フランベジア(イチゴ腫)について (ファクトシート)

2012年10月 WHO(原文〔英語〕へのリンク

要点

  • フランベジア(イチゴ腫)は顧みられない熱帯病であり、皮膚、骨、軟骨が侵されます。
  • フランベジアは性感染症の梅毒と同じ属の細菌によって起こりますが、フランベジアは性感染症ではありません。
  • 保有宿主は人のみです。最近、アジスロマイシンの単回投与(経口投与)で疾患が治療可能であることが発見され、フランベジアを完全に根絶できる見通しが立つようになりました。
  • フランベジアは、主に15歳未満の小児が罹患し、少なくても14か国が常在国です。
  • インドは、過去6年間で完全に伝播を絶った唯一の国です。
  • 1952年から1964年にかけて46か国で実施された、注射用ペニシリンを使用した集団治療キャンペーンによって、フランベジアの有病率は95%減少しました(推計で5,000万人から250万人に減少しました)。

フランベジアは、風土性梅毒(ベジェル)やピンタと同様にトレポネーマによって起こる慢性細菌感染症の1種であり、一般に、風土性トレポネーマ症として知られています。フランベジアは、風土性トレポネーマ症の中で最も頻度の高い疾患です。

ドイツ語やオランダ語では、フランベジア(framboesia)と呼ばれますが、英語ではyaws、フランス語ではpianと呼ばれ、皮膚、骨、軟骨が侵されます。

フランベジアは梅毒トレポネーマの亜種(T.Pallidumsubspeciespertenue)によって起こります。この病原体は、性感染症の梅毒と同じ属の細菌です。主に、アフリカ、アジア、ラテンアメリカ、太平洋の温帯湿潤気候や熱帯雨林気候の地域の貧しい地域でみられます。

フランベジアは感染した人の病巣から出る体液への直接接触によって、人から人に感染しますが、性行為では感染しません。大部分の病変は四肢に発生します。フランベジアの初期病巣には、細菌が多量に含まれています。特に一緒に遊び、小さな傷ができる小児の間で、病巣から出る体液に接触することが感染の伝播につながります。潜伏期間は9日から90日(平均21日)です。

感染を受けた人の約75%は15歳未満の小児です(6歳から10歳の小児で最も多く発生しています)。性差はありません。

過密な環境や、個々の衛生状態が不十分な状況では、フランベジアの感染拡大が助長されます。治療しなければ、感染によって慢性的に外見が損なわれ、障害が生じることにつながります。

問題の広がり

現在のフランベジアの正確な有病率は不明です。また、1950年代の注射用ペニシリンを使用した集団治療キャンペーンで、何か国が疾患の伝播を絶ち切ることができたのかも不明です。

1990年以降、多くの国でフランベジアの根絶計画が中止されたため、WHOに対するフランベジアの公式報告も中止しました。数か国のみで、フランベジアが公衆衛生上の課題の一部として残っています。

1995年のWHOによる最後の推計では、風土性トレポネーマ症(大部分はフランベジア)の世界的な有病率は250万人であり、この数には感染していても発症していない46万人が含まれています。

フランベジアの報告は義務ではないので、利用できるデータとしては、最近発行された疫学週報のみがこの疾患の世界的な分布の指標です。

現在、病気の広がりを十分に評価するための調査が進行中です。WHOの6地域で、フランベジアの現状が判明しているのは以下の国です。

  • WHOアフリカ地域:ベナン、カメルーン、中央アフリカ、コンゴ共和国、コートジボワール、
  • コンゴ民主共和国、ガーナ、トーゴ
  • WHO東南アジア地域:インドネシア、東ティモール
  • WHO西太平洋地域:パプアニューギニア、ソロモン諸島、バヌアツ
  • WHO東地中海地域:情報なし
  • WHOアメリカ地域:情報なし
  • WHOヨーロッパ地域:情報なし

症状と所見

フランベジアには、大別して、初期(感染性がある時期)と晩期(感染性のない時期)の2つの病期があります。

  • 初期のフランベジアでは、病原体が侵入した部位で最初の乳頭腫(皮膚にできる円形で固い腫脹で、肉眼で液体はみられない病変)が生じます。この乳頭腫の中には多数の病原体が存在しており、自然治癒するまでに3か月から6か月かかることがあります。治療しなければ、乳頭腫が全身に広がります。また、初期のフランベジアでは、丘疹(大きさが1cm以下の皮膚の固い隆起で、肉眼で液体はみられない病変)と斑(そばかすのように、知覚低下を伴わず、色調の変化がみられる平らな病変)も生じます。初期のフランベジアでは、掌や足の裏が厚くなり、暗色化することが特徴です。初期には、骨の痛みや骨病変も生じることがあります。
  • 晩期のフランベジアは、最初の感染から5年後に症状が出現し、鼻や骨の外見が損なわれ、掌蹠角化症(掌や足の裏が厚くなる)が生じることが特徴です。患者にこのような足底の合併症があると、歩行が困難になります。
  • フランベジアの常在地域に住んでいる人で、以下のような症状があれば、フランベジアと考えられます(75%は15歳未満の小児です)。
  • 痂皮を伴った無痛性潰瘍
  • 乳頭腫(皮膚の良性腫瘍)
  • 丘疹、斑
  • 掌と足の裏の肥厚と暗色化

実地での診断は、主に、臨床所見と疫学的な所見に基づいて行われます。WHOは、最近、実地で活動する医療従事者や地域の保健担当者が、この疾患を認識できるように画像入りのガイドを発行しました。

合併症

治療しなければ、罹患した人の約10%で、外見が損なわれ、不自由な合併症が進行し、足と鼻の変形は5年後に現れます。この疾患と合併症は、学校の長期欠席の原因になり、また成人の農業活動を妨げます。

治療

フランベジアの治療には2種類の抗菌薬が使用されます。

  1. 1.今年のランセットに発表された最近の研究によれば、アジスロマイシンの単回経口投与はペニシリンベンザチンと同等の効果がみられたと示されました。フランベジアの治療の服用量は30mg/kg(最大2g)です。 内服薬を使うという容易さのため、大規模な治療計画の際には、治療を行うために、村の保健担者、ボランティア、地域の薬販売業者のような非医療従事者を訓練することができます。アジスロマイシンは、現在、フランベジアの第一選択薬として好まれています。
  2. 2.今年、アジスロマイシンの単回経口投与も有効であることを示す研究結果が発表されるまでは、ペニシリンベンザチンがフランベジアの治療の主流でした。推奨された投与量は、120万単位(成人)と60万単位(小児)です。しかし、注射による投与では、十分に訓練された医療従事者と無菌状態でのプロトコルの遵守が必要であり、大規模な治療計画には有用ではありません。ペニシリンベンザチンは、アジスロマイシンが使用できない場所や、患者をアジスロマイシンで治療することができない時に、依然として、使用されています。

予防

フランベジアに有効なワクチンはありません。予防するためには、早期診断のほか、患者が発生している地域における集団治療や、患者と接触者に対象を絞った治療による感染伝播の阻止が行われます。健康教育と個々の衛生状態の改善は予防の中でも重要な要素です。

過去の根絶に向けた努力

1949年の世界保健総会で、WHA2.36が決議され、風土性トレポネーマ症(フランベジアとベジェル)の公衆衛生上の重要性が認識されました。

1952年から1964年にかけて、WHOと国連児童基金(UNICEF)は疾患をコントロールするために世界的なキャンペーンを先導し、この結果、46か国でこれらの疾患を根絶しました。46か国で移動するチームを使って行われた集団キャンペーンでは、3億人以上を検査し、5,000万人を治療しました。1964年までに、これらの疾患の有病率は95%減少しました(250万人)。この業績は公衆衛生上の成功事例の一つと考えられています。

1964年以降、フランベジアと他の風土性トレポネーマ症に対する活動が脆弱な保健制度の中で早期に統合され、縦断的な垂直根絶計画がなくなったため、患者の5%が残ってしまうことになりました。1970年代後期までには、これらの疾患が再び増加し始め、1978年の世界保健総会でWHA 31.58を決議するに至りました。

WHOの対応:根絶に向けた新たな取組

顧みられない熱帯病(NTDs)に対する関心の高まりや、今年1月に公表されたWHOのロードマップ、過去6年間におけるインドでのフランベジアの伝播の遮断、フランベジアを完全に治療することができる経口アジスロマイシンの単回投与は、フランベジアが根絶できるという楽観的な見通しが立ちました。

今年3月にスイスのモルジュでWHOが開催した会議の中で、専門家はフランベジアの根絶戦略の作成を進めました。この会議で検討された新しい推奨政策は2点あります。

  1. 1.地域全体の治療(Total Community Treatment; TCT)-常在地区全体に対する治療であり、活動性の患者数に関係なく実施
  2. 2.対象を絞り、すべての対象者の治療(Total Targeted Treatment; TTT)-活動性の患者とその接触者(家庭、学校、友達)のすべてに対する治療

WHOは、新しい根絶戦略実施の第一歩として、6か国(カメルーン、ガーナ、インドネシア、パプアニューギニア、ソロモン諸島、バヌアツ)の選ばれた常在地域で大規模な治療キャンペーンを開始する予定です。

出典

WHO YawsFact sheetOctober 2012
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs316/en/index.html

参考

WHOPictorial guide to help village volunteers and health-care workers identify and refer cases of yaws for treatment 14September2012
http://www.who.int/iris/bitstream/10665/75360/1/9789241504096_eng.pdf[PDF形式:1.2MB]