世界におけるインフルエンザ流行状況(25)

2012年8月17日:WHO(原文〔英語〕へのリンク

要約

  • 北半球の温帯地域のほとんどの国では、毎週のインフルエンザのデータ報告をやめているか、シーズンオフのサーベイランススケジュールに移りました。米国では、人のインフルエンザA(H3N2)vの感染例が検出され続けています。ほとんどの患者は豚との接触歴があり、人から人への持続的な感染は確認されていません。
  • 熱帯地域では、アメリカ大陸のブラジル、キューバ、エルサルバドル、ホンジュラス、パナマ(インフルエンザA(H1N1)pdm09とインフルエンザB型)、サハラ以南のアフリカ大陸のガーナ、マダガスカル(インフルエンザA(H3N2)とインフルエンザB型)、アジアのバングラデシュ、中国南部、インド、シンガポール、スリランカ、ベトナム(インフルエンザA(H3N2)またはインフルエンザB型)で著しいインフルエンザの活動性が報告されています。
  • ニュージーランドでは、いくつかの指標で、インフルエンザの活動性の増加が続いていますが、南半球のほとんどの国ではインフルエンザの活動性が減少しています。オーストラリア、チリ、パラグアイ、南アフリカは、インフルエンザの指標が減少し続けています。アルゼンチンは今年、非常に少ない検出数が続いています。
  • 南半球の温帯地域のチリ、南アフリカ、オーストラリアで、最近数週間に検出された主な亜型はインフルエンザA(H3N2)でした。パラグアイ、ブラジル南部とボリビアの国境に近い地域では、主にインフルエンザA(H1N1)pdm09が検出されています。しかし、エクアドル、エルサルバドル、パナマ、ペルーで検出されている亜型は、ほとんどがインフルエンザB型です。

北半球の温帯地域

北半球の温帯地域でのインフルエンザの伝播を報告しているすべての国で、インフルエンザの伝播は、ほぼシーズンオフの水準です。

米国の変異型インフルエンザA(H3N2)vの集団発生について、8月10日時点で確定患者数は154人に増加しました。患者は、主に、オハイオ州とインディアナ州の初発患者の継続調査の結果、判明しました。ハワイ州とイリノイ州からも、それぞれ1例が報告されています。ほとんどの患者が小児で、農業フェアで豚との直接的または間接的な接触があり、2012年に報告された患者では、人から人への感染は確認されていません。臨床症状は、季節性インフルエンザと同様で、すべての患者が回復しています。患者と接触者の調査は継続されています。さらに詳しい情報は、CDCのホームページに掲載されています。

熱帯地域

アメリカ大陸の熱帯地域

中米、カリブ海諸国では、インフルエンザの伝播が活発であると報告されており、検出されているのは、ほとんどがインフルエンザB型です。南米の熱帯地域で検出されているのは、ほとんどが、インフルエンザA(H1N1)pdm09です。

中米では、インフルエンザA(H1N1)pdm09が優勢です。エルサルバドルでは、過去4週間、インフルエンザB型が優勢となっていると報告されています。中米の他の国では、ホンジュラスで、低い水準ですが、インフルエンザA(H1N1)pdm09の検出が続いています。ニカラグアでは、インフルエンザB型が低い水準で検出されています。コスタリカでは、インフルエンザB型とインフルエンザA(H3N2)が、ともに低い水準で検出されています。パナマでは、6月上旬以降、インフルエンザA(H1N1)pdm09が優勢でしたが、7月に入り、インフルエンザB型が著明に増加したと報告されています。

カリブ海諸国では、6月以降、キューバで、主にインフルエンザB型が検出されていますが、7月下旬に入り、検出数は減少しています。ジャマイカでは、インフルエンザA型とB型が少数報告されており、重症急性呼吸器感染症(SARI)の患者は最も低い割合となりました。

南米の熱帯地域では、最近のインフルエンザの伝播は、主に、ブラジル、エクアドル、ボリビアで報告されており、ペルーでは、低い伝播が続いています。

ブラジルでは、過去数週間、インフルエンザの活動性が減少していると報告されています。インフルエンザの活動性が高いのは、主に南部と東南部です。7月中旬以降、SARIの患者数やインフルエンザに関連した死亡者数、インフルエンザウイルスの検出数は減少しており、ピークに達したことを示しています。ブラジルは、今年、SARI患者の22%(13,605人中2,996人)からインフルエンザが検出されたと報告しており、そのうちの74%(2,191人)はインフルエンザA(H1N1)pdm09ウイルスでした。また、SARIで死亡した患者の30%(1,063人中320人)でインフルエンザが検出されており、そのうちの85%(320人中273人)がインフルエンザA(H1N1)pdm09ウイルスでした。インフルエンザB型は、主に15歳から59歳の年齢層で報告されており、他の年齢層ではほとんどありませんでした。

エクアドルでは、過去2週間、インフルエンザB型の検出数が減少しており、6月以降、初めての持続した減少であると報告されています。インフルエンザウイルスの検出数の減少に伴い、SARIの全指標は、先週に比べて同様であるか、減少しています。

ボリビアでは、ラパスの検査データによれば、ウイルスの検出数は、6月にピークに達した後、減少しており、最近2週間では、ウイルスの検出は非常に少数であると報告されています。SARIの指標も7月上旬以降、減少が続いています。今季は、インフルエンザA(H1N1)pdm09が最も多く検出されており、特定されたウイルスの90%以上を占めます。

ペルーでは、5月上旬以降、非常に少数ですが、インフルエンザA(H1N1)pdm09とB型の検出が続いています。呼吸器疾患を起こすウイルスが検出された検体のうち、69%(13検体中9検体)をインフルエンザB型が占めました。

サハラ以南のアフリカ

アフリカ西部では、ガーナで、6月上旬以降、インフルエンザA(H3N2)とインフルエンザB型の伝播が報告されており、過去4週間では、インフルエンザB型が優勢です。マダガスカルでは、以前、高い水準でインフルエンザA(H3N2)の伝播を報告しましたが、減少し続けています。

アジアの熱帯地域

アジアの熱帯地域では数か国で、最近、インフルエンザウイルスの伝播が著明であり、特に、中国南部、シンガポール、ベトナムで著しいです。インドでは、インフルエンザA(H1N1)pdm09とインフルエンザB型がほぼ同じ割合で、少数検出されています。スリランカでも、6月上旬以降、同様の割合で検出されています。対照的に、バングラデシュでは、4月上旬から5月下旬まで、インフルエンザA(H1N1)pdm09が優勢で、インフルエンザB型は散発的に検出されていただけでしたが、最近は、インフルエンザB型が最も多く検出されています。

中国南部では、定点機関を受診したインフルエンザ様疾患(ILI)の患者の割合は3.2%であり、過去4週間で初めて減少しました。1,061検体が検査され、344検体(32%)がインフルエンザ陽性となっており、過去8週間で初めて減少しました。インフルエンザが陽性になった検体のうち、342検体(99%)がインフルエンザAであり、すべてインフルエンザA(H3N2)でした。

香港では、以前にインフルエンザの活動性が高い水準であると報告されましたが、最近数週間は減少し続けています。インフルエンザによる入院患者数、インフルエンザに関連した死亡者数、救急外来を受診したILI患者数、インフルエンザの集団感染事例数は、すべて減少し、低い水準です。7月29日から8月4日までの間に採取されたILI患者の検体でインフルエンザが陽性となった検体のうち、インフルエンザA(H3N2)が89%(85検体中76検体)を占めており、インフルエンザB型とインフルエンザA(H1N1)pdm09は同数でした。例年に比べて長いインフルエンザシーズンは終わり、入院患者数と死亡者数の水準は、過去2年間に比べて、著しく高い結果となり、主にインフルエンザA(H3N2)ウイルスに関連していました。

東南アジアでは、ベトナムで、インフルエンザA(H3N2)の伝播が6月下旬にピークに達した後、減少しています。カンボジアとラオスは、ともに、ベトナムと同時期にピークを迎えた後、インフルエンザA(H3N2)の伝播は低い水準であると報告しています。

シンガポールでは、8月5日から11日の週に、急性呼吸器感染症(ARI)の活動性が過去2週に比べて減少しましたが、警戒水準を超えています。総合病院のARI患者のうち、ILI患者の占める割合は1%と低いものの、7月に採取された132検体のうち30%がインフルエンザ陽性でした。

南半球の温帯地域

南半球の温帯地域では、ほとんどの国でインフルエンザの活動性が続いていると報告されています。

南米の温帯地域

南米の南回帰線以南の地域のインフルエンザの活動性は、チリとパラグアイではピークに達し、減少していますが、アルゼンチンでは依然として、ウイルス検出数は少数であると報告されています。チリでは、3週連続でILIの活動性が減少したと報告しており、ILI患者の受診率は人口10万人あたり10.8でした。呼吸器疾患で救急外来を受診した患者の割合も減少しました。チリで検出されたインフルエンザウイルスは、ほとんどがインフルエンザA(H3N2)でした。チリでは、RSウイルスも著しく増加しており、ILI患者とSARI患者の大部分を占めています。呼吸器感染症を起こすウイルスが検出された検体のうち、10%がインフルエンザA型でした。インフルエンザと確定されたSARI患者は4週連続で減少し続けています。2012年にインフルエンザと確定された221人のSARI患者のうち、95%(209人)はインフルエンザA型であり、5%(12人)がインフルエンザB型でした。また、亜型が解析された149検体のうち、97%(145検体)はインフルエンザA(H3N2)で、3%(4検体)がインフルエンザA(H1N1)pdm09でした。インフルエンザA(H3N2)と確定されたSARI患者の15%が集中治療室に入院する必要がありました。インフルエンザA(H3N2)と確定されたSARI患者は、60歳以上(42%)と5歳未満(39%)が多くを占めていました。2012年に発生したSARI患者60人のうち、5人がインフルエンザA(H3N2)、1人がA型(亜型不明)、1人がB型と確定されています。

アルゼンチンのインフルエンザの検出数は、依然として少数です。ILI患者とSARI患者数は高い水準にありますが、RSウイルスの検出が6月上旬以降、減少傾向にあることに伴って、ピークに達したようです。2012年、全国で検出されたインフルエンザウイルスは少数ですが、56%(142検体中80検体)がインフルエンザA型で、44%(142検体中62検体)がインフルエンザB型でした。

パラグアイでは、7月下旬以降、インフルエンザの検出数は減少傾向にありますが、ILI患者の受診率は著明に増加しており、RSウイルスに関連しているようです。過去4週間、SARIの入院患者の割合とSARI患者の死亡率は、ほとんど変わらず、呼吸器感染症を起こすウイルスが特定されたもののうち、RSウイルスが最も多く検出されています。先週の集中治療を必要としたSARI患者の割合は、2012年のうちで最も高くなりました。2012年に呼吸器感染症を起こすウイルスが確認されたSARIによる死亡者(20人)のうち、13人(65%)からインフルエンザA(H1N1)pdm09が検出されました。

南アフリカの温帯地域

南アフリカでは、インフルエンザA(H3N2)とインフルエンザB型がともに流行しています。全体として、インフルエンザの検出数は、7月第1週以降減少しています。インフルエンザが陽性になったSARI患者の検体のうち、多くはインフルエンザA(H3N2)ウイルスでした。

オセアニア、メラネシア、ポリネシア

オーストラリアでは、最近の報告週(2012年7月21日から8月3日)に、インフルエンザの指標のほとんどが減少しました。ニュージーランドでは、まだILI患者の受診が増加しています。

オーストラリアでは、ほとんどすべての地域で、流行閾値を超えたインフルエンザ活動性が報告されています。しかし、ほとんどのサーベイランスシステムで、前週に比べて活動性が減少したと報告されています。例年と比べると(2009年を除く)、ILI患者の受診率は早期に増加し、現在の受診率は、2010年と2011年の季節性インフルエンザのピーク時よりも高くなっています。2012年8月3日までの週には、定点となっている一般開業医へのILI患者の受診率は1000受診者あたり18.6であり、ピークであった前週の1000受診者あたり22.1に比べて減少しました。全国では、過去2週間にインフルエンザと確定されたのは6,095人であり、わずかに減少しました。確定患者の45%は増加傾向が続いているクイーンズランド州から報告されています。他の地域の報告数は変わらないか、減少しています。

インフルエンザによる入院患者数もピークに達したようです。入院患者の17%はインフルエンザB型ウイルスに感染していましたが、その半数はノーザンテリトリーからの報告であり、他の地域では、インフルエンザA型が多く検出されています。入院患者の76%に合併症がありました。入院患者の年齢分布は、0歳から9歳と、70歳以上にピークがある、二峰性を示していると報告されています。

2012年7月1日から8月6日までの間にインフルエンザの重篤な合併症で入院した小児は13人で、そのうち5人が集中治療室に入院しました。この入院患者の半数はインフルエンザA型(亜型不明)に感染しており、残りの半数はインフルエンザB型に感染していました。また、この入院患者の半数には基礎疾患がありました。

2012年は、これまで、NNDSS(国の届出疾患サーベイランスシステム)により、インフルエンザに関連した死亡は23人報告されており、年齢の中央値は74歳でした。いずれの患者もインフルエンザA型(亜型不明)に感染していたと報告されており、おそらく、A(H3N2)によるものと考えられています。

国全体では、インフルエンザA(H3N2)が優勢で、インフルエンザB型も流行しています。しかし、型や亜型の分布は、地域によって異なります。ほとんどの地域では、インフルエンザA(H3N2)が優勢ですが、西オーストラリア州ではインフルエンザB型が3分の1を占め、ノーザンテリトリーでは、インフルエンザB型が20%を占めています。このインフルエンザB型の占める割合は着実に減少しています。この報告期間にNNDSSに報告された6,095人のインフルエンザ患者のうち、5,225人がインフルエンザA型(亜型不明のインフルエンザA型が4,139人、インフルエンザA(H3N2)が 1,062人、インフルエンザA(H1N1)pdm09が24人)で、866人がインフルエンザB型で、4人がインフルエンザA型とB型の重複感染または型別不明と報告されました。

ニュージーランドでは、ILI患者の受診率は、4週間連続で流行閾値を超えており、1週間の受診率は、人口10万人あたり154.1でした。ILI患者の受診率は増加していますが、インフルエンザが陽性になる検体の割合は減少しています。

国全体で、ILI患者の検体が566検体集められ、そのうち42%(238検体)でインフルエンザウイルスが陽性でした。そのうち、インフルエンザA(H3N2)が61%(144検体)、インフルエンザA型で亜型不明が26%(61検体)、インフルエンザA(H1N1)pdm09が8%(19検体)、インフルエンザB型が6%(14検体)でした。

SARIの患者数と人口10万人あたりのSARI患者の発生率はわずかに減少しました。2012年7月22日から29日までの間にSHIVERS(南半球のインフルエンザとワクチンの効果の研究、サーベイランスの計画)によって検査されたSARI患者の57検体のうち、27検体(47%)がインフルエンザウイルス陽性で、そのうちインフルエンザA型で亜型不明が37%(10検体)、インフルエンザA(H3N2)が26%(7検体)、インフルエンザB型が26%(7検体)、インフルエンザA(H1N1)pdm09が11%(3検体)でした。

出典

Influenza update 17 August 2012- Update number 166
http://www.who.int/influenza/surveillance_monitoring/updates/latest_update_GIP_surveillance/en/index.html