ルーマニア、サラージュ(Salaj)での青少年における風疹の流行について 2011年9月-2012年1月

2月16日 ユーロサーベイランス(原文〔英語〕へのリンク

著者;D Janta1,2, A Stanescu1,E Lupulescu3, G Molnar4, A Pistol1

  1. 1.National Institute of Public Health, National Centre for Communicable Diseases Surveillance and Control, Bucharest, Romania
  2. 2.European Programme for Intervention Epidemiology Training(EPIET), European Centre for Disease Prevention and Control(ECDC), Stockholm, Sweden
  3. 3.National Institute of Research and Development for Microbiology and ImmunologyCantacuzino’ –Reference Laboratory for Measles and Rubella, Bucharest, Romania
  4. 4.Ministry of Health, Bucharest, Romania

ルーマニアのサラージュで2011年9月から風疹の流行が続いており、1,840人の疑い及び確定患者が主にワクチン未接種青少年で発症しています。最初の症例は2011年9月6日に発症しました。もっと多い報告は10-14歳と15-19歳で見られます。11人で合併症が報告されており、髄膜炎や関節炎が含まれていました。ピークは過ぎましたが、その地区でのサーベイランスは続けられています。

ルーマニア北西部サラージュ、2010年のデータで241,014人の人口、で1,800人以上の風疹患者の発生が報告されました(Figure 1)。

流行調査にはヨーロッパ連合(EU)症例定義[1]が適応され、1,873人の可能性のある患者のうち、69人(3.6%)が検査診断患者、臨床定義と確定患者との接触歴により1,771人(94.6%)が疑い患者、33人(1.8%)が除外されました。69人の検査診断患者のうち2人が妊婦でしたが今までのところ先天性風疹感染(CRI)の報告はありません。

背景

ルーマニアで風疹は1978年から法令上届け出感染症です[2]。2010年までは症例数は年齢グループの総計として報告されました。2010年は強制的な検査診断を行った症例ベースの報告が導入されました。

2002年12月から、麻疹サーベイランスの一部として、地域の公衆衛生当局による発熱性発疹の集団発生の調査を行い、また臨床診断を確定するためにそれぞれの発生から5人から10人の検体を採取し麻疹の血清学的検査、もしそれが陰性なら風疹の検査をすることが推奨されています。風疹の伝播が確定された場合、疫学的に検査診断症例と接触のあった、または臨床定義に合致する妊婦は優先的に検査が行われ、胎児に先天性風疹症候群(CRS)のリスクの可能性があることが説明されました。通常風疹は軽度の発熱性疾患ですが妊娠中の感染は流産、死産の原因や、心疾患、視覚障害、聴覚障害、精神遅滞などのCRSの先天性障害の伴うことがあります。

ルーマニアではCRIの国内サーベイランスシステムは2000年に始まりました。風疹陽性の母親から生まれた新生児はCRSのための風疹特異IgM検査を受け、適切な方法でCRI/CRSサーベイランスへ報告されます[3]。

風疹はワクチンで予防可能な疾患で麻疹と共にWHOヨーロッパ地域で2015年までの根絶を目標にしています。参加国は同年までにCRS予防も公約しています[4]。

ルーマニアでの風疹混合ワクチンは1998年(麻疹-風疹2種)から始まり、15歳から18歳の少女(1980年から1983年生まれ)に国内麻疹流行に対応して集団ワクチン接種の一部として接種されました[5]。2002年から2003年の風疹大流行の後、2008年まで風疹混合ワクチンが13歳と14歳の少女に接種されました(1994年生まれ)。2004年に麻疹-流行性耳下腺炎-風疹(MMR)混合ワクチンが12-15ヶ月の小児を対象とした定期予防接種として開始されました。2004年から7歳の小児へもMMR接種が開始されました。

2002から2003年にルーマニアで風疹の大流行があり、115,000人以上の患者が国内で報告され、罹患者の多くは学童・生徒での報告でした(5-9歳の100,000人当たり2,564人、10-14歳100,000人当たり2,446人[6])。2010年までに風疹罹患率は人口100,000人当たり1.6人に減少しました(2009:2.9/100,000;2008:8.1/100,000)[7,8]。

流行詳細

最初の症例(検査室確定)は、2011年9月6日にサラージュ公衆衛生局へ報告されたワクチン未接種の16歳の地元の高校生でした。2011年9月1日から2012年1月23日までに、1,840人の確定または疑い風疹患者がサラージュ公衆衛生局へ報告されました(Figure 2)。

1,840症例のうち1,069人が男性、771人が女性で、男女比は1.4:1でした。10歳から19歳が最も多い年齢層でした(n=1,693)。このうち、1,206人が15-19歳の年齢層に登録され(58.6%が男性、41.1%が女性)、男女比が1.4:1でした。残りの487人が10-14歳で(55.4%が男性、44.6%が女性)、男女比が1.2:1でした。妊娠可能年齢に注目して15歳から44歳の1,341人について調べると、男女比は1.3:1でした。この1,341人のうち男性が59.1%、女性が40.9%、男女比が1.3:1でした。全症例の23.3%(428/1,840)が1996年生まれの小児でした。

サラージュの風疹発生率は100,000人当たり763人で、発生率の高かったのは15歳から19歳のティーンエイジャーの高校生で(100,000人当たり男性9,555人、100,000人当たり女性7,067人)、続いて10-14歳(100,000人当たり男性3,854人、女性3,281人)でした。3番目に多かった年齢層は20-24歳で100,000人当たり男性647人、女性154人でした(Table)。

合併症には髄膜炎(n=2症例)と関節炎(n=9症例)が含まれていました。35人は入院が必要で、入院日数中央値は4日でした(最短1日、最長9日)。

風疹IgM抗体を検査した98人のうち69人が陽性と診断されました。2症例の臨床検体からは風疹ウイルス遺伝型2Bが確認されました。

報告された症例のワクチン接種率は低い値でした:全症例のうち38人(2.1%)が風疹を含むワクチンの1回接種を受けていました。ワクチン接種対象年齢と流行中に報告された風疹患者数に注目して、1989年から2002年生まれの年齢集団について風疹症例の割合を計算しました。患者発生率の高かった年齢層は1994年から1997年生まれでした(Figure3)。

またルーマニアとサラージュでのMMRワクチンのワクチン接種率を12-15ヶ月齢(2004年-2008年生まれ)と7歳児(1998年-2002年生まれ)、1989年-2003年生まれの女児に対して風疹単独接種に関して調べました。2003年から2008年の間のサラージュ地区の13歳から14歳の女児の風疹ワクチン接種率は同時期の全国のワクチン接種率の平均より3.8%高い値でした。2005年から2009年の間、サラージュでのMMR接種率は全国平均値より低い値でしたが、2008年と2010年の7歳児におけるMMR接種率は例外的に全国平均より高い値でした(Figure4)。

対策

流行が確認されてから、地区の保健担当部署によりいくつかの対策が取られました。最も重要な対策はサラージュ地区の10歳から19歳の全小児、青少年に対し、ワクチン歴にかかわらずMMRワクチン接種キャンペーンを開始したことです。MMRワクチンは保健省から供出され、通常の予防接種サービス機関(家庭医)や特別な出先機関を通して無料で提供されました。この特別な接種キャンペーンの結果210人が2011年12月31日までに接種を受けましたが、多くの保護者は子供にワクチン接種することを拒否していました。

地区の医療機関従事者(医師と看護師)はワクチン接種とこの疾患のリスクのある患者、特に妊娠可能年齢の女性に対して情報を提供し注意を喚起するよう推奨されました。

さらに地区保健担当部署は風疹疑い患者、確定患者と疫学的にリンクのある妊婦の風疹スクリーニングを開始しました。MMRワクチンに関する全体的な推奨が国家レベルで続けられる一方、サラージュと境界を接するいくつかの地域(アルバ、ビホール、クルージュ)-これらの地区でも風疹は発生しましたが少数でした-でさらに流行が起こる可能性を避けるため、ティーンエイジャーのワクチン接種勧奨が宣言されました。

結論と考察

調査の結果、上述された全症例のうち98%は風疹ワクチン接種を一度も受けていませんでした。最初の症例はワクチン未接種のティーンエイジャーで、1,206人の症例(65.5%)は15歳から19歳(1992年から1996年生まれ)のティーンエイジャーでした。ルーマニアの歴史的なMMR接種のスケジュールに注目すると、1995年と1996年の間に生まれた770人の小児(2011年に15-16歳)は風疹ワクチン接種の対象ではなく全症例の41.8%を占めました。1992年-1994年生まれの集団は14歳の時に女子のみが風疹ワクチン接種の対象でした。

キャッチアップキャンペーンのような対策はワクチン接種の限られたギャップがある場合特に重要で、流行がさらに拡大するのを防ぎます。風疹伝播様式に関する一般的な公衆衛生教育や風疹ワクチン接種の必要性を強調することは他の地域への風疹の拡大や先天性感染症を予防するために最も重要な方法です。

流行のピークは過ぎ終息しつつありますが、風疹サーベイランスは最後の症例の発疹が出てから少なくとも2潜伏期間(46日)後まで継続される予定です[9]。さらに、CRSのある乳児の積極的サーベイランスを最後の風疹患者が報告された後、9ヶ月齢まで施行する予定です。

謝辞

The authors wish to thank the team of epidemiologists from Salaj district involved in the outbreak investigation, the local EPIET supervisor Dr Florin Popovici and the EPIET coordinator Alicia Barrasa.

参考文献

  1. 1.Commission Decision of19 March 2002laying down case definitions for reporting communicable diseases to the Community network under Decision No2119/98/EC of the European Parliament and of the Council.Official Journal of the European Communities. 3 Apr 2002.Available from:http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2002:086:0044:0062:EN:PDF[PDF形式:258KB]
  2. 2.National Assembly of Romania. Legea Nr. 3 din 6 iulie 1978privind asigurarea sanatatii populatiei cu modificarile ulterioare. [Law no 3 of 6 July 1978regarding population health and subsequent modifications].Official Journal no54. 10 Jul 1978.
  3. 3.National Centre for Communicable Diseases Surveillance and Control(CNSCBT).Metodologia de supraveghere a infectiei rubeolice congenitale(inclusiv sindromul rubeolic congenital). [Methodology of surveillance for congenital rubella infection(including congenital rubella syndrome)]. CNSCB. [Accessed 26 Jan 2012].Available from:http://www.insp.gov.ro/cnscbt/index.php?option=com_docman&task=cat_view&gid=50&Itemid=10
  4. 4.World Health Organization Regional Office for Europe(WHO).Renewed commitment to measles and rubella elimination and prevention of congenital rubella syndrome in the WHO European Region by2015.Copenhagen: WHO. 23 Jul 2010.Available from:http://www.euro.who.int/__data/assets/pdf_file/0008/119546/RC60_edoc15.pdf[PDF形式:1617KB]
  5. 5.Pistol A, Hennessey K, Pitigoi D, Ion-Nedelcu N, Lupulescu E, Walls L, et al.Progress toward measles elimination in Romania after a mass vaccination campaign and implementation of enhanced measles surveillance.J Infect Dis. 2003;187 Suppl 1:S217-22.
  6. 6.Rafila A, Marin M, Pistol A, Nicolaiciuc D, Lupulescu E, Uzicanin A, et al.A large rubella outbreak, Romania-2003.Euro Surveill. 2004;9(4):pii=457.Available from:http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=457
  7. 7.National Centre for Communicable Diseases Surveillance and Control(CNSCBT).Annual report on communicable diseases2010. CNSCBT.Accessed15 Dec 2011. Romanian.Available from:http://www.insp.gov.ro/cnscbt/index.php?option=com_docman&Itemid=11
  8. 8.National Centre for Communicable Diseases Surveillance and Control(CNSCBT).Annual report on communicable diseases2009. CNSCBT. [Accessed 15 Dec 2011]. Romanian.Available from:http://www.insp.gov.ro/cnscbt/index.php?option=com_docman&Itemid=11
  9. 9.Centers for Disease Control and Surveillance(CDC).VPD Surveillance Manual,4th Edition,2008. Rubella: Chapter 14. Atlanta: CDC. [Accessed 15 Dec 2011].Available from:http://www.cdc.gov/vaccines/pubs/surv-manual/chpt14-rubella.pdf[PDF形式:440KB]
  10. 10.Heymann DL(ed.).Control of Communicable Diseases Manual. 19th Edition.American Public Health Association:Washington,2008.

出典

Eurosurveillance Vol17, Issue7, 16 Feb. 2012
Ongoing rubella outbreak among adolescents in Salaj, Romania, September2011–January 2012」
http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=20089