住血吸虫症について(ファクトシート)

2014年2月 WHO(原文〔英語〕へのリンク

要点

  • 住血吸虫症は寄生虫によって起こる急性及び慢性疾患です。
  • 年には少なくとも2億4,900万人に予防的な治療を行う必要がありました。
  • 年に住血吸虫症の治療を受けた人は4,210万人と報告されました。
  • 日常的に汚染された水に暴露する機会のある農業従事者、家事を行う人、職業に就いている人、娯楽活動を行う人が感染します。
  • 特に、学齢期の子どもは、衛生習慣が乏しく、汚染された水の中で泳いだり、釣りをしたりするなど、日常の遊びの中で感染する機会が高くなります。
  • 住血吸虫症の感染制御はプラジカンテルを用いて、定期的に大規模な治療を行うことによる疾患の減少に焦点が当てられています。また、飲料水や適切な衛生状態の確保、淡水の貝の制御を含む、より包括的なアプローチも伝播を減少させることができると考えられています。

住血吸虫症は急性及び慢性の寄生虫疾患で、住血吸虫(Schistosoma)属の寄生虫が原因です。2012年には少なくとも2億4,900万人に予防的な治療を行う必要がありました。予防的な治療は数年に渡って繰り返され、疾病への罹患を減少し、予防します。住血吸虫症の伝播は78か国で報告されていますが、中等度から高度の伝播が起こっている大規模な治療が必要な常在国は52か国です。

伝播

住血吸虫症に罹患している人の排泄物中に、水中で孵化する寄生虫卵が含まれており、淡水がその排泄物で汚染される時に伝播が起こります。

汚染された水と接触している間に、淡水の貝から放出された寄生虫の幼虫が皮膚から侵入することによって人に感染します。

体内で住血吸虫の幼虫は成虫へと成長します。成虫は血管内に生息し、そこで雌は産卵します。便中や尿中に排泄され、寄生虫の生活環を維持する虫卵もあれば、体内組織に留まり、免疫反応を誘導し、組織障害を悪化させる虫卵もあります。

疫学

住血吸虫症は熱帯地域及び亜熱帯地域でよくみられ、特に安全な飲料水が手に入らず、適切な衛生状態が欠如している貧しい国々で多くみられます。住血吸虫症の治療の必要な人の少なくとも90%がアフリカに住んでいます。

住血吸虫症は大別して腸管に寄生する住血吸虫と泌尿生殖器に寄生する住血吸虫の2つに分けられ、主に5種の住血吸虫が原因となります(表参照)。

図,住血吸虫の種と地理的分布

住血吸虫症は、貧しい農村部において、特に農業、漁業従事者に影響を与えます。汚染された水で洗濯などの家事をする女性にもリスクがあります。また、特に小児は衛生習慣がなく、汚染された水に接触することで感染を受けやすくなります。

都市部への移住や集団の移動によって、新たな地域に疾患が持ち込まれています。人口の増加とそれに伴う電力と水の需要がしばしば開発計画と環境変化につながり、それらが伝播を増加させます。

エコツーリズムや“人里離れた”旅行の増加に伴い、多くの旅行者が住血吸虫症に罹患しています。時には、重症の急性感染を起こし、麻痺などの通常はあまりみられない症状を起こす旅行者もいます。

泌尿生殖器に寄生する住血吸虫症は、特に女性で、HIV感染のリスク・ファクターになると考えられています。

症状

住血吸虫症の症状は、虫卵に対する身体の反応によって起こります。

腸管に寄生する住血吸虫症では、腹痛、下痢、血便がみられます。進行すると肝腫大がみられ、それに伴いしばしば腹腔内に腹水が貯留し、腹部血管の圧が亢進します。そのような場合には、脾腫大も起こることがあります。

泌尿生殖器に寄生する住血吸虫症の古典的な症状は血尿です。進行すると膀胱尿管線維症と腎障害がみられます。後期合併症として膀胱がんを起こす可能性もあります。女性では、泌尿生殖器に寄生する住血吸虫症で、生殖器病変、膣出血、性交痛、外陰部結節がみられることがあります。男性では、泌尿生殖器に寄生する住血吸虫症で、精嚢、前立腺、その他の臓器に病変を起こすことがあります。この疾患は、不妊など長期にわたる不可逆性の結果をもたらすことがあります。

住血吸虫症によって生じる経済と保健への影響は重大です。小児の住血吸虫症では、貧血、発育障害、学習能力の減退を引き起こすことがありますが、通常これらの影響は治療により回復します。慢性住血吸虫症では就業能力に影響を与える可能性があり、死亡することもあります。サハラ以南のアフリカでは、毎年、住血吸虫症で20万人以上が死亡していると推計されています。

診断

住血吸虫症は、便または尿の検体中の虫卵を検出することで診断されます。血液や尿の検体から抗体や抗原を検出するも感染の指標となります。

泌尿生殖器に寄生する住血吸虫症の診断には、ナイロン、紙、ポリカーボネイトのフィルターを使う濾過法が標準的です。小児のビルハルツ住血吸虫感染では、ほぼ常に尿中の顕微鏡的血尿が認められ、これは化学試験紙で確認できます。

消化管に寄生する住血吸虫症の虫卵は、グリセリンかスライドグラスに載せたメチレンブルーで染色したセロハンを使ったKato-Katz法として知られる方法によって、糞便中で確認することができます。

住血吸虫症が常在していない地域や伝播の少ない地域では、感染確認と完全な検査、治療と経過観察が必要とされる場合に、血清学的検査と免疫学的検査が有用でしょう。

予防と感染制御

住血吸虫症の予防と制御は、リスクのある集団への大規模な治療、安全な飲料水へのアクセスの確保、衛生状況の改善、健康教育、淡水貝のコントロールによって行われます。

WHOの住血吸虫症に対する感染制御戦略は、プラジカンテルを用いた定期的に、対象を絞った治療で、疾患を減少させることに焦点を当てられています。これはリスクのあるすべての人に対する通常の治療にも関係します。伝播の低い数か国では、疾患の排除を目標とすべきです。

対象を絞った治療の対象となる集団は、以下の通りです。

  • 常在地域の学齢期の子ども
  • 常在地域でリスクがあると考えられる成人、漁業従事者、農業従事者、灌漑作業従事者などの汚染された水に接触する仕事に従事する人、家事で汚染した水に接触する女性
  • 高度な常在地域に住むすべての人

治療の頻度は学齢期の子どもの有病率によって決定されます。高度に伝播が起こっている地域では、数年間は毎年繰り返し治療する必要があるかもしれません。感染に対する介入の影響をみるためにモニタリングが必須です。

目的は疾患の減少です。リスクのある人を定期的に治療することで、軽い症状が治り、感染した人が重症化して慢性の後期症状に進展するのを防ぎます。しかし、住血吸虫症に対する感染制御の大きな障害になっているのは、プラジカンテルの確保です。データによると、2012年に治療の必要とされた人のうち、プラジカンテルによる治療を受けたのは14.4%でした。

プラジカンテルは、すべての住血吸虫に推奨される治療法です。有効で安全で低価格です。治療後に再感染が起こったとしても、重症化するリスクは少なくなり、小児期に治療が開始され、その治療が反復されれば回復します。

住血吸虫症に対する感染制御は、過去40年以上に渡り、ブラジル、カンボジア、中国、エジプト、モーリシャス、サウジアラビアを含む数か国で成功しました。また、モロッコでも住血吸虫症の伝播が止まったという根拠もあります。ブルキナファソ、ニジェール、イエメンでは、数年以内に国レベルでの住血吸虫症の治療が拡大し、疾患に影響を与えることができました。数か国で伝播の状態の評価が行われています。

リスクのある人々のほとんどが住むサハラ以南のアフリカでは、過去10年以上に渡り、治療キャンペーンが拡大されました。

2012年には、31か国から住血吸虫症に対する予防的な治療に関して報告されました。住血吸虫症の治療を受けた人は、2011年から2012年の間に40%増加し、4,200万人でした。治療を受けた人数の増加傾向を維持する必要があります。

WHOの対応

WHOの住血吸虫症に対する業務は、顧みられない熱帯病を制御するための統合的アプローチの一部です。顧みられない熱帯病は、医学的には様々な疾患の総称ですが、貧困状態を継続させ、集団発生を起こし、重複感染がしばしば起こるという共通の特徴があります。

WHOは共同センターのほか、学術団体、研究所、民間団体、非政府組織(NGO)、国際機関、国連機関の他組織といったパートナーと協議し、化学予防法の戦略を調整しています。また、各国の制御計画で使用する技術的なガイドラインとツールを開発しています。

WHOは、パートナーや民間団体と連携し、プラジカンテルが容易に入手できるよう、またそのための資金の拠出を呼びかけました。民間団体とパートナーは、毎年1億人以上の学齢期の子どもを治療するために大量のプラジカンテルの提供を誓約しました。

出典

WHO:SchistosomiasisFact sheet N°115Updated February2014
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs115/en/index.html