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中東呼吸器症候群コロナウイルスMERS-CoV (リスクアセスメント)

2014年4月24日 WHO (原文[英語]へのリンク

サマリーと入手可能な情報

 2012年4月以降、検査で確定診断された中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)の症例254例(93人の死亡者を含む)がWHOへ報告されました。これまでに報告のあった中東の国は、ヨルダン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア(KSA)、アラブ首長国連邦(UAE);ヨーロッパ:フランス、ドイツ、ギリシャ、イタリア、イギリス(UK);北アフリカ:チュニジア;アジア:マレーシア、フィリピンです。

 新しい患者の発生には季節性があるようで、3月から4月以降に発生が増加するようです。2014年の3月中旬から急に患者数が増加し、特にKSAとUAEで顕著で、そこでは2件の医療関係者に関連したアウトブレイクがありました。

 最近報告された症例の75%が二次感染のようであり、つまり他の感染者から感染したことを意味します。この二次感染者のほとんどが、主に医療施設内で感染したヘルスケアワーカーですが、他の理由で病院内にいた数人の患者も病院内でMERS-CoVに感染したと考えられています。ヘルスケアワーカー感染者のほとんどが無症状か軽症状です。家族内感染は4件のみが報告されていて、大きな家族内発生は確認されていません。ヒト-ヒト感染が起こっても伝播は持続せず、現在までに三次感染の可能性のある症例が2件のみ報告されています。

 地域内で感染した症例数もまた3月中旬から増加しています。これらの症例は感染が確定された他の患者との接触の報告はなく、数症例で動物との接触が報告されています。ラクダは、ヒト感染源の第1候補と疑われていますが、直接暴露か間接暴露かの正確な感染ルートはわからないままです。感染源と暴露ルートを同定する調査が現在も継続中です。

 最近KSAとUAEで感染した患者数人が他の国、ギリシャ(1例)、ヨルダン(1例)、マレーシア(1例)、フィリピン(1例)へ渡航しました。これまでにその先の伝播は報告されていません。注意したいのは、過去に限定的なヒト-ヒト感染が起こった輸出症例があったことです(フランスとUK)。

 症例の増加、特に二次感染、院内感染のアウトブレイク、輸出症例を考慮し、WHOは伝播パターンが変わったかどうか、持続する地域内感染が起こるかどうかを決定するためにリスクアセスメントを更新しました。

リスクアセスメント

 リスクアセスメントは現在利用可能なデータと知識に基づいており、さらに情報が手に入ればまた更新する予定です。調査は現在も継続中で、例えば動物又は環境への暴露、伝播の流れ、初発症例とヘルスケアワーカーへの感染リスク要因や血清学的な研究に関する新しい知見は、リスクアセスメントをさらに確固たるものにするために決定的なものとなるでしょう。

MERS-CoVの伝播パターンは変化したか?

 現在報告されている症例のほとんどはヒト-ヒト感染により感染したようで、4分の1程度が初発患者と見なされていますが、これは当初みられたよりヒト-ヒト感染がわずかに多くなっていることを示唆します。

 一つの仮説は、伝播パターンと伝播率は変わらず、2件の大きな院内感染の発生事例は、不適切な感染予防策と制御方法によるもので、集中的な接触者追跡とスクリーニングに関連しているというものです。いくつかの要素がこれを裏付けています:i)臨床像は初期に観察されたものと同様である;二次感染症例は初発患者と比較しより軽症である;しかし、我々は多くの二次感染症例が無症状であるとの報告に注目している;ii)三次感染の可能性のある症例は2例のみ報告されている;iii)最近の輸出症例からは伝播がない;iv)接触者スクリーニングでは、同居家族内伝播の事例はほとんどない;v)家族内、地域内発生の感染者数の規模や人数の増加は認められない。

 別の仮説は、ウイルスの伝搬率が高くなって、その結果ヒト-ヒト伝搬が高まり、最近の症例数増加の原因になっているというものです。現在のサーベイランスレベルでは地域内の軽症感染者の見落としがある可能性もあります。この点で、これらの仮説をはっきりと除外するには最近の症例情報では不十分です。

中東国でMERS-CoV感染患者はさらに発生するか?

 動物や環境の感染源からヒトが感染する過程は現在調査中です。伝播様式が解明され、感染源からヒトへの伝播を阻止する予防的対策が実施されるまでは、まだ多くのヒトが感染すると考えられます。3年目の今年、3月-4月の症例数が増加し初発患者も増えていると考えられ、その後の伝播も起こるでしょう。

他国への輸出症例がさらに増え、その後の伝播も起こるか?

 動物や環境感染源の暴露を受けて感染した、または例えば病院内で感染した旅行者、渡航者、出稼ぎ労働者、巡礼者などを介して他国への輸出症例が今後も引き続き起こると考えられます。これらの症例からさらに感染を伝播するかどうかは、受け入れる国が迅速に検出、診断し、適切な感染予防と制御対策を実施できるかの能力にかかっています。注目すべきは、輸出症例から次の伝播が過去に起こっていますが、伝播は持続しなかったということです。

勧告

 感染防御、制御認識と制御対策の強化は、MERS-CoVの医療機関内での拡大の可能性を抑えるために非常に重要です。MERS-CoVに感染したと疑われる患者又は確定患者のケアをする医療機関では感染患者から他の患者、ヘルスケアワーカー、訪問者へウイルスが伝播されるリスクを低減しなければなりません。MERS-CoV患者を早期に確認することは常に可能とは限りません。なぜなら何人かの感染者は軽症だったり通常の症状ではないことがあるからです。このため、ヘルスケアワーカーは患者の診断名にかかわらず、常時どのような業務であっても一貫して標準的予防策をとることが必要です。

 このウイルスの伝播パターンをよりよく理解するために緊急調査が必要とされます。最も緊急を要するのは、詳細なアウトブレイク調査、感染のリスク要因を理解するための症例対照研究(ケースコントロールスタディ)、ヒト-ヒト感染の軽症症例で多数の見落としが無いかどうかを評価するための市中感染肺炎の地域内研究とサーベイランスの強化、医療施設内感染におけるリスク要因の確認などです。サーベイランス戦略と接触者追跡調査における詳細情報は、現在のデータの限界を理解するのに役立ちます。直近の焦点はヒト-ヒト感染の強度を明らかにすることですが、動物や環境感染源からヒトへの伝播が解明され阻止されるまでは、制御はできないでしょう。

 現在の情報に基づいて、MERS-CoVで重症化するリスクの高い人、たとえば糖尿病、慢性肺疾患、以前から存在する腎機能不全のある人や免疫不全のある人は、農場や家畜飼育場、ラクダのいる市場へ出かけるときは適切な防護対策を取ることが賢明です。対策にはラクダとの接触を避けること、手指衛生、生のミルクを飲まないこと、動物の分泌物で汚染された可能性のある食べ物や、適切に洗浄したり皮をむいたり調理したりされていない加工物は食べないといったことを含みます。

 一般公衆は、農場や飼育場を訪れる際の一般的な衛生対策、例えば動物に触れる前後の通常の手洗い、病気の動物に触らないこと、衛生的な食品の取り扱いを着実に実行すべきです。

 WHOはMERS発生国への渡航者、または発生国からの渡航者へMERSへの注意喚起を促す努力を推奨しますが、一方この事例に関して入国地点での特別なスクリーニングを勧めることはしませんし、現在渡航や貿易の制限を適応することも推奨しません。

出典

WHO RISK ASSESSMENT
Middle East respiratory syndrome coronavirus(MERS- CoV), 24 April 2014
http://www.who.int/csr/disease/coronavirus_infections/MERS_CoV_RA_20140424.pdf?ua=1