C型肝炎について(ファクトシート)

2014年4月更新 WHO(原文〔英語〕へのリンク

要点

  • C型肝炎はC型肝炎ウイルスによって起こる肝疾患です。このウイルスは急性・慢性感染による肝炎の両者を引き起こしますが、数週間持続する程度の軽い病態から重篤で一生にわたって問題となる病態まで、重症度に幅がみられます。
  • C型肝炎ウイルスは血液によって感染するウイルスであり、最も感染が生じやすい状況には安全管理が徹底されていない注射手技や、医療器具の殺菌処理が不適切である医療環境、またスクリーニングを受けていない血液や血液製剤の使用などがあります。
  • 全世界で慢性C型肝炎の感染者は1億3000万人~1億5000万人にのぼります。
  • 慢性感染が生じた場合、かなりの数の感染者が将来的に肝硬変または肝癌を発症します。
  • 毎年35万人~50万人がC型肝炎関連の肝疾患で死亡しています。
  • C型肝炎による感染は抗ウイルス薬によって治療することが可能です。しかし、C型肝炎の診断および治療が受けられる例は限られています。
  • 抗ウイルス治療を受けた人の根治率は治療方法によって50~90%ですが、抗ウイルス治療は肝癌および肝硬変への進行を抑制することも示されてきました。
  • C型肝炎に対するワクチンは今のところありませんが、現在ワクチンに関する研究が行われています。

C型肝炎ウイルス(HCV)は急性感染症と慢性感染症の両者を引き起こします。急性HCV感染は通常無症候性であり、命にかかわる病態を引き起こすことはきわめてまれです。15~45%程度の感染者では、治療を受けなくても感染後6か月以内に自然にウイルスが排除されます。

残る55~85%の感染者は慢性HCV感染へと進展することになります。慢性HCV感染を生じた感染者の中で20年以内に肝硬変に至るリスクのあるのは15~30%です。

地理的分布

C型肝炎は全世界に分布しています。最も感染率の高い地域は、中央アジア・東アジア・北アフリカです。C型肝炎の流行は、薬物注射を行っている人など一定の高リスクの集団に集積して生じることがあります。また、一般集団でもC型肝炎の流行が生じることがあります。HCVウイルスには複数の株(すなわち遺伝子型)があります。その分布は地域によって異なっています。

伝播

C型肝炎ウイルスは血液によって感染するウイルスです。最も一般にみられる伝播様式には以下のようなものがあります。

  • 注射薬の使用に際して注射器具を共用すること。
  • 医療施設において医療器材(特に注射器や針)を再使用したり、再使用の際の滅菌が不適切であったりする場合。
  • 国によっては、スクリーニングを受けていない血液および血液製剤の輸血によってHCVの伝播が生じています。
  • HCVはまた性的接触によって伝播する可能性もあり、感染者である母親からその児に感染することもあります。ただし、このような伝播様式はそれほど一般的ではありません。

C型肝炎は、母乳、食物、水によって伝播することはなく、感染者とハグをしたり、キスをしたり、同じ食べ物や飲み物をとったりといったような日常的接触によって伝播することはありません。

症状

C型肝炎の潜伏期間は2週間から6か月間です。初感染を受けた際、感染者のおよそ80%には全く症状が現れません。急性症状をきたした感染者の場合、発熱、易疲労性、食欲低下、吐き気、嘔吐、腹痛、暗色尿、灰白色便、関節痛、黄疸(皮膚や白目の部分の黄染)などの症状がみられることがあります。

スクリーニング検査と診断

実際は、通常急性HCV感染は無症候性であることから、早期にHCV感染が診断されることはまれです。慢性HCV感染に至った感染者の場合も、深刻な肝障害が発症するまでHCV感染が診断されずにいることがありえます。

HCV感染は次の2つのステップを踏んで診断されます。

  1. 1.血清診断として抗HCV抗体によるスクリーニング検査を行うことで、ウイルスへの感染既往がある人を同定します。
  2. 2.抗HCV抗体が陽性である場合、慢性HCV感染であることを確認するためにHCV RNAに対する核酸増幅試験を行う必要があります。これは、HCVの感染者の15~45%で、強い免疫反応によって、治療をせずとも感染が自然治癒するからです。この場合、感染がみられなくなっていても、抗HCV抗体検査では依然として陽性の結果が出てしまいます。

C型慢性肝炎と診断された感染者は、肝障害(肝の線維化、肝硬変)の程度について評価を受けるべきです。肝生検または種々の非侵襲的な検査によって評価することができます。これに加えて、感染者はC型肝炎ウイルス株の遺伝子型を類別するための検査を受けるべきです。HCVには6種の遺伝子型があり、それぞれ治療への反応が異なっています。さらに、2種類以上の遺伝子型のウイルスに重複感染することもありえます。肝障害の程度およびウイルスの遺伝子型は、疾患の治療方針や管理方法を決定するための指針に用いられます。

検査を受ける場合

早期診断によって、感染によって生じうる健康問題を防いだり、ウイルス伝播を防いだりすることが可能となります。国によっては感染リスクの高い人を対象にスクリーニング検査を推奨している場合があります。

HCV感染のリスクの高い集団は次のようなものがあります。

  • 薬物注射を行っている人
  • 感染した血液製剤を投与された人、不適切な感染症コントロールしか行っていない医療施設で侵
    襲的医療処置を受けた人
  • HCV感染のある母親の児
  • セックスのパートナーにHCV感染者がいる人
  • HIV感染者
  • 鼻腔内投与薬を使用したことのある人
  • タトゥーやピアスをしたことのある人

治療

免疫反応によって感染が除去される場合もあることから、C型肝炎に感染したとしても必ずしも治療が必要であるとは限りません。治療が必要な場合、C型肝炎の治療目標は根治ということになります。治癒率は、ウイルス株や、どのような治療を行ったかといったいくつかの要因に影響を受けます。患者に対して最も適切なアプローチが何かを決定するため、治療を始める前に綿密なスクリーニング検査をする必要があります。

C型肝炎に対する現在の標準治療法は、インターフェロンとリバビリンを併用した抗ウイルス療法です。これは肝炎ウイルスのすべての遺伝子型(pan-genotypic)に対して有効です。残念ながら、インターフェロンは世界的にみると広く使用できるわけではなく、また患者によっては治療に耐えられない(忍容性がない)場合もあります。これは、治療の管理が複雑であり、多くの患者が治療を終了できないことを意味しています。

このような限界はありますが、インターフェロン・リバビリン併用療法によって命を救うことができます。

科学の進歩によって、現在の治療法に比してはるかに有効かつ安全で、また患者にとって忍容性の高いC型肝炎ウイルスに対する新しい抗ウイルス剤が開発されました。この治療法は、経口直接作用型抗ウイルス薬(DAAs: direct-acting antiviral agents)と呼ばれるもので、その出現によって患者モニタリングの必要性が有意に低下したこと、治癒率が上昇したことが相まって、C型肝炎治療が簡略化されることになりました。DAAの生産コストは低いのですが、会社によって設定された初期の薬価は非常に高く、国民所得が高い国の場合でも、これらの薬を使用することが困難な可能性があります。

これらの進歩によって全世界で治療を受けやすい環境が確実に整うように、多くの努力が払わらなければなりません。

WHOの対応

WHOはウイルス性肝炎の予防および制御を目的に以下の領域で作業を続けています。

  • 注意の喚起、協力の促進、資源の結集
  • エビデンスに基づいた政策立案、および行動に移すためのデータ収集
  • 感染伝播の抑制
  • スクリーニング検査、医療ケア、治療の実行

さらにWHOは、毎年7月28日にウイルス性肝炎に対する意識および理解を高めるために世界肝炎デー(World Hepatitis Day)を開催しています。

予防

一次予防

C型肝炎に対するワクチンはありません。したがって、HCV感染の予防は、医療施設、薬物注射を行っている人などのリスクの高い群、性的接触などでのウイルスへの暴露をいかに減らすかにかかっています。

限定的なものですが、WHOが推奨している一次予防法のリストの例を以下に掲げます。

  • 手指の衛生管理:外科手術に際する手指の管理、手洗い、手袋の使用など
  • 鋭利な物品、廃棄物を安全に取扱い、廃棄すること
  • 安全管理のもとに設備を清掃すること
  • 献血された血液のスクリーニング
  • 安全な血液を入手しやすくすること
  • 医療従事者のトレーニング

二次、三次予防

C型肝炎ウイルスに感染した人々に対して、WHOは以下のことを推奨します。

  • 医療ケアや治療についてのオプションに関して教育や助言を行うこと
  • 肝保護の観点から他の肝炎ウイルスの共感染を防ぐために、A型肝炎ウイルスワクチン、B型肝
    炎ウイルスワクチンを接種すること
  • 適切と考えられる場合に、抗ウイルス治療などによる早期の適切な医学的管理を受けさせること
  • 慢性肝疾患を早期診断するために定期的なモニタリングを受けさせること

治療:HCV感染者に対するスクリーニング検査、医療ケア、治療に関する新しいガイドライン

WHOは、2014年4月にC型肝炎感染者に対するスクリーニング検査、医療ケアおよび治療に関する新しいガイドラインの運用を開始しています。

これは、WHOが作成したC型肝炎治療に関する最初のガイドラインであり、HCVを含む血液で感染するウイルスの感染予防に関する既存のガイダンスを補完する役割を担っています。

このガイドラインは、低所得あるいは中所得者層の多い国家でHCV感染者のスクリーニング検査、医療ケア、治療に関するプログラムを作成している政策担当者、政府関係者その他の担当者向けのものです。このような人たちが上述の領域で重要な推奨事項を提示する際、また介入を検討する議論を行うに当たって、このガイドラインはHCV感染者に対する治療サービスを拡大するための一助となるでしょう。

重要な推奨事項に関するサマリー

HCV感染のスクリーニング検査についての推奨事項

  1. 1.HCV感染者であると同定するためのスクリーニング検査
    高いHCV罹患率を示す集団に属する人や、過去HCVに罹患するリスクに暴露されたり、リスクを伴う行動をとった既往のある人には、HCVの血清学的検査を行うことが推奨される(推奨度強、エビデンスレベル中等度)。
  2. 2.慢性HCV感染との確定診断をいつすべきか
    HCV感染に対する治療を始めるための評価の一部としてHCVリボ核酸(RNA)に対する核酸増幅試験(NAT)を行うことに加え、慢性HCV感染の診断を確立するためには、HCVの血清学的検査の結果が陽性であったらすぐに引き続きHCV RNAを検出するためのNATを行うことが推奨される(推奨度条件付き、エビデンスレベル非常に低)。

HCV感染者に医療ケアを行う際の推奨事項

  1. 3.アルコールを摂取しているかスクリーニングすること、またアルコール摂取量が中等量から大量である場合には摂取量を控えるように助言すること
    HCV感染者すべてを対象にアルコール摂取量を評価することを推奨する。そして、アルコール摂取量が中等量から大量である感染者に対しては、アルコール摂取量低減のための行動をとれるように介入する(推奨度強、エビデンスレベル中等度)。
  2. 4.肝の線維化および肝硬変の程度の評価
    肝の線維化を評価する場合、医療費に制限のある状況下では、非侵襲的検査である超音波エラストグラフィーやFibrotestなどの医療費がかかる検査ではなく、アミノトランスフェラーゼ/血小板数比(APRI)あるいはFIB4テストを用いることを提唱する(推奨度条件付き、エビデンスレベル低)。

HCV感染治療の推奨事項

  1. 5.HCV治療を行うか否か評価すること
    薬物注射を行っている人も含み、慢性HCV感染のある成人および小児に対しては、全員抗ウイルス薬治療を行うか否か評価しなければならない(推奨度強 、エビデンスレベル中等度)。
  2. 6.ペグインターフェロン・リバビリン併用療法
    慢性HCV感染治療に際しては、標準非ペグインターフェロン・リバビリン併用療法ではなく、ペグインターフェロン・リバビリン併用療法が推奨される(推奨度強 、エビデンスレベル中等度)。
  3. 7.テラプレビル(telaprevir)またはボセプレビル(boceprevir)による治療
    遺伝子型1による慢性HCV感染に対しては、ペグインターフェロン・リバビリン併用療法単独ではなく、直接作用型抗ウイルス薬であるテラプレビルまたはボセプレビルをペグインターフェロン・リバビリン併用療法に加えて投与することが提唱される(推奨度条件付き、エビデンスレベル中等度)。
  4. 8.ソフォスブビル(sofosbuvir)による治療
    遺伝子型1、2、3、4による HCV感染の場合、ペグインターフェロン・リバビリン併用療法単独ではなく、ソフォスブビルをリバビリンと併用し、HCVの遺伝子型によりペグインターフェロンを併用し、もしくは併用せず投与することが推奨される。あるいはインターフェロン治療に忍容性がない患者についても同治療が推奨される(推奨度強 、エビデンスレベル高)。
  5. 9.シメプレビル(simeprevir)による治療
    遺伝子型1b によるHCV感染者およびQ80K多型のない遺伝子型1aによる HCV感染者に対しては、ペグインターフェロン・リバビリン併用療法単独ではなく、それに加えてシメプレビルを投与することが推奨される(推奨度強 、エビデンスレベル高)。

注:推奨事項8および9については医療費について考慮されていない。それは、この推奨事項がまとめられた時点で、アメリカ合衆国以外の国で薬価情報が入手できる国がないためである。

出典

WHO Fact sheet N°164 April 2014
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs164/en/