家畜の新型オルトブニヤウイルスがもたらすヒトへの健康リスク評価(抜粋)

2011年12月22日 ECDC(原文〔英語〕へのリンク[PDF形式:651KB]

公衆衛生上の発表

ドイツとオランダの感染牛とオランダの感染ヒツジから新たにオルトブニヤウイルスが分離されました。そこで緊急リスク評価を実施することとしました。その目的は、動物における新型オルトブニヤウイルスの現在わかっている情報を調査し、このウイルスの同定が公衆衛生に及ぼす影響(ヒトの健康へ関与する可能性)について評価することです。

国際ECDC事項として2011年12月19日の定例会議で専門家に依頼しました。

疾患の情報

2011年11月上旬、ドイツのHochsauerlandkreis、シュマーレンベルグの一画で飼育されていた感染牛から新型のオルトブニヤウイルスが分離、メタゲノム解析で同定され、暫定的にシュマーレンベルグウイルスと命名されました。この新型ウイルスはブニアウイルス科、オルトブニヤウイルス属、シンブ血清型(遺伝学的情報のみに基づいた予備的な情報)です。ウイルスはフリードリヒ-レフラー研究所での細胞培養でも分離され、さらに特徴が調べられています。遺伝学的な情報からこの新型ウイルスは以下のようなシンブ血清型ウイルスに最も近いことがわかっています:Shamonda-、Aino-、Akabane-ウイルスがありますが、ヒトでは疾患を起こしません。

しかしながら、少なくとも30種のオルトブニヤウイルスが動物由来感染症で、軽症から重症までのヒト疾患を引き起こすことがあります
-例えばLa Crosse脳炎ウイルス、California脳炎ウイルスなど。

動物間でのオルトブニヤウイルスの伝播は主に小昆虫(Culicoides spp.サシバエ属)の刺咬により起こると報告されていますが、蚊による媒介、胎盤を介した垂直感染の可能性もあります。ヨーロッパには数種類の昆虫種が存在しますが、どの種が新型オルトブニヤウイルスを媒介するのかは同定されていません。

詳細については、オランダ国立公衆衛生環境研究所(RIVM)によるリスクプロフィールを参照して下さい:http://www.rivm.nl/dsresource?objectid=rivmp:60483&type=org&disposition=inline

事例情報

ドイツ

2011年夏、北部Rhine-Westphaliaで以下の症状を伴う乳牛が多数認められました:発熱(>40℃)、全身状態の不良、食欲不振と搾乳量50%の減少。2-3日で症状は消失しました。検査室検査がフリードリヒ-レフラー研究所で行われ、国立動物健康研究所(FLI)は他の関連感染症(リフトバレー熱など)を除外診断しました。2011年11月18日、FLIはウイルスを同定したと発表しました。この新型ウイルスはシュマーレンベルグウイルスと名付けられました。

14ヶ所のウシ飼育場が検査され100以上の検体が8月から10月まで集められました。4農場の9検体で、シュマーレンベルグウイルスのPCR陽性がでました。さらに、影響のなかった地域でコントロールとして150検体を調べましたが陰性でした。

現在までのところ、農夫や獣医などの曝露のあったヒト症例は報告されていません。

オランダ

2011年8月から9月に、下痢、発熱、搾乳量の減少を伴う多数の飼育牛が報告されました。約80ヶ所の農場が影響を受けました。20ヶ所の農場から50検体を検査したところ、18検体で新型シュマーレンベルグウイルスのPCR陽性がでました。

さらに12月の上旬から、オランダ動物健康担当部は多数の生まれたばかりの子ヒツジの側弯症、水無脳症、関節拘縮などの先天性奇形を確認しています。それらの子ヒツジの解剖や脳組織のウイルス学的検査からシュマーレンベルグウイルスが確認されました。

オランダでは、症例が国中に拡がって地理学的なクラスター(群発)発生はありません。

現在まで影響を受けた地域でヒト疾患は報告されていません。さらに、農夫や獣医などの曝露を受けたヒト症例の報告もありません。オランダ獣医健康担当部署は、可能性のある症状が出たら報告するように農家へ伝えました。

主な結論と勧告

現在までの知見から、新型のオルトブニヤウイルス感染と牛や小型の家畜にみられた臨床症状との因果関係は、確認も否定もできません。疫学的、免疫学的、微生物学的調査がドイツとオランダで続けられています。

ドイツとオランダの保健当局によりますと、さらに牛や小型家畜で症例が見つかるだろうと推察されています。ウイルスの伝播は昆虫を介しているようであり、冬には新たな感染は減少するかもしれませんが、次のベクターシーズンには再び増加する可能性があります。

診断学的方法はリアルタイムPCRに限定されており、さらに検証が必要です。血清学的な方法を含め、改善された診断法が、新たに感染を受けた農場や地理的な広がりを同定することを促進するでしょう。

以前、遺伝的に類似したオルトブニヤウイルスがヒトでの感染症を引き起こしたことはありませんでした。それ故このウイルスがヒトで疾患を起こすとはないと思われますが、現時点ではその可能性は除外できません。

動物とヒトの健康サービスの緊密な連携が、動物やヒトの疫学的な変調を迅速に見極めるために必要です。特に感染した可能性のある動物と濃厚接触した農夫や獣医の健康について注意深く監視していくべきです。

詳細についてはオランダ国立公衆衛生環境研究所(RIVM)によるリスクプロフィールが以下のサイトで確認できます。
http://www.rivm.nl/dsresource?objectid=rivmp:60483&type=org&disposition=inline

またフリードリヒレフラー研究所による暫定的なリスクのグループ分類が以下のサイトで確認できます。
http://www.fli.bund.de/no_cache/de/startseite/aktuelles/tierseuchengeschehen/schmallenberg-virus.html

出典

ECDC:Risk assessment:New Orthobunyavirus isolated from infected cattle and small livestockpotential implications for human health
http://www.ecdc.europa.eu/en/publications/Publications/231112_TER_Risk_assessment_
Schmallenberg_virus.pdf[PDF形式:651KB]