世界におけるインフルエンザ流行状況 (更新8)

2013年4月26日 WHO(原文〔英語〕へのリンク

要約

  • 北半球の温帯地域におけるインフルエンザの活動性は、北米、ヨーロッパ、北アジアのほとんどの地域でシーズンオフに近い水準まで減少し続けています。しかし、多くの国では、依然として、低い水準の伝播が続いていると報告されました。
  • 北半球の温帯地域における伝播の持続は、北米とヨーロッパの数か国で、シーズンの終わりに出現したインフルエンザB型ウイルスの増加に関連しています。それまでは、北米ではインフルエンザA(H3N2)、ヨーロッパではインフルエンザA(H1N1)pdm09が優勢でした。北アジアでは、インフルエンザA(H3N2)とインフルエンザA(H1N1)pdm09が検出され、その割合は国によって異なりました。
  • 熱帯地域のインフルエンザの活動性は低い水準であり、南半球のインフルエンザの活動性 は、依然としてシーズンオフの水準です。
  • 今シーズンに解析されたインフルエンザA型は、ほぼすべてが今シーズンに北半球で使用さ れている3価ワクチンに含まれている株に抗原的に類似していました。解析されたインフルエ ンザB型のうち、山形系統は3価ワクチンに推奨されたウイルス株に抗原的に類似していまし たが、かなり多くのB型ウイルスがビクトリア系統でした。オセルタミビルとザナミビルに耐性 を示すウイルスは、非常に少数ですが検出されました。
  • 中国では、これまでに、インフルエンザA(H7N9)に感染した患者が100人以上報告されま した。詳細はWHOのホームページに掲載されています。
    WHOホームページ(英語)
  • 北半球のインフルエンザシーズンのまとめは、5月31日付のWHOの疫学週報(WorldEpidemiological Report)に掲載される予定です。

北半球の温帯地域

北米

北米のインフルエンザの活動性は、比較的低い水準となりました。カナダと米国では1月上旬にピークに達し、メキシコは両国より2週間遅れてピークに達しました。

カナダでは、集団発生の件数と州に報告される著しい呼吸器疾患の活動性は低い水準となりましたが、シーズンオフの水準にまでは至っていません。国全体でのインフルエンザ様疾患(ILI)の受診率は、4月第2週は患者1,000人当たり23.8でしたが、直近の報告週は16.4に減少しました。インフルエンザウイルスが陽性となった割合は、1月第1週に35%とピーク達し、最近数週間は比較的変化がなく、12%と若干増加しました。

4月第2週に、予防接種監視活動(IMPACT)ネットワークによって、インフルエンザと確定された小児の入院患者は新たに12人が報告され、すべてインフルエンザB型に関連していました。同じ週に、インフルエンザ研究ネットワーク(PHAC/CIHR Influenza Research Network)の重篤な転帰に至った事例のサーベイランスネットワークによって、インフルエンザと確定された成人の入院患者は13人が報告されました。このうち4人がインフルエンザA型で、6人がインフルエンザB型でした。

呼吸器検体の検査で、陽性の割合が比較的高い状態が続いているのは、最近の数週間でインフルエンザB型の検出数が増加していることと関連しています。インフルエンザB型が検出される割合は、1月第3週には2.1%でしたが、4月第2週には81.1%(444検体中360検体)に増加しました。今シーズンは、インフルエンザA(H3N2)が最も多く検出されており、昨年10月以降に亜型解析されたインフルエンザA型のうち89%を占めています。

シーズン当初から、国立微生物学研究所で1,016株のインフルエンザウイルスの抗原解析が行われ、162株がインフルエンザA(H1N1)pdm09で、553株がインフルエンザA(H3N2)で、301株がインフルエンザB型でした。インフルエンザA型は、すべて、今シーズンに北半球で使用されているワクチン株に抗原的に類似しており、インフルエンザB型ウイルスのうち、248株は、今シーズンに北半球で使用されているワクチン株であるB/Wisconsin/01/2010(山形系統)に抗原的に類似していましたが、53株はB/Brisbane/60/2008(ビクトリア系統)に類似していました。今シーズンは、検査した942株の中で、オセルタミビルまたはザナミビルに対する耐性を示したウイルスはありませんでした。

米国では、インフルエンザの活動性は12月下旬から1月上旬にかけてピークに達した後、4月16日までの報告週は減少し続けており、季節性の閾値を下回っています。国全体では、ILIの外来受診率は、国の閾値である2.2%を下回り、1.3%でした。ILI患者の検体でインフルエンザが陽性であった割合は、昨年最終週に38%とピークに達した後、4月16日までの報告週は9.3%(3,802検体中354検体)と減少しました。

122都市の死亡報告システムを通して報告された肺炎とインフルエンザによる全死亡の割合は、1月第4週に9.8%とピークに達した後は7.2%まで減少し流行閾値の7.5%を下回りました。シーズン当初からの肺炎とインフルエンザによる全死亡者数は、最近のシーズンに比べ、比較的高いです。今シーズンは、4月16日までに、インフルエンザに関連した小児の死亡は126人と報告されました。インフルエンザに関連した小児の死亡は、2011年から2012年のシーズン中に34人、2010年から2011年のシーズン中に122人が報告されました。4月第2週に報告された小児の死亡者10人はインフルエンザB型によるものでした。検査で確定診断されたインフルエンザに関連した入院患者は人口10万人当たり43.7であり、過去3シーズンに比べて高くなっていますが、特に65歳を超える年齢層で増加しました。

カナダと同様に、4月16日までの報告週で、インフルエンザが陽性となった検体のうち、73.7%がインフルエンザB型でした。しかし、米国では、シーズン当初から検出されたインフルエンザの72%がインフルエンザA型であり、亜型が判明しているA型のうち96%がインフルエンザA(H3N2)でした。

シーズン当初から、疾病予防管理センター(CDC)は2,144株のインフルエンザウイルスの抗原解析を行いました。このうち209株がインフルエンザA(H1N1)pdm09、1,200株がインフルエンザA(H3N2)、735株がインフルエンザB型でした。インフルエンザA型は、すべて、今シーズンに北半球で使用されているワクチン株に抗原的に類似していましたが、インフルエンザA(H3N2)のうち0.3%(1,200株中4株)はA/Victoria/361/2011に対して産生される抗血清の力価が低下しており、インフルエンザA(H1N1)pdm09のうち1.4%(209株中3株)はA/California/7/2009に対して産生される抗血清の力価が低下していました。解析されたインフルエンザB型のうち、32.8%(735株中241株)は、今シーズンに使用されている3価ワクチンに含まれていないB/Victoria/02/87 –likeの系統でした。シーズン当初から、インフルエンザA(H1N1)pdm09は483株が検査され、オセルタミビル耐性株が2株報告されました。インフルエンザA(H3N2)は1,821株が検査され、オセルタミビル耐性株が2株報告されました。インフルエンザB型は783株が検査され、耐性株は検出されませんでした。

メキシコのインフルエンザの活動性は、低い水準となり、検出されたウイルスの多くはインフルエンザA(H3N2)でした。メキシコのインフルエンザの活動性は、1月下旬にピークに達した米国よりも約2週間遅れてピークに達したようです。

ヨーロッパ

4月最終週におけるヨーロッパのインフルエンザの活動性は、ほとんどの地域で低下し続けており、ほとんどの国で減少し、伝播も低い水準で、シーズンオフの水準に近づいています。東部の数か国、特にロシア、スロベニア、ウクライナでは、減少したものの、活動性は持続しており、ヨーロッパの北部や西部の国に数週間遅れているようです。

ILIや急性呼吸器感染症(ARI)の受診率は、ほとんどの国で季節性の閾値を下回ったか、シーズン前の水準であり、ヨーロッパのほとんどの国でインフルエンザシーズンが終わったようです。定点機関で採取されたILIやARI患者の検体のうちインフルエンザが陽性になった検体の割合は2月下旬以降減少しています。4月第2週に、ヨーロッパ死亡率監視プロジェクトへデータを報告した12の国・地域の総死亡率は、65歳以上の年齢層で、昨シーズンに比べて若干高く、過去3年に比べて高い水準でした。若年層の総死亡率は例年同様でした。

ヨーロッパ全体で、シーズン当初からインフルエンザA(H1N1)pdm09が最も多く検出されています。アイルランドやスペインなど数か国では、インフルエンザB型が多く検出されたと報告されています、しかし、過去数週間では、北米と同様に、ヨーロッパ全域でインフルエンザB型が占める割合が増加し、多くの国で、高頻度に検出されるようになっています。

シーズン当初から、2,751株のインフルエンザA型ウイルスの抗原解析が行われました。インフルエンザA(H1N1)pdm09は、すべて、WHOが今シーズンに北半球で推奨しているインフルエンザワクチンに含まれるA/California/7/2009に抗原的に類似していました。また、インフルエンザA(H3N2)も99%以上(1,366株中1,365株)は、WHOが今シーズンに北半球で推奨しているインフルエンザワクチンに含まれるA/Victoria/361/2011に抗原的に類似していました。インフルエンザB型ウイルスは1,936株の抗原解析が行われ、86%(1,936株中1,661株)が今シーズンに推奨されるワクチンに含まれるB/Yamagata/16/88の系統であり、14%(1,936株中275株)はB/Victoria/02/87の系統でした。シーズン当初から、ノイラミニダーゼ阻害薬であるオセルタミビルとザナミビルの感受性検査が12か国で1,259株について行われました。インフルエンザA(H1N1)pdm09は、623株のうち13株がH275Yのアミノ酸変異を有するオセルタミビル耐性株でした。インフルエンザA(H3N2)は、すべて、オセルタミビルとザナミビルの両者に感受性がありました。359株のインフルエンザB型のうち1株はオセルタミビルによる阻害効果が減少していました。

アフリカ北部と中東

アフリカ北部では、インフルエンザ陽性検体数は、2月下旬にピークに達した後、過去数週間にわたって減少しました。全体的には、検出されるインフルエンザウイルスのタイミングやパターンは、ヨーロッパと同様ですが、エジプトは例外で、ピークが早期に到来し、検出されたウイルスは、ほとんどがインフルエンザA(H3N2)でした。エジプト以外の国では、インフルエンザA(H1N1)pdm09が優勢でしたが、アルジェリアのように、過去数週間でインフルエンザB型が検出される割合が増加したと報告された国もありました。

中東では、インフルエンザ陽性検体数は、過去数週間にわたって減少しました。しかし、バーレーン、ヨルダン、オマーンなどでは、低い水準で伝播が続いています。この地域のほとんどの国では、シーズン全体を通して、主にインフルエンザA(H1N1)pdm09が検出されていますが、オマーンとパキスタンでは、特にこの数週間、インフルエンザB型が主に検出されたと報告されています。

北アジアと東アジア

アジアの温帯地域では、ほとんどの地域で、インフルエンザの活動性は1月末にピークに達した後、過去数週間にわたって減少しました。しかし、中国と韓国のインフルエンザの活動性は、依然として注目に値する高い水準です。この2か国は、この地域の他の国より数週間遅れてピークに達しました。中国北部と日本では、インフルエンザの活動性と、ILI患者の検体のうちインフルエンザが陽性となった検体の割合は、1月下旬にピークに達した後、過去数週間にわたって減少しました。一方、モンゴルでは、インフルエンザウイルスの検出数の増加との関連はありませんが、肺炎による入院患者数が増加したと報告されました。

前回の報告に示された通り、北アジアでのほとんどの国では、今シーズンはインフルエンザA(H3N2)が最も多く検出されています。しかし、多くの国で、インフルエンザ陽性検体中に占めるインフルエンザA(H1N1)pdm09の割合が多少増加しました。また、中国北部では、シーズン後半はインフルエンザA(H1N1)pdm09が最も多く検出されました。

シーズン当初から中国国家インフルエンザセンターで亜型が解析されたインフルエンザウイルスのうち、インフルエンザA(H1N1)pdm09の99.1%(248株中226株)はA/California/7/2009-likeに類似しており、インフルエンザA(H3N2)はすべて(577株)A/Victoria/361/2011(H3N2)-likeに類似していました。また、インフルエンザB型では、山形系統はすべて(25株)B/Wisconsin/01/2010-likeに類似しており、ビクトリア系統の96.7%(152株中147株)はB/Brisbane/60/2008-likeに類似していました。昨年10月以降に検査されたインフルエンザウイルスはすべて、ノイラミニダーゼ阻害薬に感受性がありました。

中国では、インフルエンザA(H7N9)に感染した患者が報告されており、現在、患者数は100人を超えました。詳細な情報と更新情報はWHOのホームページに掲載されています。

WHOホームページ(英語)

熱帯地域

アメリカ大陸(中米、カリブ海諸国)の熱帯地域

中米とカリブ海諸国では、低い水準で、インフルエンザA(H3N2)とインフルエンザA(H1N1)pdm09の伝播が続いており、インフルエンザA(H1N1)pdm09の割合が徐々に増加しています。しかし、ILIと急性呼吸器疾患の患者のほとんどがインフルエンザ以外のウイルスに関連していると報告されており、原因としてRSウイルスが最も多く報告されています。コスタリカ、キューバ、グアテマラ、ニカラグアでは、インフルエンザの伝播は注目に値する高い水準です。

南米の熱帯地域では、インフルエンザの活動性は低いままです。ブラジルとエクアドルでは、過去数週間で、インフルエンザの活動性が徐々に増加し、3種類のインフルエンザウイルスが同時に伝播しています。ブラジルではインフルエンザA(H1N1)pdm09が最も多く検出されており、エクアドルではインフルエンザA(H3N2)が最も多く検出されています。

中部アフリカ

中部アフリカの数か国で、過去数週間にわたって、インフルエンザの検出数は低いですが、3種類のインフルエンザウイルスの検出が続いています。コンゴ民主共和国では、3月末にインフルエンザの活動性がピークに達し、インフルエンザA(H3N2)とインフルエンザB型が低い水準で減少していると報告されています。ケニアでは、低い水準ですが、インフルエンザA(H3N2)の伝播が続いています。マダガスカルでは、低い水準ですが、インフルエンザA(H1N1)pdm09とインフルエンザB型の伝播が増加したと報告されています。

アジアの熱帯地域

南アジアのインフルエンザの伝播は、過去数週間に比べて低い水準で、3種類のインフルエンザウイルスが同時に伝播しています。インドでは、インフルエンザの伝播は3月下旬にピークに達したようで、主にインフルエンザA(H1N1)pdm09が検出されており、インフルエンザA(H3N2)も若干検出されています。スリランカのインフルエンザの活動性のタイミングも同様でしたが、インフルエンザB型の検出割合が高いです。両国ともに、過去12か月間、毎週インフルエンザウイルスが検出されました。

中国南部のインフルエンザの伝播は3月中旬にピークに達し、検出されたウイルスは、インフルエンザA(H1N1)pdm09がほとんどでした。香港もインフルエンザの活動性は同時期にピークに達したようであり、主にA(H1N1)pdm09が検出されましたが、インフルエンザA(H3N2)も少数検出されました。上海市でインフルエンザA(H7N9)が発生した後、全体的なインフルエンザの活動性は増加していません。

南半球の温帯地域

南半球の温帯地域のすべての国で、現在、インフルエンザの活動性は、シーズンオフの水準で、活動性の増加が報告された国はありません。

出典

Influenza update 26 April 2013 - Update number 184
http://www.who.int/influenza/surveillance_monitoring/updates/latest_update_GIP_surveillance/en/index.html