結核について (ファクトシート)

2014年10月 WHO (原文〔英語〕へのリンク

要点

  • 結核(TB)は単一の感染症としては、HIV/AIDSに続き、世界で2番目に死亡者数が多い疾患です。
  • 2013年には900万人が結核に罹患し、150万人が結核で死亡しました。
  • 結核による死亡の95 %以上は低所得国と中所得国で発生しており、15歳から44歳までの女性の五大死因の一つです。
  • 2013年には55 万人の小児が結核を発症し、HIV陰性の小児の8万人が結核で死亡したと推計されました。
  • 結核はHIV感染者の主な死因となっており、HIV感染者の死因の4分の1を占めています。
  • 2013年には世界で推定48万人が多剤耐性結核(MDR-TB)に罹患しました。
  • 結核に罹患している患者数の推計値は、非常に緩やかではありますが、毎年減少しており、2015年までに結核の発生を食い止め、その後、発生率を減少させるというミレニアム開発目標の達成が順調に進んでいることを示しています。
  • 結核の死亡率は1990年から2013年の間に45 %減少しました。
  • 2000年から2013年の間に結核の診断と治療を通して、3,700万人の生命が救われたと推計されました。

 結核(TB)は細菌(結核菌)によって起こり、多くの場合、肺に感染します。結核は治療と予防が可能な疾患です。

 結核は、空気感染によって人から人へと広がります。肺結核の人が咳やくしゃみをしたり、つばを吐いたりする時に、空気中に結核菌も出しています。 人は、少量の結核菌を吸い込むだけでも感染します。

 世界の総人口の約3分の1は潜在性結核感染症に罹患していますが、この状態では、結核菌に感染はしていても、発症はしておらず、他の人はうつすこともありません。

 結核菌に感染している人が、生涯で結核を発症するリスクは10 %です。 しかし、HIV感染者、栄養失調の者、糖尿病患者、喫煙者のような免疫力が低下している宿主では発症リスクがさらに高くなります。

 活動性結核を発症しても、数か月間は症状(咳、発熱、寝汗、体重減少など)が軽症で経過することがあります。このことは、結果として受診の遅れを生じ、他人に結核を感染させる一因とになります。結核を発症した人は、1年間で濃厚接触者の10人から15人に結核を感染させることができます。適切な治療を受けなければ、結核を発症した人の3分の2に上る人が死亡します。

リスクの高い人

 結核に感染する人は、大部分が生産年齢人口である青少年です。しかし、リスクはすべての年齢層にあります。患者と死亡者の95 %以上は開発途上国で発生しています。

 HIVと結核に重複感染している人は、結核を発症するリスクが26倍から31倍高くなるようです(「結核とHIV」の項を参照)。活動性結核になるリスクは、他の免疫不全状態の人でも高くなります。

 2013年には、50万人以上の小児(0~14歳)が結核に罹かり、HIV陰性の小児の8万人が結核で死亡したと推計されました。

 喫煙は結核の発症リスクと死亡リスクを大きく上昇させてしまいます。世界の結核患者の20 %以上は喫煙に起因しています。

世界に与える影響

 結核は、世界中で発生しています。2013年に、新規結核患者数が最も多かったのは東南アジアと太平洋西部地域で、世界の新規結核患者の56 %を占めています。しかし、2013年の人口あたりの新規患者数が最も多かったのはアフリカで人口10万人対280以上でした。

 2013年に報告された結核患者の約8割は22か国で発生していました。患者数が大きく減少した国がありますが、患者数の減少が非常に弱かった国もあります。たとえば、22か国の中で、カンボジアでは、この10年間に結核の有病率が約50 %減少しました。一方、ブラジルと中国は過去20年にわたって結核患者数がゆっくりと減少し続けている国となっています。

症状と診断

 活動性肺結核の一般的な症状は、ときに血痰を伴う痰や咳、胸痛、脱力感、体重減少、発熱、寝汗です。

 多くの国では、結核の診断は、依然として長く使われてきた顕微鏡による喀痰塗抹検査と呼ばれる検査に頼っています。訓練を受けた検査技師が、顕微鏡で喀痰検体中に結核菌が存在するかどうかを検鏡しています。診断結果はその日のうちにできます。このような検査を3回行います。しかし、この検査では、菌体数の少ないタイプの結核を数多く発見することはできません。

 多剤耐性結核(「多剤耐性結核」の項を参照)やHIVに関連した結核の診断は、もっと複雑になります。現在、結核の診断と薬剤耐性の有無の確認を非常に効果的に実施できる2時間タイプの新しい検査が多くの国で普及しつつあります。

 小児の結核は、特に診断が困難です。

治療

 結核は治療可能な疾患です。活動性で薬剤に耐性のない結核は、通常4種類の抗菌薬による6か月のコースで治療されます。加えて、医療従事者または訓練を受けたボランティアによる、患者への情報提供、患者管理、患者支援が行われます。患者への管理と支援がなければ、患者は薬の服用を遵守することが困難となり、結核を広げる怖れがあります。結核患者の大部分は、薬が提供されて、適切に服用すれば治ります。

 2000年から2013年の間に結核の診断と治療を通して、3,700万人の生命が救われたと推計されました。

結核とHIV

 必ずしも活動性結核までには至らないものの、2013年には世界のHIV感染者のうち、少なくとも3分の1が結核菌に感染しています。HIVと結核とに重複感染している患者は、HIVに感染していない人に比べて、活動性結核を発症するリスクが26~31倍高くなるようです。

 HIVと結核の重複感染は致命的で、双方の疾患が他方の疾患の進行を早めます。2013年に約36万人がHIVに関連した結核で死亡しました。重複感染している患者の約25 %は結核によるものです。2013年のHIV陽性者のうち110万人が新規の結核患者であったと推計されており、そのうちの78%がアフリカに住んでいました。

 WHOは、感染と疾病の予防と治療に対する行動を含む、死者の数を減らすための結核とHIVとの共同活動12項目の取組を推奨しています。

多剤耐性結核

 数十年もの間、標準的な抗結核薬が使用されており、薬剤への耐性が進んでいます。単一の抗結核薬に耐性を持つ菌株は、薬剤耐性の調査が行われているすべての国で記録されています。

 多剤耐性結核(MDR-TB)は、少なくとも、最も強力な第一選択薬(標準療法に使用される薬)であるイソニアジドとリファンピシンに耐性を示す結核菌による結核です。

 MDR-TBが生まれる主な原因は不適切な治療です。抗結核薬の不適切な使用や誤った使用のほか、品質の劣った薬剤の使用は、いずれも薬剤耐性の原因になります。

 耐性菌による結核の場合、従来の第一選択薬による治療に反応しません。MDR-TBは、第二選択薬を使用することにより治療が可能となります。しかし、第二選択薬による治療は、選択肢が限られ、推奨された薬が常に使用できるとは限りません。長期投与が必要となる化学療法(最大2年間の治療)は、患者に重い副作用を引き起こすことがあり、医療費も嵩みます。

 場合によっては、薬剤耐性をさらに進ませることになります。超多剤耐性結核(XDR-TB)は、使用できる薬剤が極めて少なく、第二選択薬の抗結核薬のうち最も効果的な薬剤も含む複数の薬剤に抵抗性を示す結核です。

 2013年には、全世界で報告された肺結核患者のうち約48万人がMDR-TBでした。そのうちの半数以上は、インド、中国、ロシア連邦で発生していました。MDR-TBの約9.0 %がXDR-TBであったと推定されています。

WHOの対応

 WHOは結核に対処するために、6項目の中核的な取組みを進めています。

  1. 1.結核に関する重要な問題に世界的なリーダーシップを発揮すること
  2. 2.結核の予防、治療、制御のための根拠に基づく政策、戦略、標準対処法を推進し、それらの実施状況を監視すること。
  3. 3.加盟国に技術的な支援を行い、変化を促進し、持続可能な対応能力を構築すること。
  4. 4.世界における結核の状況をモニタリングすること。また、結核の治療、制御、財政状況に関する進展を評価すること。
  5. 5.結核に関する研究課題をまとめ、研究を奨励し、貴重な知見を翻訳し、普及すること。
  6. 6.結核対策のために関係機関との協力を促進し、参加していくこと。

WHOがすべての国と関係機関に実施を推奨している、ストップ結核戦略は、国レベルや地域レベルで官民が以下のように行動することで結核を劇的に減らすことを目指しています。

  1. 1.質の高いDOTSの発展と強化を続けること。DOTSは以下の5項目の要点から成る総合対策です。
    1. a.適切で継続性のある財政基盤をもつ確実な政策的な委託
    2. b.信頼性が確保された細菌学的検査による患者の早期発見と診断の確保
    3. c.患者管理と患者支援を一体化させた標準治療の提供
    4. d.効果の高い薬剤の供給と管理の確保
    5. e.実績と効果の監視と評価
  2. 2.結核とHIVの重複感染者、MDR-TB患者、社会的弱者のニーズへの対応。
  3. 3.プライマリ・ヘルス・ケアに基づく健康管理システムの強化への貢献。
  4. 4.すべての医療の提供に関与すること。
  5. 5.協力して結核患者と地域社会に活力を与えること。
  6. 6.研究が容易にできる環境を作り、推進すること。

出典

WHO.Tuberculosis.Fact sheet N°104.Updated October2014.
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs104/en/