野生型ポリオの国際的拡大に関する国際保健規則(IHR)緊急委員会第5回会議でのWHO声明

2015年5月5日 WHO (原文[英語]へのリンク

国際保健規約IHR(2005)に基づき、2014-15年にかけての野生型ポリオの国際的感染拡大に関する第5回緊急委員会が、事務局長の要請により招集され、2015年4月24日にテレビ会議を使って開催されました。以下のIHR加盟国、アフガニスタン、パキスタンは、前回委員会が開催された2015年2月17日以来の一時勧告の実施状況の更新資料を提出しました。

委員会は、ポリオの感染拡大が現在も国際的な懸念に関する公衆衛生緊急事態(PHEIC)の状態にあることを宣言してから一年近くが経ち、事務局長によって発行された一時勧告に対する各国の取り組みが力強い進展をみせ、讃えるべき達成をみせたことを取り上げました。アフリカでは8か月にわたり野生型ポリオウイルス患者がひとりも発生しておらず、パキスタンとアフガニスタンでは2015年になって報告された患者数が、2014年の同時期と比べて、半数以下に減ったことが報告されました。2014年10月以降、パキスタンからの感染輸出はなく、見過ごされ、対策を受けられていない子どもの数はパキスタンでは減り続けています。対策を受けられない子どもの数は連邦直轄部族地域で推定30万人から5万人に減りました。パキスタンは、一時勧告を履行し続けており、毎月平均37万人の国際旅行者に対して出発前に健康管理施設や出発各地での出国前予防接種を実施しています。

しかし、委員会は、2014年遅くに発生したアフガニスタンから隣国パキスタンに感染輸出された新たな3つの感染事例を取り上げ、野生型ポリオウイルスの国際的な感染拡大が続いていることにも言及しました。パキスタンの3例から見つかったポリオウイルス分離株は、最近パキスタンから感染輸出されている株よりもアフガニスタンで流行している株に深く関係していました。これらのウイルス株のうち2つは、パキスタンから(2014年9月に)感染輸出されアフガニスタンの国境地域で流行しており、3番目のウイルス株は1年以上にわたってアフガニスタンだけで流行している株と関係していました。このように、アフガニスタンで感染伝播が確立されているポリオウイルス株がパキスタンに感染輸出されていることの証拠が強く示されています。

委員会は、パキスタンとアフガニスタンでは人々が国境付近を頻繁に行き来するので疫学上はひとつの感染地域を形成し、そこでは双方向でポリオウイルスが行き来していると考えることで一致しました。国境でのワクチン接種とサーベイランス活動に対する協調関係とその質の強化はこの国際的な感染拡大を減少させる上で重要です。さらに、両国は、繰り返し両国の間で起きている感染の受け渡しによるこのような国際的な感染拡大を防ぐために、同時にポリオウイルスの感染伝播の遮断を成し遂げる必要があります。

パキスタンでは、非流行期に発生する患者が減少して起きており、撲滅プログラムの遂行能力は向上しています。それでも、これまでに22人の患者のうち21人(世界の患者の95%)までがパキスタンから報告されています。パキスタンからの野生型ポリオウイルスの国際的な感染拡大に関連する鍵となる要因は、改善はされているものの、2月17日の第4回緊急委員会以降、十分に変わったとは言えません。パキスタンからの新たな感染輸出のリスクは、非流行期にもこの国では感染伝播が継続したこと、連邦直轄民族地域の感染地域で対策を受けられない5万人に近い子どもがいること、5月に始まる差し迫った流行期に入ることとともに、残されています。アフガニスタンでは、報告される患者の数は減少しており、国境を跨いでのワクチン接種活動が、特に南東部地域で、強化されています。しかし、慢性的に、南部と東部地域の一部には見過ごされ対策を受けられていない人々のいる地域が残っています。

賞賛に価するような進展があるにもかかわらず、パキスタンとアフガニスタンでの国際的な感染拡大へのリスクが続くことの意味は、(ポリオ撲滅に対する)懸念として残ります。これは、世界でポリオを撲滅する重大な段階です。これまでに苦労をして築き上げきた成果が、紛争の勃発と複雑な人道上の緊急事態の中で、進展を脆いものに変え、予防接種体制を絶え間なく破壊することで、簡単に失われかねません。

他の加盟国のうちの感染国からの新たな国際的な拡大のリスクは減っているにもかかわらず、国際的な感染拡大の可能性は、紛争の影響を受ける地域、特に、中東と中部アフリカ地域で紛争が拡大することによって、悪化に向かう世界的な脅威として残ります。紛争の影響を受ける国々では、ポリオの流行発生に対して脆弱となり、発見が難しくなり、挑戦的な、感染制御に費用を要すものです。

委員会はポリオの感染拡大が、まだ国際的な懸念に関する公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)にあること、修正されるとおり、さらに3か月間一時勧告を延長することを勧告することを全会一致で合意しました。委員会は、この結論に達する中で以下の要因について考えました。

  • 非流行期での感染を含む、2014年全体を通して持続する野生型ポリオウイルスの国際的な感染拡大
  • 世界で最も重要でワクチンでの予防が可能な疾患の一つを地球から撲滅することに失敗することのリスクとその結果としての費用
  • .野生型ポリオウイルスに対して予防接種とサーベイランスを向上させるために国際的に協調して対策を続けることの必要性、および国際的な感染拡大の阻止、および2015年5月/6月における流行が高まるシーズンの開始に伴う新たな感染リスクの軽減
  • 紛争や複雑な緊急事態によって予防接種体制が崩壊された国が増えることで、さらに国際的な感染が拡大することの深刻な結果。これらの不安定な地域の人々はポリオ発生に対してこれを制御することが極めて難しく感染に対し脆弱です。
  • ポリオの国際的な感染拡大が領土を越えて発生することに対する地域でのアプローチと協力体制の重要性

委員会は、真摯に、すべての国が一時勧告に対する対策を講じ、一時勧告の対象となった国に対して委員会が以前に作成した評価基準に基づいて進捗状況を再検討している努力を高く評価しました。(また)、委員会は、一時勧告の履行が全ての感染発生国において不十分であることに懸念を示しました。そのうちのいくつかの国は地域紛争とその他の不安定性や脆弱性による影響を受けています。委員会は、下記のリスク分類に基づいて、野生型ポリオウイルスの国際的な感染拡大のリスクを減らす目的のために以下の助言を事務局長に提出しました。

  • 現在も野生型ポリオウイルスを感染輸出している国
  • 野生型ポリオウイルスの発生があるが現在は感染輸出のない国
  • もはや野生型ポリオウイルスの感染のない、しかし国際的な感染拡大を受けやすい国

現在も野生型ポリオウイルスを感染輸出している国

パキスタン(最後の感染輸出は2014年10月21日)とアフガニスタン(同、2014年10月22日)には以下のことの実行が求められます。

  1. 1.もしまだならば、国又は政府のトップレベルが公式に、ポリオウイルス伝染の阻止が国家の公衆衛生上の緊急課題であることを宣言すべきです。その旨の宣言が既に行われているならば、この緊急課題が継続された状態にあることを宣言すべきです。
  2. 2.全ての住民と4週間以上の長期滞在者が国際渡航の12か月前から4週間前までに1回のポリオ生ワクチン(OPV)又は不活化ワクチン(IPV)の接種を受けていることを確認すべきです
  3. 3.4週間以内に急な旅行を行う人々で、12か月前から4週間前までにポリオ生ワクチンもしくは不活化ワクチンを接種していない人は、出発までに1度はポリオワクチンを接種していることを確認すべきです。これでも、有益性が上回ります。特に、これは頻繁に旅行する人に当てはまります。
  4. 4.そのような渡航者には、IHR(2005)別添6で明記された国際接種・予防証明書がポリオワクチンの接種記録としてまた接種の証明書として発行されていることを確認すべきです。
  5. 5.適切なポリオ予防接種の書類を欠いたままではいかなる住民も国際渡航を出発の時点で制限すべきです。これらの勧告は、渡航の手段(例えば、陸、空、海)に関係なく、すべての出発地から国際渡航する者に適用されるべきです。
  6. 5.パキスタンとアフガニスタンとの国境を越える人々の移動は野生型ポリオウイルスの感染輸出を助長し続けることを認識しておくべきです。疫学的にひとつの感染地域と考えられる両国は、国、地域、地方レベルで協力体制を確実に向上させながら、実質的には、国境を越える旅行者とハイリスクの国境に住む人々に対してワクチン接種率を高めるために、アフガニスタンとの協力体制を改善することによって国境での努力を強化すべきです。両国は長年にわたり主要な国境検問において永続的な予防接種チームを維持してきました。国境での努力の協調体制の改善には、より密接な管理、国境通過点での接種ワクチンの品質の監視とともに、国境を越えた後にワクチンを接種していないと識別される旅行者の割合を追跡することを組み入れる必要があります。
  7. 6.これらの対策は以下の基準が達成されるまで継続されるべきです:(i)新たな感染輸出がなく、少なくとも6か月を経過すること、(ii)すべての感染地域やハイリスク地域で質の高い撲滅活動が完全に実施されたことの証拠となる書類を提出すること、そのような書類が提出できない場合には、少なくとも12か月間は新たな感染輸出なく経過するまでこれらの対策を継続すること。
  8. 7.旅行が制限された住民の数と出発の地点で適切な予防接種の書類を提供した旅行者の数を含め、国際渡航での月別実施件数に関する一時勧告の報告書を事務局長に引き続き提供することが求められています。

野生型ポリオウイルスの発生があるが現在は感染輸出のない国

カメルーン(最後の感染者は2014年7月9日)、赤道ギニア(同、2014年5月3日)、ナイジェリア(同、2014年7月26日)、ソマリア(同、2014年8月11日)、イラク(同、2014年4月7日)には以下のことの実行が求められます。

  1. 1.もしまだならば、国又は政府のトップレベルが公式に、ポリオウイルス伝染の阻止が国家の公衆衛生上の緊急課題であることを宣言すべきです。その旨の宣言が既に行われているならば、この緊急課題が継続されていることを宣言することが必要です。
  2. 2.全ての住民と4週間以上の長期滞在者は国際渡航の12か月前から4週間前までに1回のポリオ生ワクチン(OPV)又は不活化ワクチン(IPV)の接種を受けることを推奨すべきです。4週間以内に急な旅行を行う人々には、出発までに1度はポリオワクチンを接種することを推奨すべきです。
  3. 3.そのようなワクチン接種を受けた旅行者はポリオワクチン接種状況の記録を適切な文書で所有していることを確認すべきです。
  4. 4.ポリオウイルスの早期発見のためのサーベイランスを強化するために、国境を越えた協力体制を強化し、実質的に難民、旅行者、国境を越える集団でのワクチン接種率を高めることが必要です。
  5. 5.これらの対策は以下のような基準が達成されるまで継続されるべきです:(i)国内のどのような検体からも野生型ポリオウイルスが少なくとも6か月間検出さずに経過すること、(ii)すべての発生地域とハイリスク地域で質の高い撲滅活動が完全に実施された証拠文書を提出すること。これらの対応の証拠文書が提出できない場合には、少なくとも12か月間は新たな感染輸出なく経過するまで対応を継続すること。
  6. 6.感染伝播の証拠なく12か月間を終えたときには、一時勧告を実行するために取られた対策の報告書を事務局長に提供することが求められています。

委員会は、イラクと赤道ギニアがそれぞれに2015年5月7日と6月4日に、これらの日まで野生型ポリオウイルスを検出することがなかったならば、「もはや野生のポリオウイルスの感染のない、しかし国際的な感染拡大を受けやすい国」の基準を満たすことになると言及しました。

もはや野生のポリオウイルスの感染のない、しかし国際的な感染拡大を受けやすい国

エチオピア(最後の感染者は2014年1月5日)、シリア(同、2014年1月5日)、イスラエル(最後の陽性検体検出日、2014年3月30日)。イラクと赤道ギニアは、2015年5月7日と6月3日までにさらなる患者が発生しなければ、この基準を満たすことになり、以下のことが求められます。

  • 未発見の野生型ポリオウイルスの伝染を減らすために、特に、ハイリスクの移動民、感染を受けやすい集団において、サーベイランスの質の強化を図るべきです。
  • 国内避難民、難民、その他の感染を受けやすい人々にあたる移動集団や越境集団でのワクチン接種を確実に実行する努力を強化すべきです。
  • 野生型ポリオウイルスの早期発見とハイリスク集団でのワクチン接種を確実に実行するために地域協力や国境間連携を強化すべきです。
  • 質の高いサーベイランスとワクチン接種活動を十分に盛り込んだ書類に基づいた対策を継続すべきです。
  • 感染伝播の証拠なく12か月間を終えたときには、一時勧告を実行するために取られた対策の報告書を事務局長に提供することが求められています。

全ての感染国に対する追加の検討事項

委員会は、この重要な時期にすべての感染国に最適なサポートを提供することをポリオ撲滅に対する世界の支援者に要請しました。委員会は、変わりゆく状況、特に感染が高まるシーズンの開始が差し迫っている中で、国際的な感染拡大のリスクと、これらのリスクを軽減するための対策に対して、定期的な見直しとリスクの評価が確かに実行されていることを助言しました。この助言、およびアフガニスタンとパキスタン並びに現在入手可能な情報から作成された報告書に基づき、事務局長は委員会の評価を受け入れ、2015年5月5日に国際的な懸念に関する公衆衛生緊急事態(PHEIC)の状態が続いていると判断しました。事務局長は、委員会によって改定されたとおり、2015年5月5日から有効の、野生型ポリオウイルスの国際的な感染拡大を低下させるために国際保健規約(IHR)の下、一時勧告として「現在、野生型ポリオウイルスを感染輸出している国」、「野生型ポリオウイルスの感染があるが、現在は感染輸出していない国」、「もはや野生のポリオウイルスの感染はないが、国際的な感染拡大を受けやすい国」に対して、委員会の勧告を推奨しました。事務局長は、委員会メンバーと専門家アドバイザーにその助言に対する謝意を表明し、これからの3か月間での現状におけるそれらの再評価を依頼しました。

委員会は、新たな感染輸出を伴わない期間、野生型ポリオウイルスの新たな患者の発生もしくは環境内でのウイルス分離に対する観察期間の評価について、以下の更新および申請を行っています。

もはや感染輸出のない(新たな野生型ポリオウイルスの検出がない)国:

  • 野生型ポリオ感染者:最新の感染輸出による最初の症例が発症した日に加えて、患者発見、調査、検査確認と報告期間を考慮した1か月を加えた日から12か月。
  • 感染輸出された野生型ポリオウイルスの環境下からの分離:新たに感染輸出を受けた国で環境下での最初の陽性検体の採取に加えて、検査確認と報告期間を考慮した1か月を加えた日から12か月。

もはや感染のない(新たな野生型ポリオウイルスの検出のない)国:

  • 野生型ポリオ感染者:最新の症例が発症した日に加えて、患者発見、調査、検査確認と報告期間を考慮した1か月を加えた日から12か月。
  • 野生型ポリオウイルスの環境下からの分離:最新の環境下での陽性検体の採取に加えて、検査確認と報告期間を考慮した1か月を加えた日から12か月。

出典

WHO.Media center news, Statements. 5 May 2015
Statement on the5th IHR Emergency Committee meeting regarding the international spread of wild poliovirus.
http://www.who.int/mediacentre/news/statements/2015/polio-5th-statement/en/