟はインフルエンザの検査は受けませんでしたが医療機関でオセルタミビルによる治療を受け軽快していました。第2、3病日に患者Aは父親と接触しており、父親はその接触の最終日から2日後にILIを発症しています。父親は検査を受けていませんでした。この家族で他に、呼吸器疾患は報告されていません。ILIを発症したどの家族も発症前にブタとの接触は報告されていません。第1病日に患者Aは子供向けの小集会に参加していました。

患者B、患者C:患者Bは生来健康な男児で、患者Aの第1病日の2日後にILIを発症しました。患者Bと患者Cは兄弟です。患者Cも生来健康な男児で、CはBの発症1日後にILIを発症しました。両者ともBの発症後2日目に医療機関を受診してインフルエンザ迅速検査を受け両者とも陽性が出ました。通常インフルエンザサーベイランスの一環として、検体はSHLでさらに詳細な検査が行われました。患者B、Cの母親によりますと、他の同居家族で呼吸器症状はみられず、どの家族も患者Bの発症以前にブタとは接触していないということです。患者Aの第1病日に、BとCはAと共に同じ子供向けの小集会に参加していました。

疫学的調査と検査室検査

アイオワ州公衆衛生課(IDPH)の調査で、患者A及び患者B、Cの家族は最近旅行に行ったりコミュニティー集会に参加したことはありませんでした。特筆すべきことは、患者Aと患者B及び患者Cの唯一の疫学的リンクは患者Aの第1病日にあった子供向けの集会の参加者であったということです。その日の集会に参加していた他の5人の小児や大人で症状の出た人はいません。この集会に参加したどの参加者もブタとの接触はありませんでした。IDPHは患者A、B、Cの居住するコミュニティーや学校での欠席者や呼吸器疾患の報告が増加していないことを確認しています。患者A、B、Cの居住するコミュニティーにある医療機関でのILIサーベイランスが強化されました。IDPHは医療機関へ向けてSHLでインフルエンザ検査をするためにILI患者の呼吸器から検体を採取するように指示を出しました。現在までに新たなS-OtrH3N2患者は確認されていません。また州のサーベイランスでも3人の患者がILI症状を呈していた時期も現在もインフルエンザの活動性は低いことが示されています。

患者Aの発症8日後、SHLで患者A、B、Cの呼吸器からの検体についてリアルタイムRT-PCR(rRT-PCR)が実施されS-OtrH3N2インフルエンザウイルス感染の可能性が示唆されました。CDCでも決定的ではないもののブタ由来インフルエンザA(H3N2)ウイルス感染の可能性が示唆されました。引き続いてCDCでの全遺伝子配列で3検体ともpH1N1ウイルス由来のM遺伝子を持つS-OtrH3N2ウイルスが確認されました。3人の患者から分離されたウイルスは遺伝子配列からアマンタジンとリマンタジンには耐性でしたがノイラミニダーゼ阻害剤であるオセルタミビルとザナミビルには感受性でした。これらのウイルスは独特な遺伝子の組み合わせであるため現在、ウイルスのブタ間、ヒト間、ブタ-ヒト間での伝搬力についてはほとんど情報がありません。

報告者

Kari Prescott, Webster County Health Dept, Fort Dodge; Shelby Kroona, MPH, Hamilton County Public Health, Webster City; Patricia Quinlisk, MD, Denyse Gipple, MPH, Ann Garvey, DVM, Iowa Dept of Public Health; Lucy Desjardin, PhD, Sandy Jirsa, Jeff Benfer, MB, Univ of Iowa State Hygienic Laboratory.Thomas Gomez, DVM, Animal and Plant Health Inspection Svc, US Dept of Agriculture.Lyn Finelli, DrPH, Michael A.Jhung, MD, Seema Jain, MD, Lynnette Brammer, MPH, Scott Epperson, MPH, Joseph Bresee, MD, Alexander Klimov, PhD, Shannon Emery, MPH, Stephen Lindstrom, PhD, Susan Trock, DVM, Daniel Jernigan, MD, Nancy Cox, PhD, Influenza Div, National Center for Infectious and Respiratory Diseases; Karen Wong, MD, Adena Greenbaum, MD, Aaron Storms, MD, Shikha Garg, MD, EIS officers, CDC.
Corresponding contributor:Michael A. Jhung,mjhung@cdc.gov, 404-639-3747.

編集後記

2011年7月から、米国では10例のS-OtrH3N2ウイルスのヒト感染症例が報告されており、すべてpH1N1ウイルスのM遺伝子を保有していました。10人中7人は軽症でしたが、3人はインフルエンザで入院し、回復しています。7人の患者は患者自身や患者の濃厚接触者がブタに接触していました(4)。今回の報告にある3人では疫学的リンクとされる明らかなブタとの接触は見つからず、新型インフルエンザのヒト-ヒト感染が起こったと示唆されました。pH1N1由来のM遺伝子を持たないブタ由来インフルエンザA(H3N2)ウイルスのヒトへの感染は患者と濃厚接触したヒトへの例が以前に報告されていますが、ヒト-ヒト感染が持続することはありません(5)。アイオワ州での症例調査の仮報告ではヒト間で感染が続いているという証拠は得られていません。ブタインフルエンザウイルスはブタからブタへ広がりますが、豚肉、豚肉製品を取り扱ったヒトを介して広がるということはわかっていません。

動物のインフルエンザがヒトに感染する場合、ほとんどはヒト-ヒト感染へと拡大することはありませんが(6)、各症例でそのウイルスがヒトの間で伝搬しないか確実に調査し、さらにもし動物で感染が疑われたらヒトが感染した動物へ接触しないようにすべきです。そのような調査には州や郡、国の公衆動物衛生当局の緊密な連携が必要です。通常の対策の一部として、新型インフルエンザウイルスが容易にヒト-ヒト感染し広がる能力を獲得し公衆衛生上の脅威となる可能性に立ち向かうため、CDCはこれらのS-OtrH3N2ウイルスに対するヒトインフルエンザワクチン開発を行い、このワクチン候補ウイルスを製薬会社へ提供しました。

この報告の中の3症例はブタとの接触はありませんでしたが、以前に報告のあったS-OtrH3N2感染のほとんどの症例が発症以前にブタと接触していたと報告されているので、診察する医師は豚と接触のあった発熱性呼吸器疾患の患者ではブタ由来インフルエンザAウイルス感染を鑑別診断に加えるべきです。今後ポイントオブケア簡易試験を含む市販の診断試験でS-OtrH3N2ウイルスを診断できるようになると予想されますが、これは季節性インフルエンザAウイルスとS-OtrH3N2は鑑別できないでしょう。ヒトでブタ由来インフルエンザウイルス感染を疑った臨床医は指摘されたように(7)オセルタミビルで治療開始し、鼻咽腔拭い液を患者から採取してスワブを輸送用培養液に入れ、円滑に輸送が行われるよう州や郡の公衆衛生局へ連絡し、州公衆衛生研究所でFDAが推奨しているCDCのRT-PCR法を使って時期を逸さず診断がされるようにすべきです。CDCは州公衆衛生研究所がS-OtrH3N2のような新型のインフルエンザAを疑う全ての検体をCDCインフルエンザウイルスサーベイランス診断研究室まで送付するよう要請します。

2011年-12年季節性インフルエンザワクチンはこのウイルスの対し成人では限定的な予防効果が期待されますが、小児では効果は期待されません。今回の症例の継続した調査の一部としてILIのサーベイランスや呼吸器からの検体の診断試験を含むサーベイランスの強化がアイオワ州と周囲の州で続けられています。ブタインフルエンザの詳細情報についてはhttp://www.cdc.gov/flu/swinefluで入手できます。

参照

  1. 1.CDC. Update:influenza activity---United States, 2010--11season, and composition of the2011--12influenza vaccine. MMWR 2011;60:705--12.
  2. 2.CDC. Update:influenza activity---United States, 2009--10 season. MMWR 2010;59:901--8.
  3. 3.CDC. FluView: 2011--2012influenza season week45ending November12, 2011.Available athttp://www.cdc.gov/flu/weekly.Accessed November23, 2011.
  4. 4.CDC. Swine-origin influenza a (H3N2)virus infection in two children---Indiana and Pennsylvania, July--August 2011. MMWR 2011;60:1213--5.
  5. 5.Robinson JL, Lee BE, Patel J, et al.Swine influenza(H3N2)infection in a child and possible community transmission, Canada.Emerg Infect Dis2007;13:1865--70.
  6. 6.Myers KP, Olsen CW, Gray GC.Cases of swine influenza in humans:a review of the literature.Clin Infect Dis2007;44:1084--8.
  7. 7.CDC.Antiviral agents for the treatment and chemoprophylaxis of influenza---recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP). MMWR 2011;60(No. RR-1).

出典

CDC(MMWR)
Limited Human-to-Human Transmission of Novel Influenza A (H3N2) Virus -Iowa, November2011
http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm60d1123a1.htm?s_cid=mm60d1123a1_w