麻疹について(Fact sheet)

2011年10月 WHO(原文〔英語〕へのリンク

概要

  • 麻疹は安全で対費用効果の高いワクチンがありますが、小児では死に至ることのある疾患の一つです。
  • 2008年には世界で164,000人が麻疹で死亡しており、これは毎日450人、1時間に18人が死亡するペースでした。
  • 麻疹死亡の95%以上が保健基盤の弱い低所得国で起こっています。
  • 2000年から2008年の間の世界での麻疹死亡は、麻疹ワクチンによって78%低減されました。
  • 2010年、世界の子供の85%が1歳の誕生日までに定期予防接種として1回の麻疹ワクチン接種を受けています。2000年には72%でした。

麻疹は非常に伝染しやすい深刻なウイルス性疾患です。ワクチン接種が広く接種されるようになる前の1980年には毎年推定260万人が麻疹で死亡していました。

安全で効果的なワクチンがあるにもかかわらず、世界で麻疹は小児の死亡原因の一つのままです。2008年、推定で164,000人(ほとんどが5歳以下の小児)が麻疹で死亡しています。

麻疹はパラミクソウイルス科のウイルスによる疾患です。麻疹ウイルスは通常咽頭や肺の奥にある細胞内で増殖します。麻疹は人の疾患で、他の動物では起こりません。

予防接種活動が加速され麻疹死亡数減少に大きな影響を与えました。2001年から2011年までリスクの高い国に住む9ヶ月から14歳までの小児の推定10億人がワクチン接種を受けました。全世界での麻疹死亡数は2000年の733,000人から78%減少し、2008年には164,000人に減少しました。

所見と症状

麻疹は通常、ウイルス曝露を受けた後、約10日から12日後に高熱で発症し4日から7日間熱が持続します。鼻水、咳、結膜発赤、涙目、頬部内側の白色発疹(コプリック斑)が最初のステージでみられます。数日後、発疹が通常顔面と上頚部に出現します。発疹は3日間以上にわたり拡大し手や足にも出ます。発疹は5日から6日続き消退していきます。平均するとウイルスへの曝露後14日(7日から18日の幅がありますが)で発疹が出現します。

重症麻疹は貧しく栄養状態の悪い若年者、特にビタミンA不足やHIV/AIDSや他の疾患で免疫機能の低下した人でよく起こるようです。

麻疹関連死のほとんどは合併症によるものです。合併症は5歳以下の小児、または20歳以上の成人でより多く起こります。最も深刻な合併症には、失明、脳炎(脳浮腫を引き起こす感染症)、重症下痢とそれに関連した脱水、耳感染、肺炎のような重症呼吸器感染症が含まれます。低栄養状態の割合が高く適切なヘルスケアのない地域では麻疹症例の10%が死亡します。

麻疹に罹患し回復した人では生涯にわたり免疫が維持されます。

リスクのある人

ワクチン未接種の小児は麻疹、その合併症、死亡も含めて高いリスクがあります。免疫のない人(ワクチン未接種または以前に麻疹に罹患・回復していない人)は誰でも感染しえます。

麻疹は開発途上国、特にアフリカやアジアの一部ではまだ普通にみられる疾患です。毎年2000万人以上が麻疹に罹ります。麻疹死亡の圧倒的大部分(95%以上)は国民一人あたりの所得が低く保健基盤の弱い国で起こっています。

自然災害や紛争の起こっていたり、又はそれから復興する途中の国で麻疹が流行すると特に致命的です。保健基盤や保健サービスへの打撃は定期予防接種を中断させ、避難キャンプの混雑は感染のリスクをより増大させます。

伝播

非常に伝染しやすいウイルスは咳、くしゃみ、濃厚接触、感染した鼻咽頭の分泌物との直接接触で拡散します。

空中や感染物の表面でウイルスは2時間くらいまで活性があり伝染します。感染者は発疹が出現する4日前から発疹が消退した4日後まで感染力があります。

麻疹発生は、特に栄養失調の若年者で多くの死亡者を出す大流行となる可能性があります。

麻疹がほとんど排除された国では、他国からの輸入症例が重要な感染源となります。

治療

麻疹の重症合併症は、栄養を充分にとり、適切な水分補給、WHOの推奨する経口補液(ORS)での補液を確実に行う支持療法で避けることができます。この補液は下痢や嘔吐で失った水分や他の必須元素を補うものです。抗生剤は眼や耳感染、肺炎の治療に対して処方されるべきです。

発展途上国で麻疹と診断された全ての小児は、ビタミンAの投与を24時間間隔で2回受けるべきです。これは眼の障害と失明を予防する助けになります。ビタミンA補給は麻疹の死亡を50%減少させることが示されています。

予防

小児の麻疹定期予防接種は、患者数と死亡率の高い国では集団予防接種キャンペーンと連動していますが、世界的な麻疹死亡を減少させる公衆衛生戦略の鍵です。麻疹ワクチンは40年以上使用されてきました。安全で効果的であり、高価なものでもありません。一人の子供に麻疹ワクチンをするのに1米ドル以下のコストです。

麻疹ワクチンはしばしば風疹や流行性耳下腺炎のワクチンとともにこれらの感染症が問題となっている国において一緒に接種されます。単独でも混合でも効果はあります。

2010年には世界の子供の約85%が通常の保健サービスとして1歳の誕生日までに1回の麻疹ワクチン接種を受けています。これは2000年の72%から増加しています。1回目のワクチン接種では約15%の小児で免疫がつかないので、確実な免疫のためには2回接種が推奨されます。

世界的な保健対応

第4回ミレニアム開発目標(MDG4)は1990年から2015年の間に5歳以下の死亡率の3分の2を減少させることを目標としています。麻疹ワクチンには小児の死亡率を低下させる可能性が認められ、麻疹ワクチンの接種率が小児保健サービスの到達度のマーカーとして考えることができるので、麻疹定期ワクチン接種率はMDG4達成への進捗度の指標として使われています。

麻疹イニシアチブはWHO、UNICEF、アメリカ赤十字、米国CDC、国連基金の共同活動です。10年以上にわたり麻疹致死率を減少させてきた経験から、麻疹イニシアチブは各国政府に呼びかけ、世界中の資金提供者にアピールします:

  • 定期予防接種サービスか集団ワクチン接種キャンペーンで全ての小児に2回の麻疹ワクチン接種
  • ワクチン接種事業の影響を確認し政策や戦略を適合させるための効果的なサーベイランス、モニタリング、評価
  • 麻疹発生への迅速対応
  • ビタミンA、必要なら抗生剤、合併症を予防するための支援ケアを含めた効果的麻疹治療

各国政府やコミュニティーが麻疹イニシアチブより技術的財政的支援をうけて行ったワクチンキャンペーンと世界中の麻疹サーベイランスは麻疹関連死亡を減少させました。
2001年から2010年の間に麻疹死亡の減少が小児死亡数の減少全体の4分の1を占めMDG4の著明な進展を示しています。

世界的な麻疹制御の成功にもかかわらず、最近多くの長引く麻疹流行を含む事態の後退が、主にアフリカやヨーロッパで起こっており、インドでも麻疹流行が引き続き懸案事項になっています。MDG4達成の妨げとなる麻疹流行の発生は、麻疹ワクチン接種率の低さや主な財源のギャップに由来するワクチンの質の低下やワクチンキャンペーンの遅れが原因となっています。WHOは、支援の減少により毎年50万人以上の死亡者がでて麻疹イニシアチブの成果を2013年には消してしまうと見積もっています。

麻疹イニシアチブは各国が最終的な麻疹排除に向けた一連の中間目標を達成できるように支援を続けます。この第一歩は2015年までに麻疹死亡数を2000年レベルの95%減少させることです。

出典

WHO:Fact Sheet October 2011
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs286/en/index.html