メリオイドーシス(類鼻疽)

CDC Yellow Book2012 (原文〔英語〕へのリンク

原因菌

腐敗性のグラム陰性桿菌であるBurkholderia pseudomalleiが原因菌で熱帯地域の土壌や水中に広く分布しています。

感染様式

B.pseudomalleiのヒト感染は通常、吸入、皮下侵入、時に経口感染で起こります;ヒト-ヒト感染はまれに感染者の血液や体液を介して起こります。

疫学

類鼻疽は東南アジア、オーストラリア北部、パプアニューギニア、インド亜大陸の大部分、中国南部、香港、台湾で地域流行している感染症です。タイ北東部、マレーシア、シンガポール、オーストラリア北部では高頻度で流行していると推定されています(Map3-12)。オーストラリア北部とタイ北東部では全市中感染敗血症の20%が類鼻疽によるものです。オーストラリア北部では類鼻疽は重症市中感染肺炎の最も多い原因です。

類鼻疽はプエルトリコでも報告されており、エルサルバドルでも疑い患者が報告されており、インド、アフリカ、カリブ海地域、中南米でも過小診断されている可能性があります。2009年、アルバ島からの輸入症例がアメリカで報告されました。ブラジル北部で類鼻疽の集団発生があり、激しい雨期に関連していました。

類鼻疽の流行している地域に出かける場合、全ての年齢の渡航者にリスクがあります。類鼻疽のリスクが最も高いのは、軍人、冒険旅行者、エコツーリスト、建設工事や資源採掘現場の労働者、その他汚染された土壌や水に接触する人達で、細菌に曝露される可能性があります。B.pseudomalleiは流行地域で行動した全ての人種の患者から分離されており、62年の潜伏期のあった人もいます。

患者の85%が雨期に発症しており、病原菌への曝露はこの時期に最も高くなると信じられています。旅行者では、雨期に流行地滞在中に罹患した人で類鼻疽が診断されています。2004年東南アジア津波の後、帰国した旅行者の中で類鼻疽症例数の増加が見られました。全身性類鼻疽のリスク因子は、糖尿病、多量のアルコール摂取、慢性腎疾患、慢性肺疾患(嚢胞性線維症、慢性閉塞性肺疾患など)、サラセミア、悪性腫瘍、HIV以外の免疫抑制状態です。

臨床症状

類鼻疽は、無症状、(皮膚などの)局所感染症、肺炎、髄膜脳炎、敗血症、慢性化膿性感染症の症状で起こります。最後の症状は結核に類似し、発熱、体重減少、湿性咳そうを認め、上葉浸潤影に空洞を伴ったり無い場合もあります。潜伏期間は通常1-21日ですが、数ヶ月から数年に及ぶこともあります。2~3時間のうちに重篤になることもあります。
患者の50%以上が肺炎症状を呈します。適切な治療を行わないと、発症48時間以内の致死率は90%に達するようです。類鼻疽の罹患率、致死率の高いのは、糖尿病、腎機能不全、慢性肺疾患、免疫不全の基礎疾患のある人々です。しかし、HIVは類鼻疽に進展する大きなリスク因子ではないようです。

診断

血液、痰、膿、尿、滑液、腹腔液、心嚢液の菌の培養が行われます。類鼻疽の血清学的検査として最も広く使われているのは、間接赤血球凝集法(IHA)です。IHA血清試験を含み、分離菌の分子学的、生化学的、遺伝子学的特徴などの診断の補助項目がCDC Zoonoses and Select Agent Laboratoryを介して入手できます(http://www.cdc.gov/ncezid/dfwed/

治療

類鼻疽はしばしば長期にわたる抗生剤治療が必要です。よく使用される抗生剤は、セフタジジン、イミペネム、メロペネム、ST合剤、ドキシサイクリンなどです。再発が時々、特に推奨される根治療法を完了しなかった患者で起こることがあります。

旅行者の予防対策

類鼻疽予防のワクチンはありません。流行地では、土や水で汚れた皮膚裂傷、擦過傷、やけどはすぐに完全に清潔にすべきです。

参考文献

1.Cheng AC, Currie BJ.Melioidosis:epidemiology, pathophysiology, and management.Clin Microbiol Rev. 2005 Apr;18(2):383–416.

2.Currie BJ.Advances and remaining uncertainties in the epidemiology ofBurkholderia pseudomalleiand melioidosis.Trans R Soc Trop Med Hyg. 2008 Mar;102(3):225–7.

3.Currie BJ, Dance DA, Cheng AC.The global distribution ofBurkholderia pseudomalleiand melioidosis:an update.Trans R Soc Trop Med Hyg. 2008 Dec;102 Suppl 1:S1–4.

4.Currie BJ, Fisher DA, Howard DM, Burrow JN, Lo D, Selva-Nayagam S, et al.Endemic melioidosis in tropical northern Australia: a 10-year prospective study and review of the literature.Clin Infect Dis. 2000 Oct;31(4):981–6.

5.Dance DA.Ecology ofBurkholderia pseudomalleiand the interactions between environmentalBurkholderiaspp.and human-animal hosts.Acta Trop. 2000 Feb 5;74(2–3):159–68.

6.Inglis TJ, Rolim DB, Sousa Ade Q.Melioidosis in the Americas.Am J Trop Med Hyg. 2006 Nov;75(5):947–54.

7.Inglis TJ, Sagripanti JL.Environmental factors that affect the survival and persistence ofBurkholderia pseudomallei.Appl Environ Microbiol. 2006 Nov;72(11):6865–75.

8.Ko WC, Cheung BM, Tang HJ, Shih HI, Lau YJ, Wang LR, et al.Melioidosis outbreak after typhoon, southern Taiwan.Emerg Infect Dis. 2007 Jun;13(6):896–8.

9.Ngauy V, Lemeshev Y, Sadkowski L, Crawford G.Cutaneous melioidosis in a man who was taken as a prisoner of war by the Japanese during World War II.J Clin Microbiol. 2005 Feb;43(2):970–2.

10.Peacock SJ.Melioidosis.Curr Opin Infect Dis. 2006 Oct;19(5):421–8.

11.Suputtamongkol Y, Chaowagul W, Chetchotisakd P, Lertpatanasuwun N, Intaranongpai S, Ruchutrakool T, et al.Risk factors for melioidosis and bacteremic melioidosis.Clin Infect Dis. 1999 Aug;29(2): 408–13.

12.White NJ.Melioidosis. Lancet. 2003 May 17;361(9370):1715–22.

出典

CDC Yellow Book2012
Chapter 3旅行に関連した感染症
http://wwwnc.cdc.gov/travel/yellowbook/2012/chapter-3-infectious-diseases-related-to-travel/melioidosis.htm