中国における新たなブニヤウイルスの人への感染に関するリスクアセスメント (抜粋)

中国では近年新しいブニヤウイルスによる重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の感染例が報告されており、人への感染に関して公衆衛生上のリスクを評価するための研究が行われました。

重症熱性血小板減少症候群はダニが媒介する出血熱であり、2009年の晩春から初夏にかけて中国中央部の農村で初めて報告されました。同年6月に患者の血液検体から新しいブニヤウイルス科フレボウイルス属のウイルスが分離され、後にSFTSウイルスと命名されました。フタトゲチマダニ等のマダニがウイルスを媒介することが明らかにされました。

中国保健省が公表した予防と治療のガイドラインによりますと、SFTSウイルス感染の潜伏期間は1週間から2週間です。症状は非特異的で、発熱(38℃以上)、食欲不振、倦怠感、胃腸症状(腹痛、悪心、嘔吐、下痢)、リンパ節腫脹がみられます。
検査所見では、患者の95%で血小板減少、患者の86%で白血球減少、患者の84%で蛋白尿、患者の59%で血尿がみられました。ほとんどの患者では、血清酵素(ALT、AST、CK、LDH)が上昇しており、多臓器障害が示唆されました。また、限られた公表データによれば、致死率は12%から30%でした。

中国では中央部と北東部の6省(遼寧省、山東省、河南省、湖北省、安徽省、江蘇省)で、入院患者を対象としたSFTSのサーベイランスが行われました。中国保健省の症例定義に該当する患者は、2009年6月から2010年9月までの間に241人報告されました。また2010年に検査で確定された患者の96%(154人中148人)は5月から7月の間に発生していました。
患者の年齢は39歳から83歳であり、患者の75%は50歳以上でした。また、患者の56%は女性でした。患者の97%は森林地帯や丘陵地帯に住んでおり、畑で作業する農業従事者でした。

集団を対象とした血清疫学データはほとんどありませんが、2011年に山東省で行われた研究では、健康な237人のうち2%でSFTSウイルスに対する抗体がみられ、134頭の山羊のうち83%でSFTSウイルスに対する抗体がみられたと報告されています。

中国では、フタトゲチマダニは広範囲に分布しており、18省で発見されています。通常、フタトゲチマダニの宿主になるのは、山羊、牛、豚、猫、ネズミ、マウス、鳥、人です。人以外の動物では、SFTSウイルスに感染して発症した事例は報告されていません。

最近では、家族内での人-人感染が考えられる事例や、患者の血液からの感染や医療機関内での濃厚接触によって感染した疑いのある事例も報告されています。

専門家によれば、中国保健省は公衆衛生システムを強化しており、農村部でもSFTSの診断や治療について、適切に対応することができると考えられています。また、ほとんどの県レベルの検査施設ではSFTS感染を診断することができます。
支持療法以外の特異的な治療法はなく、郷レベルの病院のほとんどで、SFTSの患者に推奨される治療法を行うことが可能です。

結論として、疾患を媒介するダニが広範囲に分布し、農村部ではすぐに人に付着することができ、ブニヤウイルス科は人の間で発生・拡大することが可能であるため、疾患が広がるおそれがあります。限定的ではありますが、院内感染も発生するかもしれません。
全体的には公衆衛生上の影響は小さいと評価されました。良い診断方法と治療方法があります。しかし、最も感染するリスクの高い農村部の農家の高齢女性は、医療機関への受診が遅れるかもしれません。このため、受診時には重症化しているかもしれず、その場合には医療機関での治療が長期にわたり、高度な医療が必要になります。
疾患が拡大する可能性と公衆衛生上の影響を考え合わせると、中国での人のSFTSウイルス感染に関する公衆衛生上のリスクは低から中程度と評価されています。

出典

Western Pacific Surveillance and Response Journal
Volume 3, Issue 4, October to December2012
Risk assessment of human infection with a novel bunyavirus in China
http://www2.wpro.who.int/wpsar/archives/Archive_3%284%292012_RA_Xiong_etal.htm

参考

厚生労働省報道発表資料 (平成25年1月30日)
中国で近年報告されている新しいダニ媒介性疾患の患者が国内で確認されました
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002u1pm.html