チクングニア熱について(ファクトシート)

2014年3月 WHO(原文[英語]へのリンク

要点

  • チクングニア熱は感染した蚊によってヒトに広がるウイルス性疾患です。チクングニア熱では発熱と重度の関節痛が現れます。その他の症状として、筋肉痛、頭痛、悪心、倦怠感、発疹があります。
  • この疾患の所見はデング熱に類似し、デング熱が発生している地域では誤診されることもあります。
  • 治療法はなく、対症療法が中心です。
  • 人が居住する場所と蚊の繁殖場所が近いことが、チクングニア熱に感染する重要なリスクファクターです。
  • 2004年以降、チクングニア熱は流行閾値に達し、かなりの罹患率と被害を生じています。
  • この疾患は、アフリカ、アジア、インド亜大陸で発生しています。最近数十年間で、チクングニア熱の媒介蚊はヨーロッパ及びアメリカ大陸に広がりました。2007年には、イタリアの北東部で、チクングニア熱の局地的な集団感染が発生し、疾患の伝播が初めて報告されました。

チクングニア熱は蚊によって媒介されるウイルス性疾患で、1952年にタンザニアで初めて報告されました。チクングニアウイルスは、トガウイルス科アルファウイルス属のRNAウイルスです。「チクングニア」という名前は、マコンデ語(アフリカで使われる言語)で、この疾患にかかった人が関節痛のために身体を「曲げた状態にする」ことを示す言葉に由来しています。

症状と所見

チクングニアの症状は、突然生じる発熱が特徴で、しばしば関節痛を伴います。その他によくみられる症状及び所見として、筋肉痛、頭痛、悪心、倦怠感、発疹があります。関節痛は、人を非常に衰弱させ、通常は数日間続き、数週間続くこともあります。

ほとんどの患者は完全に回復しますが、関節痛が数か月から数年間続くこともあります。消化器症状のほか、眼、神経、心臓に合併症が生じることも報告されています。重症の合併症は稀ですが、高齢者では死因になることもあります。感染した人の症状は、しばしば軽症で、感染したことが認識されない場合や、デング熱が発生している地域では誤診される場合もあるかもしれません。

伝播

チクングニア熱は、アジア、アフリカ、ヨーロッパ、アメリカ大陸の約40か国で確認されています。

ウイルスは、感染した雌の蚊に刺されることによって、人から人に伝播します。ほとんどがネッタイシマカとヒトスジシマカによる感染で、この2種類の蚊はデング熱を含む他の蚊媒介性ウイルス感染症も伝播します。これらの蚊の活動性のピークは早朝と午後の遅い時間ですが、日中にも人を刺すことがあります。この2種類の蚊は、屋外で人を刺しますが、ネッタイシマカは屋内でもすぐに人を刺します。

感染した蚊に刺されてから発症までの期間は、通常4日から8日ですが、2日から12日と幅があります。

診断

診断にはいくつかの方法が使われます。ELISA(酵素免疫測定)法などの血清検査で抗チクングニア抗体であるIgM抗体やIgG抗体を検出することによって確定されるかもしれません。IgM抗体は発症後3週間から5週間で最も高い水準となり、約2か月間持続します。発症から1週間以内に採取された検体は血清学的検査と逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法を実施すべきです。

感染してから数日間は、血液中からウイルスが分離されるかもしれません。様々なRT-PCR法がありますが、感度も様々です。臨床診断に頼る場合もあります。臨床検体から得られたRT-PCR産物はウイルスの遺伝子解析に使用されることもあり、様々な地域で採取されたウイルス検体の比較ができます。

治療

チクングニア熱には特異的な抗ウイルス薬による治療法はありません。治療は、関節痛に対する解熱剤、鎮痛剤、水分を投与するなどの対症療法が主体です。市販のワクチンもありません。

予防と制御

媒介蚊が伝播する他の疾患と同様に、人が居住する場所と蚊の繁殖場所が近いことが、チクングニア熱に感染する重要なリスクファクターです。予防と制御は、主に蚊の繁殖場所となる、水がたまった容器(天然のものも人工ものも含む)の生息場所を減らすことに依存しています。これは、発生している地域の動員を必要とします。集団感染が発生している間は、殺虫剤を、飛んでいる蚊を殺すために噴霧したり、蚊が止まる容器やその周囲の表面に使ったり、未熟な幼虫を殺すために容器の中の水の処理に使用します。

チクングニア熱の集団感染が発生している間の予防には、日中、蚊に刺されないように皮膚の露出を最小限にする衣服が勧められます。虫除け剤は、ラベルに表示された指示を厳守して、露出した皮膚または衣類に使われます。虫除け剤にはDEET (N, N-ジエチル-3-メチルベンズアミド)、IR3535 (3-[N-アセチル-N-ブチル]- アミノプロピオン酸エチルエステル) 、ピカリジン (1-ピペリジンカルボン酸、2-(2-ヒドロキシエチル)-1-メチルプロピルエステル)が含まれるべきです。日中に寝る場合、特に小児、病気になった人、高齢者では、殺虫剤で処理された蚊帳の使用が良い予防方法です。蚊取線香やその他の殺虫剤用噴霧器も屋内で蚊に刺されることを減少させるかもしれません。

感染するリスクのある地域への渡航者は、虫除け剤の使用、長袖と長ズボンの着用、蚊の進入を防止するための網戸が取り付けられている部屋の確保を含む基本的な予防方法を行うべきです。

集団感染

チクングニア熱は、アフリカ、アジア、インド亜大陸で発生しています。アフリカでは何年もの間、人への感染は比較的低い水準ですが、1999年から2000年にはコンゴ民主共和国で大規模な集団感染が発生し、2007年にはガボンで集団感染が発生しました。

2005年2月に初めて、インド洋諸島でチクングニア熱の大規模な集団感染が発生しました。ヨーロッパへの輸入例の多くは、この集団感染に関連しており、特にインド洋の流行がピークに達した2006年は、ほとんどがこの集団感染に関連していました。インドでは、2006年と2007年にチクングニア熱の大規模な集団感染が発生しました。東南アジアの数か国も影響を受けました。 2005年以降、インド、インドネシア、タイ、モルディブ、ミャンマーでは、190万人以上の患者が報告されています。2007年には、イタリアの北東部で、チクングニア熱の局地的な集団感染が発生し、疾患の伝播が初めて報告されました。この集団感染では、197人の患者が報告され、ヒトスジシマカによって媒介される疾患がヨーロッパ大陸内で発生したことが事実のようだと確認されました。

2013年12月、フランスの報告によりますと、カリブ海のサン・マルタン島(フランス領)においてチクングニア熱の患者が2人発生(地域内感染による発生)しました。それ以降、地域内感染は、オランダ領のサン・マルタン島(セント・マーチン島)、アンギラ、英領ヴァージン諸島、ドミニカ、仏領ギアナ、グアドループ、マルティニーク、サン・バルテルミー島で確認されました。アルバは輸入例のみ報告されました。

これは、アメリカ大陸において、初めて地域内感染が確認された事例です。

2014年3月6日までに8,000人を超える疑い患者がこの地域で発生しています。

疾患を媒介する蚊について

ネッタイシマカとヒトスジシマカがチクングニア熱の大規模な集団感染に関与しています。ネッタイシマカは熱帯地域及び亜熱帯地域に限局していますが、ヒトスジシマカは温帯地域や寒冷地域でも発生します。ヒトスジシマカは、最近数十年間で、アジアからアフリカ、ヨーロッパ、アメリカ大陸に広がりました。

ヒトスジシマカは、水がたまった生息場所で成長しますが、生息場所はネッタイシマカに比べて広範囲で、ココナッツの皮、カカオの実、竹の株、木の穴、岩の水たまりを含むほか、車両のタイヤや植木鉢の受け皿のような人工の容器でも生息します。このような生息場所の多様性によって、ヒトスジシマカは都市周辺部や日陰の市の公園同様、農村部でも多く発生しています。

ネッタイシマカは人間の居住場所と、より密接に関係しており、花瓶、水の保管容器、コンクリート製の浴槽のほか、ヒトスジシマカと同様に、屋外の人工的な生息場所でも生息します。

アフリカでは、別の媒介蚊(A. furcifer-taylori属やA.luteocephalus)などが疾患の伝播に関与しています。霊長類以外の動物、げっ歯類、鳥、小動物などを含む数種類の動物が保有宿主となるかもしれないという根拠があります。

WHOの対応

WHOはチクングニア熱に対して、以下の対応を行っています。

  • 根拠に基づいた集団感染の管理計画の取りまとめ
  • 患者と集団感染の効果的な管理のため、国への技術的支援と指針の提供
  • 報告システムを改善するための国への支援
  • 数か所の協力センターとともに、地域レベルにおける臨床管理、診断、ベクターコントロールのトレーニングの提供
  • 加盟国に対し、患者管理とベクターコントロールに関する指針と手引きの公表

出典

WHOChikungunyaFact sheet N°327Updated March2014
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs327/en/