世界におけるインフルエンザ流行状況(27)

2012年9月14日 WHO (原文〔英語〕へのリンク

要約

  • 北半球の温帯地域のほとんどの国では、シーズンオフのサーベイランススケジュールに移行したか、季節性の報告を始めていません。しかし、利用できるデータからは、北半球の温帯地域では季節性のインフルエンザの伝播は、まだ、探知されていません。
  • 米国では、引き続き、人のインフルエンザA(H3N2)vの新規感染者が報告されており、また、インフルエンザA(H1N2)vの感染者3人が報告されました。感染者の周囲の調査によれば、持続的な人‐人感染が起きている証拠はありません。
  • 熱帯地域のほとんどの国では、インフルエンザの検出は低いか減少傾向にあると報告されています。アメリカ大陸では、ニカラグアは例外で、主にインフルエンザB型が検出されています。また、アジアでは、インドとタイは例外で、両国ともインフルエンザA(H1N1)pdm09とインフルエンザB型の流行が報告されています。
  • 南半球の温帯地域のほとんどの国ではインフルエンザの活動性が減少しています。オーストラリア、チリ、ニュージーランド、パラグアイ、南アフリカでは、インフルエンザの指標が減少し続けています。アルゼンチンは、今年、例年に比べて非常に少ない検出数が続いています。

北半球の温帯地域

北半球の温帯地域でのインフルエンザの伝播を報告しているすべての国で、インフルエンザの伝播は最小で、シーズンオフの水準です。

米国では、豚由来のインフルエンザA(H3N2)vウイルスに感染した確定患者が報告され続けています。新たな患者は、主に、農業フェアや、報告された患者の周囲での積極的な患者発見の結果、発見されました。16人が入院し、インフルエンザA(H3N2)vに関連した基礎疾患を有していた死亡者が1人報告されました。患者の大部分は、豚との接触に関連していますが、数人は、限られた人-人感染で感染したことが確認されています。サーベイランスが強化されていますが、持続的な人-人感染は確認されていません。インフルエンザA(H3N2)vのサーベイランスを強化した結果、ミネソタ州で、豚に接触した後、体調を崩したインフルエンザA(H1N2)vの感染者が3人報告されました。患者のうち、1人は入院しましたが、いずれの患者も回復しています。さらに詳しい情報は、CDCのホームページに掲載されています。

オランダでは、スペインから帰国した2人の渡航者から、オセルタミビルに高度の耐性を持つ、変異をしたインフルエンザA(H1N1)pdm09ウイルスが検出されました。さらに詳しい情報はユーロサーベイランス欧州疾病予防管理センターのホームページに掲載されています。

熱帯地域

アメリカ大陸の熱帯地域

中米、カリブ海諸国、南米の熱帯地域のインフルエンザの活動性を報告している国では、引き続き、インフルエンザの伝播が非常に低い水準にあると報告されています。

中米では、主に、インフルエンザB型ウイルスが検出されています。コスタリカとエルサルバドルでは、インフルエンザB型ウイルスが低い水準で検出され続けていますが、ホンジュラスでは、インフルエンザA(H1N1)pdm09が低い水準で検出されていると報告されています。パナマでは、8月中旬以降、インフルエンザB型の検出が持続的に減少していると報告されており、インフルエンザのシーズンが終わったことを示しています。一方、ニカラグアでは、過去2週間で、インフルエンザB型ウイルスとインフルエンザA(H3N2)ウイルスの検出が著しく増加したと報告されました。

カリブ海諸国では、キューバで、依然としてインフルエンザB型ウイルスの活動性が持続していると報告されています。

南米の熱帯地域では、最近のインフルエンザの伝播は、主に、ブラジルとペルーで、報告されています。

ブラジルでは、インフルエンザの活動性は、減少し続けていると報告されています。今年、重症急性呼吸器感染症(SARI)の患者の22%(16,373人中3,541人)からインフルエンザウイルスが検出され、そのうちの69%(3,541人中2,459人)はインフルエンザA(H1N1)pdm09でした。また、SARIで死亡した患者は1,349人と報告されていますが、そのうちの378人(28%)でインフルエンザが検出されました。インフルエンザが検出されたSARIで死亡した患者のうち、316人(84%)がインフルエンザA(H1N1)pdm09でした。SARIで死亡した患者の51%(1,349人中638人)は、男性で、年齢の中央値は46歳(年齢幅は0歳から99歳)でした。また、SARIで死亡した患者の60%で、少なくとも1つ以上の合併症が記録されていました。

ペルーでは、ブラジルとは対照的に、最近数週間、主にインフルエンザB型が検出されていますが、低い水準であり、減少していると報告されています。

サハラ以南のアフリカ

インフルエンザのデータを報告しているサハラ以南のアフリカの国では、ケニアとザンビアで、最近、インフルエンザA(H3N2)とインフルエンザB型が低い水準で流行していると報告されています。ガーナでは、著明なインフルエンザの流行を報告しており、主にインフルエンザB型が流行しています。マダガスカルでは、6月中旬にインフルエンザA(H3N2)の伝播のピークに達した後、減少し続けています。

アジアの熱帯地域

アジアの熱帯地域では数か国で、最近、インフルエンザウイルスの流行が著しく、特に、タイで著しい流行がみられています。

タイでは、主にインフルエンザA(H1N1)pdm09とインフルエンザB型が流行しており、インフルエンザA(H3N2)も少数報告されています。ベトナムでのウイルス伝播は、過去2か月間にピークに達した後、減少しており、インフルエンザB型とインフルエンザA(H3N2)が検出されていると報告されています。

インド、スリランカ、では、依然として、インフルエンザA(H1N1)pdm09とインフルエンザB型がほぼ同じ割合で、検出され続けています。バングラデシュでは、主に、インフルエンザB型の活動性が続いていると報告されています。フィリピンでは、過去数か月間でインフルエンザA型とA(H3N2)の伝播のピークに達した後、インフルエンザA型の活動性がいくらかあると報告されています。

中国南部のインフルエンザの活動性は低い水準が続いています。定点機関を受診したインフルエンザ様疾患(ILI)の外来患者の割合は、最近の報告週で2.7%であり、前週と同様でした。検査されたILI患者の検体のうち、19.3%(976検体中188検体)がインフルエンザ陽性でした。そのうちの91.2%(188検体中165検体)がインフルエンザA(H3N2)でした。

シンガポールでは、急性呼吸器感染症(ARI)の活動性は減少し、過去4週間は警戒水準を下回っています。過去4週間に地域で検査されたILI患者の検体(95検体)で、インフルエンザが陽性になる頻度は、全体として37.9%でした。8月に検査された検体のうち、インフルエンザA(H3N2)が43%、インフルエンザA(H1N1)pdm09が31%、インフルエンザB型が26%を占めました。アジアの熱帯地域では数か国で、最近、インフルエンザウイルスの流行が著しく、特に、中国南部、ベトナムで著しい流行がみられています。

南半球の温帯地域

南半球の温帯地域では、すべての国でインフルエンザの活動性が減少し続けています。

南米の温帯地域

南米の南回帰線以南の地域のインフルエンザの活動性は、ピークに達したようであり、アルゼンチン、チリ、パラグアイ、ウルグアイで減少しています。

チリでは、ILI患者の受診率は人口10万人あたり7.2であり、前週(10万人あたり11.7)に比べて若干減少しており、6月下旬にピークに達した後、減少傾向が続いています。最近の報告週では、インフルエンザが陽性となった検体のうち、インフルエンザA(H3N2)が60%(70検体中42検体)、インフルエンザB型が26%(70検体中18検体)、亜型不明のインフルエンザA型が14%(70検体中10検体)でした。同時期に検査されたSARI患者の検体で、インフルエンザが陽性になった16検体のうち、インフルエンザA(H3N2)は88%(14検体)で、インフルエンザB型は12%(2検体)でした。この結果は、SARI患者におけるインフルエンザウイルスの検出数は、8月上旬にピークに達した後、減少していることを示しています。今年の初めから、インフルエンザA(H3N2)は、主に60歳以上の高齢者と2歳未満の小児で発生しており、すべてのインフルエンザA(H3N2)患者のうち、37%が60歳以上の高齢者で、24%が2歳未満の小児でした。今年報告されたSARIによる死亡92人のうち、呼吸器感染症を起こすウイルスが確定されたのは14人で、そのうち64%(9人)がインフルエンザA(H3N2)でした。

アルゼンチンでは、依然として、インフルエンザウイルスの検出数は非常に少数であると報告されています。インフルエンザA(H1N1)pdm09とインフルエンザB型がともに検出されています。ILI患者とSARI患者数は、6月第1週以降、減少傾向が続いており、RSウイルスの検出数の減少に一致しています。

パラグアイでは、インフルエンザの検出数は7月中旬にピークに達した後、ほとんど検出されない水準に減少しました。SARIによる入院率も、8月上旬以降、減少し続けており、RSウイルス検出数の減少に一致しています。今年、呼吸器感染症を起こすウイルスが確認されたSARIによる死亡者(30人)のうち、18人(60%)がインフルエンザA(H1N1)pdm09と確定されました。

ウルグアイでは、7月上旬にインフルエンザA(H3N2)とインフルエンザB型がともに流行した後、ウイルスの検出は、ほとんど検出されない水準に減少しました。

南アフリカの温帯地域

南アフリカでは、インフルエンザウイルスの検出数は、7月下旬に明らかなピークがみられた後、過去2週間、減少しています。インフルエンザA(H3N2)とインフルエンザB型がともに流行した状態が続いており、ほぼ同じ割合で検出されています。インフルエンザが陽性になったSARI患者の検体のうち、多くはインフルエンザA(H3N2)ウイルスでした。

オセアニア、メラネシア、ポリネシア

オーストラリアでは、最近の報告週で、インフルエンザの指標のほとんどが減少し続けていると報告されています。ニュージーランドでは、ILI患者の受診が減少しており、7月下旬以降、初めて人口10万人あたり50人という流行閾値を下回ったと報告されています。

オーストラリアでは、8月26日から9月1日の報告週に、ILI患者の検体が936検体集められ、そのうち24%(220検体)でインフルエンザウイルスが陽性であり、前週(32%)に比べて減少しました。亜型が解析されたインフルエンザのうち、59%(129検体)がインフルエンザA(H3N2)で、40%(87検体)がインフルエンザB型、1%(3検体)がインフルエンザA(H1N1)pdm09でした。

オーストラリアでは、ほとんどすべての地域で、前週に比べてインフルエンザの活動性が減少していると報告されており、過去4週間、減少が続いています。全国では、9月1日から9月8日の間にインフルエンザと確定されたのは684人でした。確定患者の74%はクイーンズランド州から報告されています。クイーンズランド州では、インフルエンザの活動性が6月上旬以降、初めて減少したと報告されています。全国で、最近の報告週は、インフルエンザの活動性が減少傾向であると報告されています。

国全体では、インフルエンザA(H3N2)が優勢で、インフルエンザB型も流行しています。しかし、型や亜型の分布は、地域によって異なります。ほとんどの地域では、インフルエンザA(H3N2)が優勢ですが、西オーストラリア州ではインフルエンザB型が約半数を占めています。

ニュージーランドでは、ILI患者の受診率は減少し続けており、現在は、流行閾値を下回っています。1週間のILI受診率は、人口10万人あたり36.7と報告されています。

国全体で、ILI患者の検体が391検体集められ、そのうち29%(113検体)でインフルエンザウイルスが陽性でした。そのうち、インフルエンザA(H3N2)が62%(70検体)、インフルエンザA型で亜型不明が21%(24検体)、インフルエンザB型が13%(15検体)、インフルエンザA(H1N1)pdm09が4%(4検体)でした。

ニュージーランドでは、SARIの患者数と人口10万人あたりのSARI患者の発生率は減少しています。今年8月27日から9月2日までの間にSHIVERS(南半球のインフルエンザとワクチンの効果の研究、サーベイランスの計画)によって検査されたSARI患者の55検体のうち、13検体(24%)がインフルエンザウイルス陽性で、そのうちインフルエンザA型で亜型不明が15%(2検体)、インフルエンザA(H3N2)が54%(7検体)、インフルエンザB型が31%(4検体)でした。今年4月30日以降に採取されたSARI患者の1,410検体のうち、22%(311検体)がインフルエンザ陽性でした。

出典

Influenza update14September2012- Update number 168

http://www.who.int/influenza/surveillance_monitoring/updates/latest_update_GIP
_surveillance/en/index.html