エキノコックス症について(ファクトシート)

2014年3月 WHO(原文〔英語〕へのリンク

要点

  • 人のエキノコックス症は、エキノコックス属の条虫による寄生虫症です。
  • 人では、単包虫症と多包虫症の2種類が重要な病型です。
  • 人は、汚染された食品、水、土の中の寄生虫卵を摂取することによって感染するほか、動物の宿主と直接接触することによって感染します。
  • エキノコックス症の治療は、しばしば高価であり、複雑です。広範囲の手術や長期に渡る薬物治療が必要なことがあります。
  • 防止計画には、犬の駆虫、と殺場の衛生状態の改善、一般市民の教育キャンペーンが含まれます。子羊に対する予防接種は、さらなる介入方法として、現在評価されています。
  • 常に100万人を超える人がエキノコックスに感染しています。
  • WHOは、2018年までに効果的な単包虫症制御戦略を確認するための取組みを進めています。

人のエキノコックス症は動物由来感染症であり、エキノコックス属の条虫による寄生虫症です。エキノコックスには、以下の4種類の病型があります。

  1. 1.単包条虫(Echinococcus granulosus)の感染による単包虫症
  2. 2.多包条虫(E.multilocularis)の感染による多包虫症
  3. 3.フォーゲル包条虫(E. vogeli)による多嚢胞性エキノコックス症
  4. 4.ヤマネコ条虫(E.oligarthrus)による単嚢胞性エキノコックス症

人において医学的にも公衆衛生学的にも重要なのは単包虫症と多包虫症の2種類です。

伝播

数種類の草食動物と雑食動物がエキノコックス症の中間宿主となります。中間宿主となる動物は、汚染された土の中の寄生虫卵を摂取することによって感染し、動物の内臓で幼虫になります。

肉食動物は、寄生虫の最終宿主であり、寄生虫に感染した中間宿主の内臓を摂取したり、感染した死体をあさったりすることによって感染します。

人は偶発的な中間宿主であり、病気を伝播することはありません。

単包虫症を起こす単包条虫は、主に、犬と羊の間で生活環が維持されていますが、山羊、豚、馬、牛、ラクダ、ヤク(牛の一種)を含むその他の数種類の家畜も含まれるかもしれません。

多包虫症は、通常、狐とその他の肉食動物、小さな哺乳類(大部分はげっ歯類)の間で維持される野生動物の生活環の中で発生します。飼育されている犬や猫も感染することがあります。

所見と症状

人が単包条虫に感染すると、一つまたは複数の小嚢胞が発生します。小嚢胞が発生する場所は、主に肝臓と肺ですが、頻度は少ないものの、骨、腎臓、脾臓、筋肉、中枢神経系、眼に起こることもあります。

小嚢胞が臨床症状を示す程度に増大するまで、無症状の潜伏期間が何年も続くことがあります。非特異的な所見には食欲不振、体重減少、衰弱が含まれます。その他の所見は、小嚢胞の発生した部位と、周囲の組織を圧迫する力によって異なります。

小嚢胞が肝臓に発生すると、腹痛、悪心、嘔吐がよくみられます。小嚢胞が肺に発生すると、慢性的な咳、胸痛、息切れがよくみられます。

多包虫症は、無症状の潜伏期間が5年から15年に渡り、通常は肝臓に発生した腫瘍類似病変がゆっくりと増大することが特徴です。臨床所見には、体重減少、腹痛、全身倦怠感、肝不全の所見が含まれます。

幼虫の移行は、血液やリンパ系を通じて全身に播種され、肝臓に隣接した臓器(例えば脾臓)や離れた臓器(肺、脳)に病変が広がることもあります。多包虫症は治療しなければ進行し、致命的です。

分布

単包虫症は、世界的に広く分布しており、南極大陸を除くすべての大陸で発見されています。多包虫症は北半球に限定され、特に中国、ロシア、ヨーロッパ大陸と北アメリカ大陸の国で発生しています。

単包虫症の常在国では、人の罹患率は人口10万人当たり50以上に達することがあります。アルゼンチン、ペルー、アフリカ東部、中央アジア、中国でも有病率は5%から10%の水準です。家畜では、高い水準で常在している南米の地域のと殺場の家畜における単包虫症の有病率は、と殺された動物の20%から95%と幅がありました。

高齢の動物をと殺する農村地域における有病率が最も高いです。感染した動物の種にもよりますが、単包虫症に起因する家畜の生産損失は、死体重量の減少、皮の価格の低下、乳量の減少、妊孕性の低下によります。

診断

超音波検査法は、単包虫症と多包虫症の診断法の選択肢となる画像検査法です。この検査は、通常、コンピューター断層撮影(CT)や磁気共鳴画像(MRI)とともに用いたり、確認したりします。

時折、嚢胞がX線撮影で偶発的に発見されることがあります。様々な血性学的検査によって検出される特異抗体は診断の補助となります。生検と超音波ガイド下穿刺は、嚢胞、腫瘍、膿瘍の鑑別診断のために行われることがあります。

治療

単包虫症と多包虫症の治療は、しばしば高価であり、複雑です。広範囲の手術や長期に渡る薬物治療が必要なことがあります。

単包虫症の治療には、4つの選択肢があります。

  1. 1.PAIR(穿刺-吸引-注入-再吸引)法による嚢胞を穿刺する治療法
  2. 2.手術
  3. 3.駆除薬による治療
  4. 4.経過観察

どの治療を選択するかは、超音波の画像所見に基づき、病期特有の方法があり、利用できる医療の基盤や人的資源にもよります。

多包虫症の治療は早期に診断し、手術とアルベンダゾールによる駆虫が依然として重要な治療法です。病変が限局していれば、根治手術によって治療できます。残念ながら、多くの患者は病期が進行した段階で診断され、駆虫薬を使用しなかったり、不十分な使用となったりする場合には、姑息手術をしても、しばしば再発します。

健康負荷と経済負荷

単包虫症と多包虫症の疾病負荷は相当に大きいです。世界では、常に100万人以上がこれらの疾患に罹患しています。患者の多くが、治療を受けなければ致命的となる重症な臨床症状を示すでしょう。治療を受けても、人はしばしば生活の質を損ないます。

単包虫症では、手術後の死亡率は平均2.2%であり、介入の後に約6.5%の患者が再発し、回復に長い時間を要しています。現在、単包虫症による障害調整生命年の損失は、1年間で少なくとも100万、最大で300万と推計されています。

単包虫症に関連する費用は、患者の治療にかかる費用と畜産業の損失を合わせて30億米ドルと推計されています。

多包虫症による障害調整生命年の損失は、1年間で約65万であり、疾病負荷は中国西部に集中しています。

サーベイランス、予防、制御

家畜や犬は単包条虫に感染しても無症状であるため、動物における単包虫症のサーベイランスは困難です。サーベイランスは地域社会や地域の獣医当局に認識されていないか、優先されていません。

単包条虫の宿主や中間宿主は家畜動物の種であるため、単包虫症は予防可能な疾患です。低所得国では、犬を定期的に駆虫し、家畜をと殺する際の衛生状況(感染した臓器の適切な廃棄を含む)を改善し、一般市民を教育するキャンペーンが行われています。高所得国では、伝播の予防と疾病負荷の軽減が行われています。

単包条虫のリコンビナント抗原(EG95)を使った羊の予防接種は、感染予防と制御に明るい見通しを示しました。EG95を使用した羊の小規模な試験では、高い有効性と安全性が示され、予防接種を受けた子羊は単包条虫に感染しませんでした。

子羊の予防接種、犬の駆虫、高齢の羊のと殺を組み合わせた計画によって、人の単包虫症の排除が10年未満で達成できるかもしれません。

多包条虫の生活環には、宿主と中間宿主に野生動物の種が含まれるため、多包虫症の予防と制御はより複雑です。野生のげっ歯類に近づく飼育されている肉食動物の定期的な駆虫によって、人に感染するリスクが軽減されます。

狐や野犬のと殺も適用できますが、非常に効率が悪いようです。ヨーロッパと日本の研究において、野生または飼い主のいない宿主に駆虫薬を含む餌を用いて駆虫することで、多包虫症の有病率が著明に減少したことが示されました。しかし、そのようなキャンペーンの持続可能性と費用対効果には議論の余地が残されています。

WHOの対応

WHOは、2018年までに効果的な単包虫症制御戦略の確認に向けて、パイロットプロジェクト(試験的事業)を進展し、実施する国を特定するための支援を行っています。

2018年以降は、確認された戦略を使用し、公衆衛生上の問題として単包虫症の制御と排除のために選定された国での介入の拡大が優先される予定です。

2018年までに3か国で単包虫症戦略を確認するために、2013年から2017年までの間に単包虫症のパイロットプロジェクトを実施するための費用は、約1千万米ドルと推計されています。

WHOは、影響を受けている国の農村地帯で、医療従事者を対象とした単包虫症の臨床管理に焦点を当てたトレーニングコースを通じて、対応能力の構築を支援しています。

出典

WHOFact sheet N°377EchinococcosisUpdated March2014
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs377/en/