世界におけるインフルエンザ流行状況(28)

2012年9月28日 WHO(原文〔英語〕へのリンク

要約

  • 北半球の温帯地域では季節性のインフルエンザの伝播は、まだ、探知されていません。
  • 熱帯地域のほとんどの国では、インフルエンザの検出は低いか減少傾向にあると報告されています。例外は、アメリカ大陸のニカラグア、アジアのインドとタイです。
  • 南半球の温帯地域のほとんどの国ではインフルエンザの活動性が減少しています。オーストラリア、チリ、ニュージーランド、パラグアイ、南アフリカでは、インフルエンザの指標が減少し続けています。一方、アルゼンチンでは、少し遅れて、インフルエンザの活動性が報告されています。
  • WHOは、2012年9月の技術的協議の後、南半球で2013年のインフルエンザシーズンに使用するインフルエンザワクチンの株を推奨しました。詳しい情報は、WHOのホームページ[PDF形式:171KB]に掲載されています。

北半球の温帯地域

北半球の温帯地域でインフルエンザの伝播を報告しているすべての国で、インフルエンザの伝播は最小で、シーズンオフの水準です。

米国では、最近の更新情報で、豚由来のインフルエンザA(H3N2)vウイルスに感染した確定患者が新たに数名報告されましたが、持続的な人-人感染は確認されていません。H3N2vのサーベイランスを強化した結果、豚に接触した後、体調を崩したインフルエンザA(H1N1)vの感染者が1人、インフルエンザA(H1N2)vの感染者が3人報告されました。さらに詳しい情報は、CDCのホームページに掲載されています。

熱帯地域

アメリカ大陸の熱帯地域

中米、カリブ海諸国、南米の熱帯地域でインフルエンザの活動性を報告しているほとんどの国では、引き続き、インフルエンザの伝播が低い水準にあると報告されています。

中米では、主に、インフルエンザB型ウイルスが検出されています。

エルサルバドルでは、インフルエンザB型ウイルスが低い水準で検出され続けていますが、ホンジュラスでは、インフルエンザA(H1N1)pdm09が低い水準で検出されていると報告されています。一方、コスタリカでは、過去2週間、インフルエンザB型とインフルエンザA(H3N2)の活動性を報告しています。ニカラグアでは、過去1か月以上、インフルエンザB型ウイルスとインフルエンザA(H3N2)ウイルスの検出が増加し続けていると報告されました。

カリブ海諸国では、キューバで、インフルエンザB型ウイルスの活動性が減少していると報告されています。

南米の熱帯地域では、インフルエンザの活動性は低いです。ブラジルでは、インフルエンザの活動性は、減少し続けています。今年、すべての呼吸器検体のうち15%(6,821検体中1,029検体)でインフルエンザウイルスが検出されました。インフルエンザ様疾患(ILI)の定点医療機関で確認された呼吸器感染症を起こすウイルスの年齢分布では、インフルエンザA型は、0歳から4歳で10%、5歳から14歳で41.2%、15歳から24歳で50.8%、25歳から59歳で43.3%、60歳以上で36.7%を占めました。

今年、重症急性呼吸器感染症(SARI)の患者の21%(17,318人中3,706人)からインフルエンザウイルスが検出されました。そのうちの68%(3,706人中2,522人)はインフルエンザA(H1N1)pdm09でした。また、今年、SARIで死亡した患者は1,549人と報告されていますが、そのうちの406人(26%)でインフルエンザウイルスが検出され、330人(81%)がインフルエンザA(H1N1)pdm09陽性でした。SARIで死亡した患者の51%(1,549人中789人)は男性で、年齢の中央値は46歳(年齢幅は0歳から99歳)でした。また、SARIで死亡した患者の56%で、少なくとも1つ以上の合併症が記録されていました。

サハラ以南のアフリカ

インフルエンザのデータを報告しているサハラ以南のアフリカの国では、ケニアでインフルエンザB型が低い水準で流行し続けていると報告されています。ガーナでは、過去2週間で、インフルエンザB型の検出が減少していると報告されています。マダガスカルでは、6月中旬にインフルエンザA(H3N2)の優勢な伝播がみられた後、現在では、インフルエンザB型が低い水準で報告されています。

アジアの熱帯地域

アジアの熱帯地域では数か国で、最近、インフルエンザウイルスの流行が著しく、特に、タイとインドで著しい流行がみられています。

ネパールでは、最近、インフルエンザA(H1N1)とインフルエンザB型の感染による、インフルエンザの集団発生が数例発生しました。

インドでは、インフルエンザA(H1N1)pdm09とインフルエンザB型の報告が続いています。タイでは、主にインフルエンザA(H1N1)pdm09とインフルエンザB型が流行しており、インフルエンザA(H3N2)も少数報告されています。スリランカでは、インフルエンザA型とインフルエンザB型ウイルスの報告が続いています。

中国南部のインフルエンザの活動性は減少し続けています。定点機関を受診したILIの外来患者の割合は、最近の報告週で2.6%でした。検査されたILI患者の検体のうち、11.9%(1,004検体中119検体)がインフルエンザ陽性で、中国南部で亜型解析されたインフルエンザウイルスのうちの86%(119検体中102検体)がインフルエンザA(H3N2)でした。

カンボジアとベトナムのインフルエンザの活動性は低いようです。

南半球の温帯地域

南半球の温帯地域では、すべての国でインフルエンザの活動性が減少し続けています。

南米の温帯地域

南米の南回帰線以南の地域のインフルエンザの活動性は、チリ、パラグアイ、ウルグアイで減少し続けています。現在まで、インフルエンザシーズンは穏やかですが、アルゼンチンは、遅れて、インフルエンザの活動性を報告しており、インフルエンザA(H1N1)pdm09とインフルエンザB型ウイルスの検出が報告されています。ILIとSARIの患者数は、最近の報告週以降、一定の水準に戻りました。

チリでは、穏やかなインフルエンザシーズンであり、ILI患者の受診率は、7月上旬に人口10万人あたり19.4と最大になった後、人口10万人あたり9.4と低い水準が続いています。第37週では、亜型が解析されたインフルエンザのうち、インフルエンザB型が77%(26検体中20検体)、インフルエンザA(H3N2)が23%でした。インフルエンザが陽性になったSARI患者の検体の大部分は、インフルエンザA(H3N2)でした。

今年の初めから、インフルエンザA(H3N2)は、主に60歳以上の高齢者と2歳未満の小児で発生しており、すべてのインフルエンザA(H3N2)患者のうち、37%が60歳以上の高齢者で、25%が2歳未満の小児でした。今年報告されたSARIによる死亡92人のうち、呼吸器感染症を起こすウイルスが確定されたのは14人で、そのうち64%(9人)がインフルエンザA(H3N2)でした。

パラグアイでは、インフルエンザの活動性は、依然として、ほとんど検出されない水準です。SARIによる入院率とILIの受診率は、8月上旬以降、減少し続けています。今年、呼吸器感染症を起こすウイルスが確認されたSARIによる死亡者(31人)のうち、18人(58%)がインフルエンザA(H1N1)pdm09と確定されました。

南アフリカの温帯地域

南アフリカでは、インフルエンザウイルスの検出数は減少し続けていますが、7月下旬にピークに達した後、高い検出数が続いています。インフルエンザA(H3N2)が優勢であったシーズンの後に、主にインフルエンザB型が報告されています。ILIとSARIの患者数も減少しており、インフルエンザが陽性になったSARI患者の検体から検出されるウイルスの大部分はインフルエンザB型です。

オセアニア、メラネシア、ポリネシア

オーストラリアとニュージーランドでは、最近の報告週で、インフルエンザの指標のほとんどが減少し続けており、8月中旬以降、減少傾向が続いていると報告されています。

オーストラリアでは、数か所の地域でインフルエンザの活動性が流行閾値を超えていると報告されていますが、すべてのサーベイランスシステムで、前週に比べて活動性が減少しており、6週間連続でインフルエンザの活動性が減少したと報告されています。全国では、前回の報告から2週間の間にインフルエンザと確定されたのは7,077人のうち5,054人でした。確定患者の58%(2,921人)はクイーンズランド州から報告されています。クイーンズランド州では、初めてインフルエンザウイルス検出数の減少が報告され、最も遅れて検出数が減少した州です。今年は、インフルエンザA(H3N2)が優勢で、インフルエンザ患者の年齢分布は、0歳から4歳の年齢層と70歳以上の高齢者にピークがある二峰性を示し、30歳から44歳の年齢層でも小さいピークがみられます。

インフルエンザによる入院者数は7月中旬にピークに達した後、減少し続けています。入院患者の75%に合併症がありました。今年7月1日から8月31日までに、インフルエンザの重症な合併症のため28人の小児が入院し、そのうち8人が集中治療室に入院しました。この入院患者のうち、60%以上はインフルエンザA型(亜型不明)に関連し、残りはインフルエンザB型によるものでした。また患者の3分の1以上に慢性の基礎疾患がありました。

今年はこれまでに、NNDSS(国の届出疾患サーベイランスシステム)により、インフルエンザに関連した死亡は43人報告されており、年齢の中央値は80歳でした。ほとんどの患者はインフルエンザA型(亜型不明)に感染していたと報告されており、おそらく、インフルエンザA(H3N2)によるものと考えられています。

国全体では、インフルエンザA(H3N2)が優勢で、インフルエンザB型も流行しています。WHOのインフルエンザ研究協力センター(WHO Collaborating Centre for Reference& Research on Influenza)で解析されたインフルエンザA(H3N2)ウイルスのうち、ほとんどのウイルスが、南半球で今年使用されている季節性のインフルエンザワクチンに含まれるインフルエンザA(H3N2)の系統と異なった系統でした。しかし、依然として、ワクチンには著明な予防効果があると考えられます。さらに、2系統のインフルエンザB型が流行していますが、大部分はビクトリア系統であり、ワクチン株と同じ系統です。山形系統のインフルエンザウイルスに対する交差免疫は成人では、ある程度あると考えられますが、小児では成人よりも少ないと考えられます。

ニュージーランドでは、ILI患者の受診率は、3週間連続で流行閾値を下回っています。1週間のILI受診率は、人口10万人あたり34.2と報告されています。SARIの患者数と人口10万人あたりのSARI患者の発生率も7月下旬にピークに達した後、減少し続けています。

出典

Influenza update28September2012- Update number 169
http://www.who.int/influenza/surveillance_monitoring/updates/latest_update_GIP
_surveillance/en/index.html