世界におけるインフルエンザ流行状況(14)

2012年3月16日 (原文〔英語〕へのリンク[PDF形式:736KB]

要約

  • 北半球の温帯地域の国々ではインフルエンザの活発な伝播が続いており、北アメリカ、中国北部、ヨーロッパの数ヶ国で活動性が増加してきています。南ヨーロッパの数ヶ国と北アフリカでは日本や韓国と同様ピークに達したようです。
  • 熱帯地域のほとんどの国々ではインフルエンザの活動性は低レベルの報告です。
  • 北半球の温帯地域の国々で検出されるウイルス型、亜型の多くはインフルエンザA(H3N2)です。メキシコと中米ではインフルエンザA(H1N1)pdm09亜型が優勢に循環し、中国と周辺の国々ではインフルエンザB型の報告が優勢です。
  • オセルタミビル耐性は非常に低レベルでの報告が続いていて過去シーズンで報告されたレベルを超えて特に増加はしていません。

北半球の温帯地域

全般的にはインフルエンザ活動性はまだ増加しています。アメリカ合衆国(US)とイギリス(UK)を含むいくつかの地域では今回は過去と比較して穏やかなシーズンだったようです。しかし他の国々での活動性は例年通りのレベルかそれよりも高いレベルに達したようです。

北部アメリカ
カナダでは、過去数週間にわたりインフルエンザ活動性は全体的に増加してきています。国内インフルエンザ様疾患(ILI)での受診率は、2月最終週に1,000件当たり31.3件から38.6件に増加し、臨床検体に占めるインフルエンザ陽性株の割合は10.5%から17.9%へ増加しました。施設でのインフルエンザ発生率も2月の後半2週間で著明に増加しました。疫学週第9週(2月26日~3月3日)に、長期療養施設13件、学校9件、病院1件、他の施設6件からなる29件の発生が有りました。このシーズン中に160件のインフルエンザに関連する小児入院の報告があり、その69%が5歳以下の幼児でした。この入院の53%はインフルエンザAに関連したものでした。本シーズン中226件の成人入院がありましたがその47.8%は65歳以上の高齢者でした。ILI活動性は例年と同程度でした;施設での発生数は例年同時期よりいくらか少ないようでした。インフルエンザB型の陽性検体の割合は増加してきていて、シーズンの初めには36.5%でしたが、疫学週内の割合は46.6%を占めています。A型とB型の割合は年齢によって偏っています;第9週、5歳以下の幼児で検出されたインフルエンザウイルスの50%はB型が占めていましたが、65歳以上の高齢者では29.3%でした。亜型情報では本シーズン、5歳以下の幼児から分離されるインフルエンザAの30.2%はA(H1N1)pdm09でしたが、65歳以上の高齢者では8.1%のみでした。シーズンの初めから精査された107株のインフルエンザA(H3N2)の94.4%が現在のワクチン株(A/Perth/16/2009)と抗原的に関連がありました。同様に、A(H1N1)pdm09ウイルス87株の98.9%が抗原的にワクチンウイルスA/California/07/2009と類似していました。精査されたB型ウイルスの55.3%はワクチンウイルスB/Brisbane/60/2208と類似しており、44.7%は山形系統に属するB/Wisconsin/01/2010-likeと抗原的に関連がありました。シーズンの初めから抗ウイルス剤耐性を検査したウイルス全てがオセルタミビル(451株)とザナミビル(450株)に感受性でした。

アメリカ合衆国国内では、インフルエンザ活動性はいくつかの地域で増加していますがILIは全国的に比較的低いままで、外来患者の2%で報告されているのみです。ILIの国内での季節的閾値は2.4%です。インフルエンザ陽性呼吸器検体の割合は18.4%から21.3%まで増加しました。3州(アラバマ、ミズーリ、オクラホマ州)で高いILI活動性が報告され、2州(イリノイ、カンザス州)で中等度の活動性が報告され、他の州は低いか、ごくわずかの報告です。広範囲なインフルエンザ活動性の報告があった州は前週の6州から9州に増加しました。122の都市での定点報告では肺炎やインフルエンザでの死亡者は、季節的閾値以下でした。インフルエンザ関連の小児死亡が1例報告され、今シーズンの18歳以下の小児死亡者は合計5症例になりました。検査室で確定診断された593例のインフルエンザ関連入院患者のうち、521例(87.9%)はインフルエンザA、61症例(10.3%)はインフルエンザB、1例(0.2%)はA型とB型の同時感染でした。インフルエンザAのうち、185症例はA(H3N2)、61症例がA(H1N1)pdm09でした。成人インフルエンザ入院症例の基礎疾患として最も多く報告されているのは慢性肺疾患、代謝性疾患、肥満でした。小児インフルエンザ入院症例の基礎疾患として最も多いのは慢性肺疾患、喘息、神経学的疾患でした。しかしながら、入院した小児症例の50%では基礎疾患は認められませんでした。インフルエンザAウイルスがほとんどの地域で検出されるインフルエンザウイルスのほとんどを占めており、3月第1週に報告されたウイルスの94.7%を占めていました。本シーズンの初めから亜型確定されたインフルエンザAの76.8%はA(H3N2)、ですが、インフルエンザA(H1N1)pdm09と比較してわずかにその割合が減少してきています。3月第1週のA(H3N2)ウイルスはインフルエンザAの64.7%でした。抗原性を調べた407株のインフルエンザA(H3N2)ウイルスの78.4%と127株のA(H1N1)pdm09ウイルスの98.4%で現在の季節性インフルエンザ3価ワクチンに含まれるウイルスと抗原的に関連性がありました。このことからワクチンウイルスに関連性のないA(H3N2)ウイルスの検出が顕著に増加していることがわかります。検査されたインフルエンザBウイルス78株のうち36株(46.2%)はビクトリア系統に属する性質を持っており2011-2012北半球インフルエンザワクチンのインフルエンザB成分であるB/Brisbane/60/2008-likeと特徴付けられました。本シーズン検査された439株のインフルエンザAウイルス1株を除く全ての株と79株のインフルエンザBウイルス全てがノイラミニダーゼ阻害剤である抗ウイルス薬オセルタミビルとザナミビルに感受性でした。耐性ウイルス1株はインフルエンザA(H1N1)pdm09でした。

メキシコではインフルエンザ陽性検体の割合が3月の上旬で約30%から25%へ減少しました。これは今年の初めからで最も低い値です。インフルエンザA(H1N1)pdm09が依然として最も多いウイルス亜型でした。

ヨーロッパ
ヨーロッパでは、大陸のほとんどで呼吸器疾患のレベルは安定、または増加し続けているという報告ですが、アルバニア、ブルガリア、イタリア、スペインはILIとARIでの受診率は減少し始めたと報告しています。3月第1週(疫学第10週)に、定点外来機関で採取された1,708検体のうち、723検体(42%)がインフルエンザウイルス陽性で、2週間連続でピーク時の46%から減少してきています。ほとんどの国のILI受診率は2010/2011インフルエンザシーズン中に報告されたレベル以下ですが、これは普遍的なものではなくいくつかの国では昨年レベルを超えました。SARI症例数は2010/2011同時期に比較し低い割合ですが、本シーズン中に増加する可能性があります。EuroMOMO(ヨーロッパ死亡率監視プロジェクト)により報告された全死亡数もシーズンはじめには低かったのですが、過去数週間65歳以上の高齢者で増加しました。ヨーロッパ全体で、検査室で確定診断されたインフルエンザ症例の91%はインフルエンザAで、9%はインフルエンザBでした。シーズンはじめから循環しているインフルエンザAウイルスの98.8%はインフルエンザA(H3N2)で、最も多く検出され続けています。本シーズンの初めから精査された全てのインフルエンザAウイルスは現在のワクチンウイルスと類似していました;インフルエンザB10(20?)株のうち12株は山形系統でした。抗ウイルス剤感受性について検査したウイルス245株から耐性株は見つかりませんでした。

北部アフリカと東部地中海地域
これらの地域のインフルエンザ活動性は今年の初めにピークに達し、インフルエンザ陽性検体数も過去数週間低い値です。シーズンを通してインフルエンザA(H3N2)が最も多い亜型でしたが、A(H1N1)pdm09ウイルスの割合が増加してきており、先週最も多い亜型となりました。

アジア
中国北部では、国内定点機関から報告されるILIの割合は、前週よりわずかに増加し現在3%を超えましたが、1月のピーク時より低い値です。全体的な割合は前シーズンと同様です。モンゴルのILI割合は増加し、国内警戒域値を超えました。入院患者中の肺炎患者の割合は過去3週間顕著に増加し2010/2011シーズンのピーク時より高くなりました。両国共にB型インフルエンザウイルスが依然優勢に循環しています。日本と韓国のインフルエンザ活動性はそれぞれ1月と2月のピーク時から減少傾向を示しています。日本と韓国のシーズン中に循環していたウイルスはインフルエンザA(H3N2)が優勢でしたが、インフルエンザBの割合も過去数週間増加しました。

熱帯地域

アメリカ
インフルエンザ伝播は低いか検知できないレベルと報告されています。

サハラ以南アフリカ
データの入手できた国ではほとんどの国でインフルエンザ活動性はほとんど認められていません。

アジア
全体的にインフルエンザ活動性は減少しているか低く、インフルエンザBが依然最も多く検出されています。
中国南部では国内定点機関から報告されるILI受診の割合はわずかに減少し3%以下となりました。中国南部で第9週に検査された1,173検体のうち、552検体(47.1%)はインフルエンザ陽性でした。インフルエンザウイルス伝播のほとんどがインフルエンザB(陽性検体の71%)によるものでした;インフルエンザA亜型の100%がインフルエンザA(H3N2)でした。中国香港では2月中旬にピークに達したようです。ほとんどのインフルエンザ伝播はインフルエンザBによるものでした(78%)。18歳以上のインフルエンザ関連ICU入院、死亡モニタリングで2012年1月13日から57人が検査室確定診断を受け、34人が死亡しました。

南半球の温帯地域

南米、オーストラリア、ニュージーランドのインフルエンザ活動性はシーズンオフレベルです。

出典

WHO:Influenza update,16 March 2012Update number155
http://www.who.int/influenza/surveillance_monitoring/updates/2012_03_16_GIP_update_155.pdf[PDF形式:736KB]