イタリアのアカイエカから日本脳炎ウイルスのRNAが検出されました

2012年7月12日Eurosurveillance原文〔英語〕へのリンク

概要

フラビウイルスのRNAをスクリーニングするために、イタリア北部で蚊を採集しました。アンプリコン(PCR産物)が検出された検体はシークエンス解析され、ほとんどが昆虫フラビウイルスやウスツウイルスに最も近縁だと明らかになりましたが、驚くべきことに、日本脳炎ウイルスに近縁のものもありました。アカイエカから得られたシークエンス(167bp)は中国のコウモリで検出された日本脳炎ウイルス株と同一株であることがわかりました。しかし、残念なことに、この研究では、さらに詳しいシークエンス・データは得られず、ウイルス分離もできませんでした。この報告の著者は、イタリアと他のヨーロッパの国々に日本脳炎ウイルスが伝来している可能性があり、その確認が至急必要と指摘しています。

はじめに

イタリアの蚊におけるフラビウイルスの存在をスクリーニングする小規模な予備研究の中で、3種類のフラビウイルスが検出されました。昆虫フラビウイルス、ウスツウイルス、そして驚くべきことに日本脳炎ウイルスが検出されました。昆虫フラビウイルスとウスツウイルスの検出は、イタリアと他のヨーロッパの数か国で以前に報告されていますが、この報告の著者が知る限り、これまで、ヨーロッパで日本脳炎ウイルスの検出が報告されたことはありません。日本脳炎ウイルスは蚊によって媒介されるウイルスであり、アジアに広く分布しています。アジアの西部では、インドとパキスタンにまで分布しており、脳炎の主な原因となっています。日本脳炎ウイルスに対する不活化ワクチンが販売されており、使用できますが、世界中で年間に3万人から5万人の患者が発生していると推計されています。感染しても大部分は無症状ですが、発症した患者のうち、死亡するのは30%にまで達します。また生存した患者でも30%は神経学的後遺症が残ります。日本脳炎の生活環は、アカイエカや水鳥、豚の間で維持されていますが、他の多くの脊椎動物にも感染します。人や馬には脳炎を起こします。人と馬は終末宿主であると考えられています。

検体採取

ウエストナイルウイルスとウスツウイルスの活発な伝播、イタリアと他のヨーロッパにおける最近の新たな昆虫フラビウイルスの検出、フランス南部とクロアチアにおけるデングウイルスの検出に続き、この研究の目的は、すべてのフラビウイルスの検出が可能なシステムを使用して、蚊でフラビウイルスのRNAのスクリーニングを行うことでした。2010年と2011年の夏の後半に、エミリア・ロマーニャ州のモデナとボローニャに近い農村部で、二酸化炭素を発生させるトラップを用いて、雌の蚊が採集されました。

蚊の種類は形態学的な特徴をもとに同定され、種(亜種の特定は行われませんでした)、採集日、採集場所によって分けられ、解析されるまで-80℃で保管されました。採集された蚊のほとんどはアカイエカでしたが、ヒトスジシマカ、アエデス・カスピウス(Aedes caspius)、キンイロヤブカも採集されました。2010年に採集された52群(すべてアカイエカの群)と2011年に採集された10群(アカイエカは5群)の62群が調べられました。

分子解析

62群のうち、5群でフラビウイルスのRNAが陽性になりました。シークエンス解析によって、2011年に採集されたヒトスジシマカから昆虫フラビウイルス、2010年と2011年に採集されたアカイエカからウスツウイルス、2010年に採集されたアカイエカから日本脳炎ウイルスが同定されました。昆虫フラビウイルスとウスツウイルスのシークエンスは、以前にイタリア国内で報告されたものと同じものでした。日本脳炎ウイルスのシークエンスはサッソ・マルコーニで採集された蚊から得られたもので、ジーンバンクに登録されている4つのシークエンスに100%一致していました。4つのシークエンスは、いずれも遺伝子型は3型で、1986年から2009年の間に中国のコウモリから分離されたものでした。

日本脳炎ウイルスに関連したNS5シークエンスのPCR産物はもとの試料から2回増幅され、3か所の研究所でシークエンス解析が行われました。ウイルス株とシークエンス解析を詳細に調べるためには、更なるデータが必要でしたが、残念なことに、E、NS5、NS3領域をターゲットにしたプライマーを用いた増幅とセミネスティッド(semi-nested)法を行いましたが陰性でした。日本脳炎ウイルスとウスツウイルスが陽性になった群から、ベロ細胞とC6/36昆虫細胞でウイルス分離を試みましたが、成功しませんでした。

考察

これまで、ヨーロッパに日本脳炎ウイルスが広がる潜在的なリスクが認識されており、ウエストナイルウイルスやウスツウイルスなどのフラビウイルスに対して積極的なサーベイランスが行われてきましたが、この報告の著者が知る限り、これは、ヨーロッパの蚊で日本脳炎ウイルス様のシークエンスに関する最初の報告です。日本脳炎ウイルス様のシークエンスは、小規模の予備的な研究で検出され、残念なことに、蚊の亜種の識別とともに実地調査の詳細の一部は詳しく示すことができませんでした。検査が行われた研究所では、それまでに、日本脳炎ウイルスとそのRNA、PCR産物を扱ったことがないため、日本脳炎ウイルスのシークエンスが研究所での汚染によるものということは、まずないと考えられます。興味深いことに、マニらが1996年から1997年にイタリアの鳥で日本脳炎ウイルスの抗体とRNAを検出したことを報告していますが、残念なことに、現在、その研究で得られたシークエンスに関するそれ以上の情報はありません。

最近、フランスとクリアチアでデングウイルスの国内感染が発見されました。デングウイルスは、大抵、流行地からの輸入例ですが、ウイルス血症の渡航者や、感染した蚊、卵、幼虫が入ったものから感染することもありそうです。日本脳炎ウイルスは、水鳥によって持ち込まれる可能性もあります。アルボウイルスのサーベイランスは、将来的には、日本脳炎ウイルスに特異的な検出方法か、フラビウイルスを広く検出できる方法を含めるべきです。また、交差反応性があるので、血清中和法以外の血清検査では、おそらくウエストナイルウイルスやウスツウイルスに対する免疫応答と日本脳炎ウイルスに対する免疫応答を区別することはできません。

結論

イタリアのアカイエカで、初めて、日本脳炎ウイルスの部分的なゲノムシークエンスが検出されました。しかし、さらに詳しいシークエンス・データは得られず、ウイルス分離も成功しませんでした。この報告の著者はこの結果が予備調査のものであり、結果の確定が必要であると認識しています。イタリアと他のヨーロッパの国々で日本脳炎ウイルスの伝播を防止する手段を講じる必要性があるかどうかを評価するために、日本脳炎の伝播について、更なる根拠が必要です。

出典

Eurosurveillance, Volume17, Issue 28, 12 July 2012
Japanese encephalitis virus RNA detected in Culex pipiens mosquitoes in Italy

http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=20221